2011年5月23日(月)「しんぶん赤旗」

東電「工程表」原発事故処理へ課題こんなに

事態深刻 原子炉の冷却は


 東京電力が17日に発表した、福島第1原発事故の収束に向けた課題や目標を示した「工程表」改訂版。原子炉冷却の方法は見直したものの、目標達成時期については変更しませんでした。しかし、達成の裏づけはどうか、さまざまな課題がみえてきます。


 「大きく変更しなければいけないような状況の変化はなかった。全体的にほぼ考えた通りに進んでいる」

 東電の武藤栄副社長は同日の会見でこう述べました。しかし楽観的な自己評価とは裏腹に、事故処理の最大の課題である原子炉の冷却方法の見直しを迫られるなど、事態は深刻です。

広範囲に循環

 原子炉の安定的な冷却へむけて、これまで原子炉格納容器を原子炉圧力容器ごと水で満たす“水漬け”作業を進めていました。格納容器からの水漏れなどが当初から予想されていましたが、この1カ月で懸念どおりの形になりました。

 東電は結局、作業を見直して、タービン建屋などにたまった大量の汚染水を使う「循環注水冷却」を実施する新たな冷却方法を発表しました(図)。汚染水をポンプでくみ出し、水浄化システムで放射性物質の低減、塩分処理をしたうえで、その水を冷却水として再び原子炉に注水するという方式です。

 本来なら、冷却水は原子炉とタービンとを循環するもの。今回、破損した核燃料で汚染された水が、1〜3号機の建屋地下や周辺施設を含めた屋外の広い範囲を循環することになります。汚染水の漏えい防止が万全にされるかが課題です。

注水のジレンマ

 原子炉停止から2カ月以上たった現在も、圧力容器の底に溶融・落下したとみられる核燃料からは「崩壊熱」が出続けています。東電によると、1号機で毎時2・2トン、2、3号機では毎時3・5トンの水を蒸発させる発熱量。毎日計500トンを注水しており、その一部が新たな汚染水となっている状況です。

 現時点で、1〜4号機の建屋地下などにたまっている高濃度の汚染水の総量は9万トン余り。年末までに約20万トンになると東電は推定しています。2、3号機からは集中廃棄物処理施設への汚染水の移送が進められていますが、現在のペースだと、2号機の移送先は5日後に満杯、3号機は9日後に満杯になる計算です。

 東電は、汚染水の浄化システムを6月にも導入し、循環注水冷却の実現につなげたいとしていますが、汚染水の問題で綱渡りの作業が続くとみられます。

 これまでに汚染水の移送手順のずさんさから、海への流出が起こっており、今後も、海や地下水への汚染拡大が懸念される事態は変わりありません。

 今回ようやく地下水の汚染拡大の防止を課題にあげ、地下に深さ30メートルの遮水壁を設置する検討を始めました。

作業阻む高線量

 1〜3号機ではこの間、原子炉建屋内に作業員が入り、状況確認が進んでいます。

 しかし、緊急時の被ばく限度である250ミリシーベルトを8分間で超える、1時間当たり2000ミリシーベルトという高い放射線量も測定されています。

 今後、安定的な冷却には、原子炉への注水配管の工事などが必要ですが、工事予定場所で同700ミリシーベルトが測定され、計画の見直しが迫られたり、作業を阻む大きな障害となっています。

 新たに打ち出した循環注水冷却を実現するにも、長さ数百メートル〜1キロメートル以上の配管が3系統できることになり、そこを高濃度汚染水が流れるため、作業の困難が予想されます。

 東電は、放射性物質の付着や吸入を防ぐタイプの防護服だけでなく、タングステン製ベストなどガンマ線を低減する重装備も活用するとしていますが、作業員の被ばく管理は重大な課題です。

 また夏を迎え、高線量だけでなく熱中症などの対策も重要です。とくに2号機原子炉建屋内は高温・高湿度で過酷な環境です。先日、作業員が死亡したさいには、医療体制の不十分さが問題になりました。24時間の医療体制構築が急がれます。

甘い見通し

 東電の事態にたいする想定の甘さや、事故データの公表の遅さも問題です。

 早くから指摘されてきた核燃料の溶融・落下を今月になってようやく認めるなど、最悪を想定してさまざまな策を打つ構えがあるのかが疑われます。

 また、海などの環境汚染についても、ヨウ素、セシウムの3核種にもとづく評価が中心です。東電は「モニタリングの強化」を繰り返していますが、魚介類の調査やストロンチウムなど人体への影響の大きい核種についての本格的な調査は手がついていません。

 一方、地震発生当時の原子炉の状態を示すデータや運転日誌などを、2カ月もたってから公表するなど、情報公開の遅れなどは国民の不信感を招かざるを得ません。

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