2011年3月9日(水)「しんぶん赤旗」
3歳未満も遠距離通所 保育所送迎事業を考える
安全性に懸念 保育士と話す機会少なく
千葉・流山 市議・新婦人ら現状視察
自宅から離れた保育所に子どもを送迎する、保育所送迎事業が全国に広がっています。待機児童解消の一策として、注目を浴びていますが、その安全性は―。千葉県流山市の徳増きよ子市議と新日本婦人の会(新婦人)のメンバーが視察しました。 (小倉詩穂)
チャイルドシートも1人分だけ
午前7時45分、市内を走る「つくばエクスプレス」の流山おおたかの森駅前にある保育ステーション。保護者に手を引かれた子どもが続々と集まってきました。点呼のあと、エレベーターで、地下の駐車場に集まります。
ルートごとに子どもたちは、3台のバスに次々と乗り込んでいきました。各バスは6〜7の保育所を回り、子どもたちを降ろしていきます。乗車時間は1時間を超えることも。
市の担当者は、「地価が高く、保育所整備がなかなかできないので、対応策として保育所送迎事業を開始した」と話します。
遠距離を理由に
厚生労働省は、「近隣に入所可能な保育所が見つからない児童に対し、自宅から遠距離にある保育所でも通所を可能にする」として、広域的保育所利用事業を実施しています。これにより、送迎バスの購入や運転手・付き添い保育士の賃金、送迎センター実施場所の賃借料の半分が国から補助されるようになりました。各自治体は制度を利用し、保育所送迎事業をスタートさせています。
広域的保育所利用事業の実施要件には、「原則、利用保育所の保育士が保護者から児童を預かること」と書かれています。しかし、流山市ではこの原則が守られず、送迎バスを利用する保護者が、担任の保育士と顔を合わせる機会はなかなかないといいます。
送迎サービスを利用する児童を受け入れている認可保育所の保育士は、こう話します。
「保護者と顔を合わせられないのは、非常に心配。『週に2回は顔を出すようにしてほしい』とお願いしてますが、遠距離に住む保護者の大きな負担になっているようです。保護者の顔を見て話す機会が減り、保育士が家庭での様子をうかがうことが難しくなっています」
送迎バスの仕様は、3歳以上児が利用する幼稚園バスと同じです。ところが、市の担当者は「3歳未満の需要が多い。歩行できる子どもが対象なので、歩行できれば0歳児も利用可能」と話します。バス1台あたりに乗り込む子どもは約25人。最高39人まで乗せられます。
2人の保育士と運転士1人が同乗しますが、チャイルドシートは1人分だけ。イスに座っても、床に足がつかず、急ブレーキの際、自ら支えられない子どもが何人も見受けられます。
保育送迎を利用する3歳の男の子の母親は、「便利ですが、子どもの安全のことは心配です。でも、気にしていたら、預けられないですから」と顔を曇らせます。
児童の視点欠く
ことし1月、小田桐たかし、徳増きよ子両市議は、厚労省に保育送迎事業の実施要件について確認しました。厚労省の担当者は、「バスの中は保育ではないので、児童何人につき何人以上の保育士をつけるという最低基準はない」と話し、最後にこう付け加えました。「0〜3歳未満児が何人も乗ることは想定していません」
小田桐市議は、「この事業には子どもの視点が欠けています。親の手から離れた時点で、その子は保育に欠ける子。バスの中は保育ではないというのは制度矛盾です」と指摘。「3歳未満児の利用が多く、バス内の基準もない。道路交通法施行令違反も疑われ、事故が起きてからでは遅い」と警鐘を鳴らします。
待機児解消せず
流山市は、「母になるなら流山市」という宣伝をうって、子育て世代を他の自治体から呼び込んでいます。その一番の“売り”が、保育ステーションです。
しかし、保育ステーションは、05年に開通したつくばエクスプレス沿線の新興地域に2カ所設置されているだけで、他地域の待機児解消にはつながっていません。
また、新興地域外の公立保育所を「耐震化のため」として閉鎖する方針も掲げています。市の待機児童数は昨年末の時点で356人にふくれあがりました。
小田桐、徳増両市議は2月23日、こうした問題を市議会で追及。両市議は、「利用児童の65%が3歳以下です。乳児へのチャイルドシートは今すぐに徹底すべきです。行政も、親と保育士が直接顔を合わす機会が少ない送迎ステーションの課題を認めました。子どもの安全、保護者の安心、保育の質向上のためには、身近な地域に保育所建設、公立保育所の耐震化・増設こそが根本解決への道です」と話しています。