2010年4月11日(日)「しんぶん赤旗」

普天間「移設」問題

負担減どころか基地強化 無条件撤去が解決の道

最悪の「移設」案検討


 鳩山民主党政権は、米海兵隊普天間基地(沖縄県宜野湾市)の「移設」問題で沖縄県内に新たに二つも基地をつくり、県外にも広げるという、「これ以上悪い案は、思いつくことすら難しい」(琉球新報3月27日付社説)計画を検討しています。沖縄県では25日に10万人規模の集会が計画されるなど、怒りの声が広がっています。「移設」案の問題点を探りました。


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(写真)モズク漁場は勝連半島から約20分ほど。水深約5メートルで行われるモズクの収穫をする漁師歴42年の嘉保正弘さん(60)。船から送られる酸素を吸いながら、海中での作業は約3時間続きます=沖縄県うるま市の津堅島沖(撮影・山形将史)

 鳩山由紀夫首相は、普天間基地「移設」先について、「腹案はある」と述べていますが、世論の反発を恐れて公にしていません。

 しかし、1日の平野博文官房長官と仲井真弘多沖縄県知事との会談を通じて、その一端が明らかになりました。それによると、(1)鹿児島徳之島などに普天間基地所属ヘリ部隊を移転(2)沖縄県名護市の米海兵隊キャンプ・シュワブ陸上部にヘリ着陸帯または滑走路を建設(3)将来的に同県うるま市の勝連半島沖に新基地を建設する―というものです。

 普天間基地「移設」問題が浮上した1995年以後、複数の場所を同時に追求するというのは、歴代自民党政権でもできなかったことです。


徳之島への「分散移転」案 鳩山首相が検討指示

形だけ「県外」 費用ばく大

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 徳之島が急浮上したのは、1月下旬に民主党の牧野聖修衆院議員が地元に打診したのがきっかけです。

 「沖縄本島から120キロ、ヘリで30分以内」(国民新党)という距離に加え、普天間基地を「最低でも県外に移す」という鳩山首相の公約を、形の上だけでも実現できる“利点”があります。

 3月28日、4200人が参加した住民集会が開かれ、移設反対を訴えました。徳之島では米軍はおろか自衛隊も存在せず、軍事インフラを一から建設するため、ばく大な費用もかかります。

勝連沖案 海兵隊幹部案もとに提案

海に3600メートル滑走路2本

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 勝連半島沖の新基地建設案は、1210ヘクタールの人工島をつくり、3600メートル級滑走路2本とヘリ着陸帯を建設。航空自衛隊と米軍の那覇軍港も移設する超巨大基地です。キャンプ・シュワブ沿岸部埋め立て案と比べて面積は6倍、滑走路も2倍以上です。

 勝連沖は「サンゴの死滅率が高い」などと言われていますが、「沖縄県環境保全指針」で保全対象とされている藻場、干潟、サンゴ礁が分布しています。

 うるま市議会では、かつて勝連沖への基地誘致を進めていた保守系議員を含め、全会一致で反対しています。

キャンプ・シュワブ陸上案 国民新党が提案

民家の近く事故多発機配備

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 キャンプ・シュワブ陸上部案は、海岸近くに500メートル四方のヘリ着陸帯と、山の斜面を切り開いて1500メートル級の滑走路を建設する計画です。

 滑走路候補地のすぐ近くに沖縄高専があり、民家上空を避けて飛行することはできません。しかも、米海兵隊は墜落事故を繰り返してきたMV22オスプレイを2012年以降、沖縄に配備する計画です。

 名護市の稲嶺進市長は、「(シュワブの)海にも陸にも基地は造らせない」と表明しています。


「海兵隊=抑止力」は幻想

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(写真)全国から届いた声をフェンスに掲げ、キャンプ・シュワブ前で抗議行動をする人たち=9日、沖縄県名護市

 「米軍普天間飛行場の移設問題を沖縄県内だけで処理しようとすればするほど、政府は自ら迷路の深みにはまっていく」。沖縄タイムス3月27日付社説の指摘です。

 鳩山政権が「迷路の深みにはまっていく」のは、「沖縄におけるアメリカの海兵隊は、わが国への侵略に対する抑止力としての機能がある」(鳩山首相)という理屈にしがみついているからです。

「日本防衛」の任務を持たず

 しかし、沖縄の海兵隊は、「日本防衛」とは関係のない軍隊です。

 1982年4月、当時のワインバーガー米国防長官が「沖縄の海兵隊は日本の防衛にあてられていない」という書面での証言を米上院歳出委員会に提出したことは広く知られた話です。

 防衛省が2月に作成した資料「在日米軍及び海兵隊の意義・役割について」は、「海兵隊の運用のイメージ」として「着上陸」作戦などを挙げ、強襲揚陸艦で海や空から侵攻するイラスト(図)を掲載。「わが国への侵略」に対する防衛部隊ではなく、敵地への“殴り込み”部隊であることを自ら告白しています。

元政府高官や専門家が異論

 「朝鮮半島有事」や「中台紛争」を念頭に「沖縄における米軍は、迅速な対応が可能」であり、「アジア太平洋地域の平和と安定に大きく寄与」(前出の防衛省資料)しているという主張もあります。

 しかし、こうした主張には、日米同盟強化論者の元政府高官や専門家からも異論が上がっています。

 内閣官房副長官補(安全保障・危機管理担当)だった柳沢協二氏は「沖縄に海兵隊がいなければ韓国を防衛できない問題ではない」「中台(問題)は…軍事的には解決がつきにくいので、ストレートに海兵隊という陸上兵力まで使うというシナリオはなかなか描けない」と指摘。「海兵隊というのは、…この地域の抑止力として、どれだけ不可欠なのか、非常に疑問に感じる」と述べています。(毎日新聞ホームページ)

 また、鳩山首相の諮問機関「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」のメンバーである中西寛京都大学教授も「元々、米国にとって海兵隊の基地が沖縄である戦略的必然性はさほどない」と述べています。(「毎日」2月17日付)

 「アジア太平洋地域の平和と安定」のためには、それをつくり上げる外交努力がなによりも大切です。北朝鮮の問題では、「6カ国協議」を復活させ、平和的な解決を目指すべきです。中国の問題でも米中、日中の経済的相互依存関係はこれまでと比較にならないほど深まっています。

「迷路の深み」抜け出すには

 しかも、沖縄の海兵隊は、東アジアの紛争に備えて張り付いているわけではありません。イラクやアフガニスタンに恒常的に兵力を派遣しています。

 2004年のイラク・ファルージャの住民大虐殺でも最前線に立ちました。加えて、韓国、豪州、東南アジアなどアジア太平洋全域で演習を実施しています。(08年は80回)

 沖縄国際大学の佐藤学教授は「海兵隊は地球規模で演習をして回っている。幻想の抑止力だ」と強調します。

 幻想の「海兵隊=抑止力」論を乗り越え、普天間基地の無条件撤去の立場に立つことこそ、鳩山政権が「迷路の深み」から抜け出す唯一の道です。


普天間問題原点は

 普天間基地問題の直接の出発点は、1995年9月に発生した米海兵隊員3人による少女暴行事件です。これをきっかけに、在日米軍基地の75%を押しつけられ、基地あるがゆえの苦しみを背負ってきた沖縄県民の怒りが爆発。米軍基地の整理・縮小、とりわけ普天間基地の無条件返還を要求したのです。

 沖縄の米軍基地の多くは、米軍が戦時国際法に反して住民の土地を不法占拠したことが起源です。「移設先」などの条件は必要ありません。米国も「世界一危険」と認める普天間基地は、無条件撤去が当然です。


「未決着」なら

「継続使用」米軍が脅し

 鳩山政権は、普天間基地「移設」の「5月決着」を繰り返し表明していますが、見通しが立たないことで米側はいら立ちを強めています。

 米国は「現行案(シュワブ沿岸部)が望ましい」(3月30日、クリントン国務長官)とする一方、普天間基地の「継続使用」の構えも見せています。

 海兵隊のコンウェイ総司令官は3月17日、記者団に、普天間「移設」問題が未決着の場合、「当然、現状のままだ。(現在の基地を拠点に)作戦を行い、部隊を展開させ、地域の安全を保障していく」と述べました。

 「移設」案が海兵隊の軍事的要求を満たさない場合、普天間に居座るというものです。

 米国防総省は現在、5年に1度とされる普天間基地の滑走路改修を行っています。同時に、防衛省は現行案に沿って、キャンプ・シュワブ内での兵舎新築を継続しています。





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