2011年2月16日(水)「しんぶん赤旗」

シリーズ 安保の異常を考える

全国各地で傍若無人に

米軍機の低空飛行


 「戦争でも始まったのか」「子どもがおびえている」―。群馬県の県都・前橋市などに米軍機が大挙飛来し、低空での旋回飛行を繰り返しています。14日も県庁には55件の苦情や問い合わせが殺到しました。米軍機の低空飛行訓練は今も、全国各地で傍若無人に繰り広げられています。実態をみました。 (榎本好孝)


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(写真)米軍機の低空飛行訓練で標的になった前橋市内の室内競輪場(群馬県庁展望ホールから)

 防衛省が日本共産党の井上哲士参院議員に提出した資料によると、住民や自治体などが各地方防衛局に寄せた「米軍機の低空飛行訓練等に対する苦情」は過去5年間で26都道県にまたがっています。(地図参照)

市街地上空旋回

 訓練内容、被害実態も重大で深刻です。

 群馬県庁舎32階の展望ホール。赤城山や榛名山が一望でき、その裾野から渋川市、前橋市、高崎市などの市街地が広がります。

 この市街地上空に原子力空母ジョージ・ワシントンの艦載機であるFA18戦闘攻撃機などが米海軍厚木基地(神奈川県)から飛来。爆音が数分おきに1〜2時間、不気味に鳴り響きます。

 これら米軍機は、群馬県上空に設定された自衛隊の訓練空域を事実上の専用訓練空域として使い、模擬の地上攻撃訓練などを行っています。FA18のパイロットは県庁のすぐそばにあるドーム型の室内競輪場が標的だと証言しています。

 群馬県平和委員会の小田暁夫事務局長は「前橋、高崎の人口は合わせて約70万人。こんな都市の上を低空で旋回し続けるというのは全国でも例のないことですよ。世界でもないと思う」と、その異常さを強調します。

比内地鶏が圧死

 秋田県大館市では昨年2月と6月、ジェット戦闘機の爆音に驚き、名物の比内(ひない)地鶏が鶏舎の隅に折り重なり、大量圧死する事件も起こりました。

 4回の飛来で3軒の飼育農家の合わせて約300羽が圧死。目撃者の一人は、地上約70メートルの高さのところを「ワゴン車の胴体くらいの飛行機がバリバリと迫ってきた」と証言しています。

 防衛省は日本共産党の紙智子参院議員に、6月に低空飛行したのは米空軍三沢基地(青森県)のF16戦闘機だと明らかにしました。

民間空港に進入

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(写真)広島県北広島町上空を低空飛行するFA18戦闘攻 撃機=2010年6月22日(中村英信さん撮影)

 米海兵隊岩国基地(山口県)のFA18などが低空飛行訓練を行っている広島県では、日米両政府の合意(1999年)で必要不可欠なものに限定するとされている週末・休日の飛行が今年度上半期(昨年4〜9月)で49件にも上っています。(県調査)

 鹿児島県の屋久島空港では、米空軍嘉手納基地(沖縄県)のMC130特殊作戦機が夜間、滑走路すれすれを通過し、飛び去っていくロー・アプローチ訓練も行ってきました。これは、政府でさえ「かなり危険を伴うし、基本的に日米地位協定上許容されていない」と述べざるを得ませんでした。(昨年2月25日の衆院予算委第3分科会、岡田克也外相=当時、日本共産党の赤嶺政賢議員への答弁)

自衛隊もできない

 米軍機の低空飛行では、日本の航空法が定める「最低安全高度」以下の“超低空飛行”がしばしば報告されています。

 「最低安全高度」は人口密集地で300メートル、それ以外では150メートルと定められています。政府の説明では、これは主に、ヘリコプターが故障を起こした場合、不時着などの応急措置がとれる飛行高度として設定されたものです。もともと軍用機の低空飛行訓練を想定したものではなく、ジェット戦闘機がそれを守れば安全だという基準ではありません。まして、それ以下の飛行がいかに危険かはいうまでもありません。

 米軍機が危険きわまりない低空飛行を繰り返す背景には、航空法の諸規定が在日米軍には適用されていない問題があります。

 航空法は81条で「最低安全高度」以下の飛行を原則禁止。加えて85条で「低空で飛行を行い、高調音を発し、又は急降下し、その他他人に迷惑を及ぼすような方法で操縦してはならない」と定めています。ところが、米軍機は、在日米軍の法的地位を定めた地位協定の実施に伴う航空法特例法により、これらの規定の適用が除外されています。

 政府の説明によると、自衛隊機が「最低安全高度」以下の低空飛行訓練を行う場合、航空法の規定に従って国土交通大臣の許可を受け、飛行場や演習場など自衛隊施設の上空に限って実施しています。米軍機も、米本国では人口密集地近くでの低空飛行は禁止されています。

 日本で、米軍機だけが低空飛行訓練を全国どこでもおかまいなしにできるというのは、あまりにも異常です。


アフガンでの戦闘を想定

 米軍機の低空飛行訓練は、敵の防空レーダーを破壊して制空権を確保し、その後の軍事侵攻を容易にするのが目的だとされてきました。日本での米軍機の低空飛行訓練も以前は、北朝鮮への侵攻などを想定しているとみられていました。ところが、近年、訓練の重点がイラクやアフガニスタンでの戦闘を想定したものに移ってきたと指摘されています。

 軍事リポーターの石川巌さんは「今のイラクやアフガンの武装勢力はレーダーを持っていない。だから今は、彼らが潜んでいる市街地の監視や、味方地上部隊を援護する訓練をしていると思う」と分析。「空母艦載機が群馬の市街地上空で行っている対地攻撃訓練もその一つではないか。鹿児島や四国でMC130が低空飛行訓練をしているのも、アフガンで山岳地帯に潜伏しているタリバンなど武装勢力を掃討する特殊作戦のためだろう」と指摘しています。

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