2010年7月14日(水)「しんぶん赤旗」

米原油流出 漂着の現場をゆく

カキ漁中止・観光客激減…

景勝ビーチ悲痛

フロリダ州


 「環境の回復には10年単位の年月がかかる」「カキ漁が中断。商売にならない」―史上空前の原油流出で、フロリダ州の景勝ビーチ、ペンサコーラやフォート・ウォルトン・ビーチでも悲痛な声が聞かれます。英石油大手BPの海底油田掘削施設爆発にともなう大量の原油流出被害は、現場から数百キロ離れた海岸地帯でも重く沈殿しています。(ペンサコーラ〈フロリダ州〉=西村央)


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(写真)遊泳や水遊びを禁止する看板=8日、ペンサコーラ(西村央撮影)

 「私たちは事故発生の5日後から、原油漂着に備えた対策をとってきました。米国内でも有数の漁業基地、デスティンを抱えていますし、ビーチは生活と産業にとってかけがえのないものなんです」

 こう語るのは、フォート・ウォルトン・ビーチを抱えるオカローサ郡の首長に当たるウェイン・ハリス筆頭理事。

 「原油流出事故で失われたものは多い」と言い、夏の観光ピーク時のホテルやレストラン利用客の激減、関連小売業界の売り上げ減をあげます。漁獲高の減少、例年なら全米各地から訪れる釣り客もまばら。同郡ではこの夏の経済活動は「平年の5割減」と予測しています。

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 海底油田からの流出は今も続いていますが、BPは7月末には原油流出を止める見通しを示しています。

 海洋生物を含む生態系の完全な回復について、ハリス氏は「10年単位の年月がかかるでしょう。1989年のアラスカでの流出事故をみてもいまだに油成分が沈殿している」と長期にわたるとの見方です。

環境を破壊 経済に甚大被害

カメの卵 東海岸へ避難

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(写真)海上に広がるオイルフェンス=10日

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(写真)回収された原油汚染の砂=8日、いずれもペンサコーラ(西村央撮影)

 オカローサ郡は、フォート・ウォルトン・ビーチのあちこちに産み落とされたカメの卵の「救出計画」にも取り組み、野生生物関連の自然保護団体の専門家とともにこれを進めています。卵からかえった子ガメが油成分に汚れるのを防ぐためで、計画ではフロリダ半島の東海岸に「移設」する予定です。

 海岸などの汚れは、フォート・ウォルトンから80キロほど西側にあるペンサコーラではより顕著です。沿岸部の道路を走るとオイルフェンスが目に入ってきます。

 メキシコ湾に面するビーチには、「このビーチは砂の深いところまで原油で汚染されています。健康被害を防ぐため、遊泳や水に入ることを避けてください」との看板。「死んだ魚や他の野生動物にもふれないでください」との注意もあります。

 白い砂浜が続くそのビーチで目立つのは汚染された砂を回収する作業員です。炎天下、汚染した砂を回収し、ビニール袋に詰め、回収用の車に積み込む作業が続けられています。

内海の湾は

 内海の湾では、浜辺の汚染はみられません。水辺で遊ぶ親子連れの姿が見られます。浜辺のシーフード・レストランのマネジャーのルース・ルービィ氏(46)は「ここはすでに美しいビーチですが、客足のほうはさっぱり」と言います。

 特に名産のカキが地元での漁ができないため、遠くワシントン州やメーン州からの“緊急輸送”。「値段が通常の160%増し。2・5倍以上ですよ」とあきらめの表情です。

 ルービィ氏は「周辺のホテルでの予約のキャンセルは実に多い」と述べながら、海面を漂う原油の映像がテレビで流れ、海岸の汚染情報が広がると、一部の水辺が利用できても、「風評で押し流されてしまう」とこのところの傾向を分析。カキ漁に従事していた労働者の失業などもあり、地域経済全体への影響を懸念します。

計り知れず

 BPでは漁業や観光被害での補償を開始しています。地元紙によると、8日現在での補償額は、流出現場に近いルイジアナ州の7800万ドル(約69億1600万円)が最多。これにアラバマ州の3100万ドル(約27億5000万円)が続き、フロリダ州は2700万ドル(約24億円)です。

 海底油田からの原油流出事故。業界では「起きない」と主張していました。しかし、いざ現実のものとなると、大規模流出は海洋生物を含む生態系と経済活動への被害が計り知れなく深刻になり、しかも長期化することを今回の事故は物語っています。





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