2010年8月8日(日)「しんぶん赤旗」

秋葉原無差別殺傷事件

被告人質問から見えたものは

傍聴の遺族 「不幸だから人を殺していいのか…」


 東京・秋葉原で17人が死傷した無差別殺傷事件(2008年6月)で殺人罪などに問われた元派遣社員・加藤智大被告(27)への被告人質問は7月27日から8月3日まで4回、東京地裁(村山浩昭裁判長)で行われました。「これまでの人生のうっぷんがダムが決壊するように出てきて、事件を起こしてしまいました」と犯行の動機について供述した加藤被告。4回の被告人質問で見えたものは…。(菅野尚夫)


 加藤被告の「ダムが決壊する」ほどの「うっぷん」とは何だったのでしょうか?

過酷な労働のなか

 「6月いっぱいで仕事がなくなると分かって投げやりになり、派遣先工場で、つなぎ(作業着)がなくなったことに腹を立てて、やけになりました」と供述しています。

 派遣社員として働いていた埼玉県内の自動車工場では、作業の省力化を提案しても、正社員から「派遣はだまって言われたことをやっていろ」と怒鳴られました。

 事件直前まで働いていたトヨタの子会社、関東自動車での仕事は、室温が40度もあるなかで、1日400台、残業があると500台の車を検査します。

 「体力が消耗、立ったり座ったりするきつい仕事で、すぐに辞める人もいた」といいます。

ネット上が居場所

 そんな過酷な労働のなかで、「本心で語り合える」友人がいない被告にとってインターネットの掲示板が「他に代わるものがない大切なもの」となり、「仕事をしていないときはネット」に没頭していました。「自分が自分にかえれる場所」「自分の部屋」となりました。

 加藤被告が利用していたインターネットの掲示板へ「『荒らし』や被告に『なりすまし』て、書き込みをする、嫌がらせ」があり、「大切な人間関係が乗っ取られた。壊された。奪われた」状態になりました。

 「事件を起こして『なりすまし』に怒っていることを気づかせたかった」のが犯行の動機だと話しました。

 事件を起こした原因について「親のせいだと言う気はない」と話す加藤被告。「しつけ」という虐待を受けていたことも分かりました。

 3歳のとき、窓のないトイレに閉じ込められました。小学校から中学校の時、食事が遅いと床に置いたチラシにご飯など食べ物を投げ捨てられて食べさせられました。「屈辱を感じた」と述べています。

 九九がいえないと風呂に沈められたこと、アパートの2階から落とされそうになった体験が、「何か言いたいことがあっても言葉でなく、行動で示して気づいてもらおうとする自分自身の物の考え方」になったと話しました。

突入3回ためらう

 加藤被告は、トラックで秋葉原の歩行者天国の交差点に突入するのを3回ためらいました。4回目に突入した気持ちをこう語っています。

 「事件を中止すれば帰る場所がない。家族もいない。友人もいなくなる。現実としてつきつけられていた」

 所持金は「2、3万円」。若者をとりまく荒涼とした、生きづらさの風景が見えてきます。

 公判を傍聴した遺族はいいます。

 「生い立ちが不幸だったから人を殺しても良いなんてことは許されない」





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