2010年9月6日(月)「しんぶん赤旗」

比例定数80削減

小選挙区制の害悪いっそう


 菅直人首相(民主党代表)が執念を燃やす衆院比例定数の80削減。同党代表選でも菅首相は「衆議院で80議席、参議院で40議席の国会議員の定数削減について年内に党の方針を取りまとめる」と政見に明記しました。民主党としても2003年総選挙以来、マニフェストに「比例定数80削減」を掲げ続けています。しかし、比例部分の削減論議は、現在の選挙制度の導入の経過に照らしても、選挙制度のあるべき基準に照らしてもまったくなり立たないものです。


大政党本位に民意歪める

 小選挙区比例代表並立制が導入されてから、これまで5回の総選挙(1996年、2000年、03年、05年、09年)が行われました。浮き彫りになったのは、大政党本位に民意を大きくゆがめ、少数政党を排除する小選挙区制の害悪です。

 グラフ(1)は、直近2回の総選挙で民主、自民両党が小選挙区で得た得票率と議席占有率(小選挙区全300議席に対する割合)です。

 05年総選挙で自民党が得た296議席のうち219議席は小選挙区のもの。小選挙区での同党の得票率は47・8%でしたが、議席占有率は73%にもはねあがりました。

 政権交代がおきた09年総選挙でも“4割台の得票で7割議席”となりました。大勝した民主党は小選挙区の得票率は47・4%で過半数に達しませんでしたが、議席占有率は73・7%(221議席)となったのです。

 こうした得票率と議席占有率のズレが生まれるのは、小選挙区制が民意をゆがめる制度だからです。各選挙区で最大得票数の候補者1人しか当選できないため、それ以外の候補者の得票は議席に結びつかない「死に票」となります。「死に票」は、05年衆院選で3300万票(小選挙区投票総数の48・5%)、09年総選挙では3270万票(同46・3%)にのぼります。

 一方、比例代表は180の定数を全国11のブロックに分けているため、大政党に有利ながらも、小選挙区に比べれば格段に民意を反映したものとなっています。

 仮に衆院の総定数(480)を各党の比例票で配分すると、グラフ(2)のようになり、民意をふまえて少数政党の議席も確保されます。

グラフ
グラフ

民主党“一党独裁”状態に

 小選挙区制の弊害が浮き彫りになるなか、民主党が主張する比例定数の80削減が強行されればどうなるでしょうか。

 小選挙区定数300、比例代表定数100となり、総定数に対する小選挙区の比重は62・5%から75%へと一気に高まり、単純小選挙区制に限りなく近づきます。

 各比例ブロックの定数は四国ブロックが6↓3、北海道が8↓4、中国ブロックが11↓6、北陸信越ブロックが11↓6など大幅に減り、民意を正確に議席に反映する比例代表制の長所が大きく損なわれ、大政党に有利な仕組みにほぼ完全に“変質”してしまいます。

 これらの問題は、各党の議席に端的にあらわれます。

 09年衆院選結果で比例定数80削減のもとでの議席を試算すると、民主党は42・41%の比例得票率で、小選挙区も含め衆院議席の68・50%を占め、同党だけで3分の2以上の議席を得ることになります。自民党の議席占有率は比例得票率とほぼ同じ。一方、日本共産党をはじめ他の党は30・86%の比例得票率を得ながら、議席はわずか8%に押し込められます。(グラフ(3))

 3分の2以上の議席を占めれば、参院で法案が否決されても、民主党単独で衆院で3分の2以上で再議決・成立させることが可能となり、まさに“一党独裁”状態となってしまいます。

グラフ

“虚構の多数”で悪政次々

 「消費税など国民につらくて苦しいことを訴えるのが選挙制度改革の本質」。いま自民党政調会長を務める石破茂衆院議員は1993年当時の国会で小選挙区制導入の狙いをこう述べ、細川首相(当時)も「まったくその点は同感だ」と答えました。国民に痛みを強いる政治をすすめるうえで、それに反対する声を締め出すのが小選挙区制導入でした。

 表は、この10年間に政権与党が国会で強行した主な法律や政策です。なかでも「聖域なき構造改革」を掲げて2001年に小泉政権が誕生して以降、医療・介護・年金の大改悪や労働法制の規制緩和、自衛隊の海外派兵などが急速に推し進められました。

 05年総選挙は小選挙区制の“虚構の多数”の害悪を劇的に示しました。小泉政権は郵政問題一本に争点をしぼるという国民を欺く手法をとり、自公は衆院議席の3分の2を超える327議席を獲得。政権退場となる09年総選挙まで「与党3分の2議席」を使って国民が反対する法案を強行してきました。福田、麻生両政権下では実に9回も再議決が強行されています。

表
拡大図はこちら

共産党 民意反映の制度に

 日本共産党は、比例定数の削減は議会制民主主義を根底から覆す問題だとして、断固反対し、比例定数削減反対の一点で一致する、すべての政党、団体、個人に日本の議会制民主主義を守るための共同のたたかいをよびかけています。同時に、「国民の声を反映する民主的選挙制度とは何かを正面から議論すべき」(志位和夫委員長)だと考えています。

 選挙制度のよしあしを測る最大の基準は、民意を正確に議席に反映するかどうかです。この立場から日本共産党は、衆院選挙制度について主権者・国民の意思を正確に反映できない最悪の選挙制度である小選挙区制を廃止し、比例代表など民意を反映する選挙制度に改めるよう提案しています。

 また政党助成金の撤廃、選挙供託金の国際水準なみへの引き下げ・選挙活動の自由化などを求めています。


導入の経過からも成り立たず

「比例で民意を反映」と約束

 現在の衆院の選挙制度である小選挙区比例代表並立制は、「金権腐敗をなくす政治改革」を口実に、「非自民」の細川護煕内閣が1994年に導入しました。

 そもそもの政府案は、小選挙区250、全国区の比例代表250という内訳でしたが、細川首相と野党だった自民党の河野洋平総裁との「修正」協議で、小選挙区300、全国11ブロックの比例代表200へと、比例部分が大幅に切り縮められてしまいました。

 日本共産党は当時から「国民の民意が議席に正しく反映する、これが選挙制度の最大の基準だ」(志位和夫書記局長=当時)と主張。小選挙区比例代表並立制は3割台、4割台の得票率で、6割もの議席を占めることになるとの試算も示し、民意をゆがめ、国民多数の意思を切り捨てると批判しました。

「民意集約」を批判

 政府は「小選挙区によって民意の集約を図っていく、比例制によって多様な民意の反映を図っていく、(民意の)集約と反映が相まって、健全な議会制民主主義が実現される」(細川首相)などと、「民意の集約」論を持ち出してきました。

 それにたいしても、日本共産党は「結局、国民の少数の支持しかなくても国会で多数を握り、政権をつくれる。少数の支持しかなくても政権をにぎりつづけようというのが民意の集約論だ」(志位氏)と批判。「代表民主主義の原点に立って、正確、正当な選挙によって国会が選出されることが憲法の要請」だと主張しました。

 政権選択に向けた「民意の集約」としての小選挙区制をあくまでごり押しする一方で、細川首相も、「確かに小選挙区というのは、いわゆる『死に票』などが多いというようなことが言われておりますが、その『死に票』などを補うということで今度の改正案におきましては比例制度を加味したわけであります」(94年1月10日、参院政治改革特別委員会)と答弁。小選挙区の負の部分と、多様な民意を国政に反映させるという比例代表の役割を認めざるを得ませんでした。

比例部分切り縮め

 実際には、細川首相が小選挙区と比例制と半々で「相補う」とした並立制は、自民党との「修正」で比例部分が200に減り、その後、180にまで削られました(2000年)。その結果、日本共産党が一貫して主張してきた通り、民意をゆがめ、“虚構の多数”をつくりだすという小選挙区制の害悪はいよいよあからさまとなりました。

 細川氏や、細川内閣で首相特別補佐を務めた田中秀征元経済企画庁長官らは最近、比例定数削減を批判する発言(別項)をしています。

細川護煕元首相も批判

 「最初の政府案は小選挙区250、全国区の比例代表250でしたが、法案成立時は小選挙区300、ブロック制の比例代表200。いまは300と180。だんだん二大政党制に有利になっています」「(民主党の比例代表80削減案について)それはよくない」「私は選挙制度は中選挙区連記制がいいとずっと思っていました。日本人のメンタリティーからすれば、小選挙区で『白か黒か』という選択をし、敵対的な政治になるのは好ましくない」(「朝日」09年8月9日付)

田中秀征元経済企画庁長官

 「比例定数の削減は容易だが、これは制度の根幹理念に抵触する。単に『政治の無駄使い排除』の政策目的のためにすることは許されない」「菅首相は、自ら93年の細川護煕政権で、小選挙区250、全国比例250の“並立制”を推進したではないか。比例定数の大幅削減は“並立制”の根本理念に反するものだ」(「ダイヤモンド・オンライン」10年8月5日付)


 小選挙区比例代表並立制 衆院議員の総定数480を、1選挙区から1人の議員を選ぶ小選挙区選挙(定数300)と、政党の得票に応じて議席を配分する比例代表選挙(同180)という二つの選挙から選ぶ制度。比例代表は全国11にわけた比例ブロックで選びます。有権者は1人2票もち、小選挙区選挙で候補者名、比例代表選挙では政党名をそれぞれ書いて投票します。

小選挙区制は世界の流れにも逆行

 民主党の比例定数80削減の方針は、単純小選挙区制への“一里塚”とでもいうべきものですが、それは世界の流れにも逆行するものです。

 OECD(経済協力開発機構)加盟32カ国中、日本の衆院にあたる下院の選挙区すべてが小選挙区という国は、英、米、仏、カナダ、オーストラリアの5カ国にすぎません。ヨーロッパを中心に約20カ国が比例代表制度を採用し、その他もほとんどが、小選挙区と比例の併用、並立制となっています。

 民主党が議会制度の「モデル」としている英国でも、現在、小選挙区制見直しの動きが出ています。

 英国では従来、保守党と労働党の「二大政党」のいずれかが過半数を占めてきましたが、今年5月の総選挙の結果、どちらも過半数をとれず、保守党と第3党の自由民主党との連立政権が誕生しました。同連立政権は、新しい選挙制度(修正小選挙区制)を提案し、来年5月5日には国民投票が準備されています。

 また、同国はEU(欧州連合)諸国のなかで唯一、EU議会選挙を小選挙区制でおこなってきましたが、1999年の選挙から比例代表に変更しています。





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