2010年2月7日(日)「しんぶん赤旗」

問題噴出

トヨタ車なぜ


 アクセルペダルの欠陥で、欧米や中国で大規模なリコール(無償回収・修理)となったトヨタ車。「エコカー」として大々的に売り出しているハイブリッド車「プリウス」のブレーキをめぐっても日米で問題が噴出しています。トヨタに近い関係者への取材から見えてくるものは―。(遠藤寿人)


 トヨタは、リコールの発表とともにアクセルペダルをつくったメーカー(米「CTS」社)を早々と公表しました。業界関係者は、「きわめて異例の事態」といいます。通常、リコールで、部品メーカーまで特定され公表されることはないからです。

部品が悪い?

 「同じ部品メーカーとして驚きました。国産車のペダルはトヨタ系列の会社製で問題はないが、“悪いのは海外の部品メーカーのものだ”といわんばかりの対応で、トヨタに憤りをおぼえます」と語るのは外資系自動車部品メーカーの担当者です。

 「海外部品でアメリカ向けの車をつくる際でも、日本サイドで営業をかけ、図面も仕様書も日本サイドで承認を受けているはずです。だから、トヨタはCTSを責めることはできません。現場の関係者に聞くと、トヨタがCTSにリコールを伝えてきたのは発表の数日前で同社は『寝耳に水』だったそうです。普通は原因を特定し、対策品をある程度ストックしてからリコールするものです」

 CTSは、日産やホンダ、三菱など他の日本メーカーにもペダルを供給しています。そこでの問題は明らかになっていません。

 アメリカでトヨタ車が暴走するといった苦情は数千件にのぼり、死者は19人と報道されています。昨年11月フロアマットがペダルに引っかかるとして大規模な自主回収が実施されましたが、暴走の原因は取り除かれたのでしょうか?

 運転者がアクセルペダルを踏み込むと、その踏み込み量をセンサーが感知し、その情報は、エンジンをコントロールするコンピューター(ECU)に送られ、燃料の噴射量などが決められる「電子制御」システムが取り入れられています。

 トヨタ系企業で開発設計にたずさわった技術者は「ペダルが戻らないなら機械的問題。ペダルが戻っても速度が落ちないなら電子制御の問題だ。トヨタの部品メーカー追及はおかしい。部品設計はメーカーがしている。発注メーカー側の責任だ」。

 アメリカ運輸当局もペダルの機械的な機能だけでなく、電子制御の問題も調査するとしています。トヨタは「問題ない」と否定していますが徹底した真相究明が必要です。

プリウス衝撃

 「ブレーキが利かない」。基本である「止まる」にかかわるブレーキは車の生命線です。

 それが、環境を売り物にし、トヨタがもっとも「売り出し中」のハイブリッド車「プリウス」で起きていたというから、その衝撃は計り知れません。

 トヨタ系企業の先の技術者は「ハイブリッドのブレーキは難しい。高い技術でシステムが組まれていて、タイヤの回転、速度、そのほかたくさんのセンサー類があって、電子制御している。通常の油圧ブレーキから電気モーターでの制御に切り替えの一瞬にずれがある。1秒だと、時速20キロで5・5メートル進む。混雑している雪道などでブレーキを急いで踏むと危ない」といいます。

 あらゆることを電子制御するプリウス。先の部品メーカー担当者は「コンピューターの心臓部であるプログラムにごくわずかな誤り(バグ)が潜んでいて、何かの拍子に処理能力をマヒさせることは、家で使うパソコンでも起こりうることです。もしこれが車のなかで起こり制御不能になったら…大変です」と指摘します。


トヨタ問題

 トヨタは昨年8月、米の高速道路で「レクサス」のアクセルペダルがフロアマットに引っかかり暴走し4人が死亡する事故をきっかけに、北米で500万台を自主回収、今年に入ってアクセルペダルの欠陥で北米、欧州、中国で大量リコールを実施。ブレーキの欠陥で新型「プリウス」のリコールを検討しています。


関係者語る

商品化までの期間短い ユーザーをないがしろ

 なぜ、こんなにも問題が噴出するのか。

 前出の技術者は、新車が市場にでるまでの期間の短さを指摘します。

 「時間をかけて耐久テスト、いろんな条件に合わせたテスト、実車走行テストをきちっとやれば見つかっている問題だと思う。いまは短期開発が主流になっています。コンピューターによるシミュレーション化したテストができるから。もちろん、シミュレートできない問題もあります。たとえば、衝突時の安全性などです。アクセルペダルの問題や、ブレーキの問題はなかなか見つけにくい問題ですけれど過去にはそういう問題があるはず。必ず評価するときにはチェック項目があって、新しく作る車の場合は、一つ一つ消していく。ただしそのとき、納期が決められ、時間制限がかけられます」

 トヨタ幹部が会見で、ブレーキ問題を「運転者の感覚」の問題としたことに批判の声もあがっています。

 トヨタ取材を長年してきたジャーナリストは「ユーザーをバカにしたような言い方ですね。ユーザーは素人みたいにいう。何十年もトヨタを取材してきて恥ずかしい」といいます。

 前出の技術者も「安全の問題はフィーリング(感覚)の問題ではない。いろんな人が、いろんな条件で踏もうが必ずブレーキがきくというのが大原則。運転者のフィーリングで止まってもらうなんてバカな話はない」といいます。

 トヨタがどこを向いて仕事をしているか。ジャーナリストは「拡販と出世が重視され、風通しの悪いいろんなおごりがでてきている。困ってれば最後は国が助けると思っている。プリウスには最高の減税がある。税金投入されている。トヨタは安全第一でユーザーに誠意をもって接していくべきだ」。

図

車の減速時にモーターで発電する「回生ブレーキシステム」のしくみ


走行中エンスト

本紙が指摘したが…

 「しんぶん赤旗」日曜版(2005年6月5日付)は、プリウスが走行中突然エンストするトラブルが、アメリカだけでなく、日本国内でも14件発生していたことを報じました。対象は2代目プリウスで日米合わせて14万5千台。

 トヨタは本紙の取材に「エンストしても警告灯が点灯して知らせている」とのいい分で「欠陥といわれれば欠陥だが、安全上問題ない」としてリコールしませんでした。

 しかし、半年後、ユーザーには「エンジンコンピュータのプログラムを修正させていただきます」とサービスキャンペーンの案内をだしていたことが発覚。「なぜ早く対策を施さなかったのか」とユーザーから怒りの声が寄せられました。


 リコール 同一型式の車が道路運送車両法の保安基準に適合しないおそれがあり、設計や製造過程に原因がある場合、無償回収・修理を行う

 改善対策 保安基準には違反しないが、安全や環境に問題が生じる場合、改善措置を行う

 サービスキャンペーン 安全や環境に問題はないが品質に問題がある場合、改善措置を行う


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