2010年2月16日(火)「しんぶん赤旗」

「X JAPAN」のTOSHI氏にみる

自己啓発セミナーの危険


 人気バンド「X JAPAN」のTOSHI氏が「奴隷生活」をさせられていた。そんな話題が週刊誌やテレビに登場しました。自己啓発セミナーにはまった彼に何があったのか。見えてくるのは「マインドコントロールの恐怖」です。


 「この12年間、ホームオブハート(HOH)の無償従業員にすぎなかった」

 1月18日、報道陣を前に、こう語り始めました。一日も休まず働き、月1千万円超とされる収入は、MASAYA氏が主催する自己啓発セミナーのHOH側に持っていかれていた。生活は友人に頼り、億単位の借金と税金だけが残った…。

 1月、裁判所の決定で自己破産手続きに入りました。

 「妻とは10年前から、実質的に夫婦ではなかった」

 妻は、同様に家を出た女性たちと栃木県那須町のHOH施設でMASAYA氏との共同生活…。1月に離婚調停を申し立てました。

 TOSHI氏がHOHの前身「レムリアアイランド」に入ったのは1998年。週刊誌は、目つきが変わり、突然泣いたり怒ったりという変ぼうぶりを伝えました。いま、「その間は『救われた』と思い続けていた」と振り返りました。

 セミナーの広告塔を演じてきました。この間、精神的経済的被害を訴える元会員が続出。賠償を求める訴訟と、名誉棄損だとするHOH側の逆提訴が相次ぎました。

 昨年夏に倒れて入院し、精神的にも自分を取り戻し、「だまされていた」と語るTOSHI氏。裁判について聞かれ、「(元会員に)金を返してやって」と訴えます。しかし、広告塔として被害を広げたことには、「僕の影響なら申し訳ない」と言うのが精いっぱいでした。


解説

被害者が加害者になる

 閉ざされた空間でゲームや自己告白(シェア)を繰り返して一体感や高揚感を増し、取り込まれるのが自己啓発セミナーの特徴。受講者は夢中になって友人を誘い始めます。

 源流は米国で開発された「心の教育訓練」システム。それが企業化されたものです。日本には1977年に伝来。「不平不満を社会や会社のせいにせず、自己変革ですべてが可能になる」とされ、セミナーでテクニックを覚えた受講者が新会社をつくるという形で広がりました。

 少人数を相手に精神科医や専門家がおこなう治療やカウンセリングと違い、素人が大勢に画一的にやるのが自己啓発セミナー。強度の精神操作で心のバランスを失う人も続出しました。

 そんなセミナーが再び流行したのが90年代後期。セミナーは三つの型に分かれました。一つは従来型。二つは宗教や音楽で粉飾した変形型。「ミイラ事件」を起こしたライフスペースや、TOSHI氏がはまった現HOHなどです。

 もう一つは企業の社員教育への進出。「出前セミナー」と呼ばれました。自己責任論を教えるセミナーが、労働条件の規制緩和をめざす財界に歓迎されました。

 TOSHI氏の会見に同席した弁護士は「マインドコントロールという言葉は使いたくないが、ある種の精神的拘束状態にあった」と述べましたが、実はそれがマインドコントロール。心の操作により、一時的に自分で考え判断する意欲と勇気を失った状況です。

 「2カ月半の入院中、妻たちが連れ戻しにきたけれど(病院の)先生が守ってくれたのでじっくり考える時間を持てた」とTOSHI氏。1人になり、「自分で考える」時を持ったことが自分の「被害」に気付くことにつながりました。その彼が「加害者」だった事実を受け入れるには、さらなる葛藤(かっとう)が必要。「マインドコントロールの危険」がそこにあります。(柿田睦夫)


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