2010年10月16日(土)「しんぶん赤旗」

大阪地裁

戦没者妻に不当判決

給付金不支給 国の怠慢追認

原告、控訴へ


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(写真)支援者から花束を贈られた関さん(前列右)野村さん(左)=15日、大阪市

 国の怠慢で受け取れなかった特別給付金の支給を求めて、戦没者の妻の野村香苗さん(91)、関百合子さん(89)が起こした「戦没者の妻特別給付金国賠訴訟」で大阪地裁(揖斐潔裁判長)は15日、2人の請求を棄却する判決を言い渡しました。原告と弁護団は控訴すると表明、訴訟支援の会は「不当判決に抗議する」との声明を発表しました。

 特別給付金は低額な公務扶助料(遺族年金)を補うため10年ごとに国債を支給するもので1963年にスタートした制度。制度を知らず時効扱いされる人が続出しました。

 裁判では、国がすべての受給権者(戦没者の妻)への連絡を怠り、前回受給者にしか請求案内をしなかったことなどの是非が問われました。大阪地裁は、給付金額は多くないとし「発生する被害が重大なものでなく、全受給権者への個別請求指導(連絡)は容易ではない。(連絡の)法的義務があるとはいえない」と述べました。

 原告弁護団の井上直行弁護士は判決後、「国が公務扶助料受給者名簿を使っていれば時効は防げた」と指摘。「判決は、国が(扶助料の)名簿を使わなかった理由にも言及せず、夫の命の代償という特別給付金の性格を把握していない」と批判しました。

 判決直後に報告集会が開かれ、ひきつづきたたかう決意を語り合いました。

 同訴訟を支援する会の佐伯幸一代表世話人は、300人超の会員、1万7000人分を超える署名が集まり、大阪府の12自治体で「時効撤廃」の意見書が可決されるという世論と運動の広がりを強調。「訴えの正当性に依拠してたたかう」と述べました。

 「こうまであっさりと足げにされるとは思いませんでした」という関さんは、「亡くなった夫にこたえるためにも最後までやっていきたい」と述べました。

 平和遺族会の嶋田祐曠代表世話人が、連帯あいさつをしました。

解説

被害者10万人 救済急げ

 「裁判所は原告に向き合うのを避けた」。裁判支援者からそんな声が出ました。訴えを聞けば、その背後にはのべ10万人もの同じ被害者がいるからです。

 特別給付金は申請者にしか支給せず、しかも3年で時効=失効になる制度。当初から支給漏れが懸念されていました。事実、失効者が続出し、国会でも問題になってきました。2007年には時効撤廃法案が議員立法で提出されたけれど審議未了で廃案になっています。

 この間、厚労省が使ったのは、すべての戦没者の妻を把握した公務扶助料名簿ではなく「前回受給者」の名簿。これでは最初から支給漏れを想定し、そのことによって遺族を差別・選別したとしかいえません。

 夫の戦死で生活のすべを失った妻たち。原告の野村さんは婚家をだされ、関さんは行商で命をつなぎ、ともに娘を育てました。

 関さんは法廷で「給付金は削られた夫の命」と訴えました。妻たちの平均年齢は92歳。「国は妻が死ぬのを待っているのか」(訴状)。司法も行政も立法府も、この声に耳を傾けてほしい。(柿田睦夫、浜島のぞみ)


 戦没者の妻特別給付金国賠訴訟 国の怠慢により、「戦没者の妻特別給付金」を受給できなかったとして損害賠償を求めた訴訟。原告は戦没者の妻で大阪府在住の野村香苗さんと関百合子さんです。被告は国、大阪府、大阪市。

 1963年以降、5回支給されたうち、関さんは4回分で560万円、野村さんは2回分で380万円を受け取ることができませんでした。同様に時効扱いされた人はのべ9万7千人以上にのぼります。

 2009年3月、大阪地裁に提訴。今年7月に結審しました。





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