2010年8月27日(金)「しんぶん赤旗」

司法修習生の給費制度 存続を

“法律家の卵”守れ 高まる世論

廃止なら月20万円の給与 は「貸与」に


 法律家育成に重要な役割を果たす司法修習生への給費制度が、11月に廃止されようとしています。司法制度の根幹にかかわる事態に「金持ちしか法律家になれなくていいのか」「借金を背負えば、社会的な活動をする弁護士が減る」など、法律家だけでなく広範な市民からも反対の声が上がっています。(矢野昌弘)


 制度の廃止を目前にして、存続を求める世論が急速に盛り上がってきました。日本弁護士連合会(日弁連)が対策本部を立ち上げて以降、数カ月で署名は13万人分(18日現在)が集まり、各地の弁護士会が開いた集会は30回を数えます。

 6月には、若手弁護士や法科大学院生などでつくる「ビギナーズ・ネット」や市民団体などでつくる「司法修習生に対する給与の支給継続を求める市民連絡会」が相次いで結成されました。

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 運動を盛り上げたのは、えん罪や公害、薬害、消費者問題にかかわる市民の声です。

 えん罪・布川事件の桜井昌司さんは、存続を求める集会でこう訴えました。

 「えん罪から43年、多くの弁護士が手弁当で活動してくれた。もし給費制がなくなり、借金を背負う人が増えれば、そんな弁護士がいなくなるのでは」

 市民連絡会の本多良男共同代表は「私自身の職場の解雇闘争を弁護士が報酬度外視で一生懸命支えてくれました。サラ金の高金利問題の運動でも弁護士の手弁当の活動が利息制限法の改正につながった」と話します。

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 当事者となる「ネット」も数人だった会員は現在600人を超えました。その多くは法科大学院生が占めます。市内に五つの法科大学院がある京都では、170人が加入しました。京都弁護士会の弁護士が各法科大学院を訪問し、学習会を開くなど積極的な働きかけもありました。

 自身も法科大学院修了生でネット京都支部長の女性(31)は「京都では奨学金を抱えた学生の一人が『ネットの活動を僕もやりたい』と言ったのが始まり。ある大学院では教授が『君らも参加を』と学生に声をかけてくれました。当事者として困るというだけでなく、司法を担う人材育成の面からも廃止は問題だと言っていきたい」と話します。

グラフ

志望者急減の恐れ

 裁判官や検察官、弁護士を目指す人たちは、司法試験に合格したといって、すぐに現場に出られるわけではありません。1年間、司法修習生として研修を受ける必要があります。

 修習は、平日フルタイムで行われ、アルバイトは禁止です。修習に専念するために国が月約20万円の給与(給費)を支給してきました。戦後まもない1947年から行われています。

 ところが2004年の裁判所法改正で、日本共産党が反対するなか、今年11月に給費制を廃止することを決めました。これに代わり、生活費が必要な修習生に国がお金を貸す「貸与」制を導入するとしています。

 国が主な廃止の理由とするのは、「将来の法曹人口の急増」というもの。年間3000人の司法試験合格者が出ることを想定し、それに伴う国民負担の増加は理解を得られにくいといいます。

 しかし実際は、国の見込みが外れ、法律家希望者が急速に減っています。その要因は、法律家になるリスクや経済的負担の大きさです。

 日弁連の調査では、修習生の53%が借金を抱え、平均して318万円にのぼりました。また弁護士の就職難も社会問題化しています。制度をやめる前提条件が失われているのが実際です。

 給費制が廃止され、経済的負担が増えれば、ますます志望者が減ることは、火を見るより明らかです。


日弁連・宇都宮会長

「貧しい人の人権危ない」

 昨年末から全国の弁護士会を回る中で、若い弁護士から「借金がある」と聞き、驚きました。「何の借金?」と聞くと、「法科大学院の学費を奨学金で借りました。返済が大変」といいます。

 私は多重債務問題に取り組み、借金に非常に敏感な弁護士です。そうしたら弁護士の卵が多額の借金を抱える異常な事態だったのです。

 これで給費制がなくなると、さらに約300万円が加わる。多い人は1500万円の借金を背負って弁護士生活がスタートするわけです。

 私は会長になった4月、ただちに対策本部を立ち上げました。弁護士だけでなく、市民とがっちりスクラムを組む運動スタイルです。

 弁護士、裁判官、検察官が裕福な家庭の出身者で占められることは、市民や貧しい人の人権が危うくなります。「これは法律家だけでなく、あなた方の問題です。一緒にたたかってください」と呼びかけたいからです。

 給費制存続のためには、今度の臨時国会で、法改正を勝ち取る必要があります。9月16日(東京・日比谷野外音楽堂)の集会が、たたかいの新たな出発点になります。ぜひ、地域や職場で参加や署名を呼びかけていただきたい。(25日の千葉県民集会あいさつから)





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