2011年3月21日(月)「しんぶん赤旗」

対リビア軍事攻撃

平和的手段尽くさず攻撃

戦争の泥沼化憂慮


 緊迫した内戦状況の続くリビアにたいし、米英仏や一部アラブ諸国は19日午後(日本時間20日未明)、軍事攻撃を開始し、事態は外部から介入しての戦争状態という新しい局面に入りました。国連安保理は17日、即時停戦を求め、市民の保護のために「必要なあらゆる措置」をとることを国連加盟国に認める決議1973を採択しており、軍事攻撃はこの決議にもとづくものとされています。しかし、平和的手段を尽くすこともなしに開始された軍事攻撃は、民間人を巻き込んで大規模化し、内戦の一方の側に立っての軍事介入となる危険を強くはらんでいます。

憂慮される戦争状態の大規模化と長期化

 米英仏軍の軍事攻撃をうけてカダフィ大佐は19日、徹底抗戦と報復攻撃をよびかけました。一方、米英仏など「有志諸国」の側は、現在の攻撃は「多段階にわたる作戦の第一段階」(米軍副司令官)と位置づけ、空母の派遣、周辺地域への戦闘機や強襲揚陸艦の配備など戦力増強を急いでいます。国連安保理でドイツなどが述べたように、戦争状態が大規模化、長期化すれば、民間人や民間施設に多大な犠牲が出る恐れがあります。

 軍事介入は、市民の保護という同決議の目的を超えて、政権打倒をも視野にいれた介入に発展する危険をもはらんでいます。それは、人民の自決権という国際社会の基本原則を覆す最悪の事態につながりかねません。1990年代のソマリア紛争では、国連の要請で米軍を中心に派遣された多国籍軍が内戦の当事者となり、多国籍軍が撤退した後も20年間にわたって中央政府が事実上ない状態が続いてきました。このように内戦への外部からの介入が収拾のつかない混乱をもたらす事例は少なくありません。

問題はらむ国連決議

 この間の国際社会の対応には、平和的解決の努力がかならずしも尽くされてこなかったという大きな問題があります。

 国連安保理は17日の決議に先立って2月26日に決議1970を全会一致で採択。カダフィ政権に対する武器禁輸、政権幹部らの渡航禁止、国際刑事裁判所への付託など平和的手段を尽くすことを求めました。また、「危機への多面的な対応」のため国連特使も急きょ派遣されました。しかし、現地に飛んだ特使からの報告も待たず、禁輸などの効果を見定めることもないまま、安保理は17日、決議1973を賛成10、反対0、棄権5で採択しました。

 決議1973は、「停戦と、暴力および市民へのあらゆる攻撃と虐待の完全な停止」の即時実行を求め、「ベンガジをはじめリビアで攻撃の脅威にさらされている市民および市民居住地を保護する」ために「必要なあらゆる措置」をとることを国連加盟国に認めました。また、リビア上空全体を飛行禁止区域とし、それを守らせるために「必要なあらゆる措置」をとることを認めています。

 この決議を採択した安保理では、「決議の実施が暴力の即時停止と市民の保護につながるのか疑義がある。逆に、緊張を激化させ、害の方が大きいという結果をもたらしかねない」(ブラジル)など、大きな懸念が表明されました。

 武力行使する諸国は、国連決議で正当化していますが、その軍事行動には枠組みがなく、責任の主体も不明確で、国連のコントロールがきかなくなる危険があります。

不十分だった停戦の追求

 19日にパリで「有志諸国」の緊急首脳会議が開かれ、カダフィ政権側に暴力行為の即時停止や、武力侵攻した地域からの撤退などを要求しました。これに対し、同政権側は、反政府派が拠点としているベンガジへの侵攻は継続している模様ながらも、クーサ外相が「停戦を順守している」として潘基文(パン・ギムン)国連事務総長に停戦監視団の派遣を要請しました。しかし、この要請が真剣に検討された様子はありません。

 軍事攻撃の開始は、問題のある安保理決議すらも逸脱し、内戦の一方の側に立っての軍事介入となり、泥沼化と収拾のつかない混乱をリビアと中東地域に招く恐れがあり、深く憂慮されます。





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