2009年4月20日(月)「しんぶん赤旗」

列島だより

生命のゆりかご

干潟を守る


 ラムサール条約への登録は干潟・湿地を、開発や埋め立てから守るうえで大きな役割をはたしています。干潟は多様な生物が生息し育つ、「生命のゆりかご」として市民から親しまれ、地域の宝です。大都市近郊で、登録にむけ活動する千葉県・三番瀬(さんばんぜ)と、登録湿地の名古屋市・藤前(ふじまえ)干潟でのとりくみを紹介します。


条約登録へ10万人署名

千葉 三番瀬

地図

 東京湾奥部の干潟・浅海域の三番瀬は、カニや二枚貝などの生物の生息する場です。千葉県の浦安、市川、船橋、習志野の各市にかこまれた海域です。

 「三番瀬を守る署名ネットワーク」(田久保晴孝代表)は、昨年末、ラムサール条約登録への署名が十万人を突破しました。署名ネットワークは、七十団体と個人で構成。二〇〇四年から各駅頭、地域、労組、生協、団地自治会、病院、学校やイベント会場などで署名をよびかけ、市民の共感をひろげてきました。

 四十年にわたり三番瀬を見守ってきた田久保代表は、「八年前に埋め立て反対の三十万人署名を集め、これに押され、当時の堂本暁子知事が埋め立て白紙撤回を表明しました。三番瀬の恒久的な保全を実現するには国際湿地保護条約であるラムサール条約への早期登録が必要」と力を込めます。

 今年三月には、市川市で「十万人署名達成の集い」や船橋市で「署名記念集会」が開かれました。「じっくり観察、たっぷり味わおう」と、ふなばし三番瀬海浜公園で親子連れ、若者らが干潟を探検。ミヤコドリ、スズガモやアサリ、マテガイ、ゴカイなどの生き物を手のひらにのせ、観察しました。

 その後、東京湾で採れたスズキのてんぷらや貝の汁物など海の幸に舌鼓をうちました。

◇      ◇

 現在、三番瀬のラムサール条約登録を実現させる上で課題があります。

 ひとつは、千葉県が自治体や漁業者との合意が得られるよう努力していないことです。県は市川市塩浜二丁目の護岸工事を二〇〇六年から始め、海域に干潟的環境の造成をすすめています。市川市などは人工干潟を推進しようとしています。

 人工干潟の造成という名目で猫実(ねこざね)川河口域の泥干潟を埋め立て、アナジャコ、ウネナシトマヤガイ(絶滅危ぐ種)、カキ礁などの生息場を破壊するものです。

 もう一つの問題は、県が三番瀬の中を通る「第二湾岸道路計画」を推進していることです。東京外環道路とジャンクションでむすばれる計画です。

 日本共産党の丸山慎一県議は「議会で前知事の姿勢を追及しました。前知事は第二湾岸は必要な道路と発言しており、背景に自民系、ゼネコンなどの埋め立て推進勢力の圧力がある」と指摘します。

 昨年三月、船橋市漁業協同組合がラムサール条約登録賛成の決議をあげました。

 大野一敏組合長は「漁業者は海がなければ生きられません。ラムサール条約登録でなんとしても三番瀬を守っていきたい。東京湾の浄化は、食の安全、食の安心という点からも必要です」と語ります。

 三番瀬は若者にも関心をひろげています。

 三月末に船橋市内で公演された、江戸時代に獄死してまで三番瀬を守った漁民惣代二人の姿を演じる高校生に涙、感動の拍手がおこりました。

 海洋学者の佐々木克之さん(元中央水産研究所室長)は、きっぱり言います。

 「三番瀬には二枚貝のアサリなど海を浄化する生き物がたくさんいます。その役割は十三万人分の汚水処理場に匹敵します。埋め立てや工作物で東京湾を、これ以上狭めないことが重要です」(小高平男)

破壊型開発 見直しの時

名古屋 藤前干潟

地図

 ラムサール条約登録湿地の名古屋市・藤前干潟は、ごみ埋め立て計画断念から十年の今、あらためて注目を集めています。COP10(生物多様性条約第十回締約国会議)の名古屋市での開催が来年に迫っています。

 藤前干潟の保全とその後の画期的なごみ減量は、世界に注目される「成功事例」と言っていいものです。

 二百二十万人の工業都市で、ごみの三割減量(処分場の埋め立て六割減)は、干潟を残すことに賛成した七割の市民が「干潟を守った以上、ごみを減らさにゃ」と自発的にがんばり、容器包装分別にも取り組んだ苦労なしには語れません。市民と行政が協働して「分別文化」を育て、「ヤレバデキル」と名古屋市民の誇りと自信を取り戻したのです。

 名古屋市のかかわり方はいまいちですが、二〇〇五年の愛知万博に合わせて環境省が設置した稲永ビジターセンターと藤前活動センターには、合わせて年間六万人の来訪者があり、渡り鳥に出会い、干潟の生きものと触れ合い、子どもたちのセンス・オブ・ワンダー(感性)を育てています。

◇      ◇

 こう書いてくると良いことばかりですが、実はそこに厳しい現実もあります。

 全国最大級と言われた藤前干潟も、渡来するシギやチドリが激減しています。減少は全国的な傾向でもありますが、とりわけ二〇〇〇年の東海豪雨で流出したヘドロで干潟が覆われ、ゴカイやヨコエビなどの餌生物が激減したからです。

 さらに夏場には、藤前干潟のある名古屋港内や伊勢湾、三河湾の海底は貧酸素状態となり、秋口の大風が表層を吹き流して海底から水塊が引き出されると、青潮(苦潮)となって魚介類を全滅させます。これが年々悪化しています。

 ひとことでいえば、藤前干潟は残ったが、伊勢湾の海は瀕死(ひんし)状態です。それなのに、人工島埋め立て、源流部のダム、生きている里山を破壊するトヨタテストコースと、いまだに二十世紀のような破壊型開発が、相も変わらず続けられています。

 COP10に集まる世界の人々に、このような現実も見てもらいたい。生物多様性条約は、「地球上のすべてのいのちのための条約」です。それならば、人を含めて、あらゆる「いのちの声」を聴き、いのちを食べることでしか生きられない私たち人間のありようを根底から見直す機会にしなければなりません。

 私としては、かつてあったゆたかな山の幸、海の幸の味わいをとりもどしたい。

 そのために、流域にあったいのちのつながりと経済のつながり(流域自給)を復活させる、「流域イニシアチブ」を提唱したいと考えています。(NPO法人藤前干潟を守る会理事長・辻淳夫)


 ラムサール条約 1971年にイランのカスピ海近郊の町・ラムサールで採択された国際湿地保護条約で、水鳥の生息を守る国際条約として誕生しました。日本は1980年に加入。その後、「賢明な利用(ワイズユース)」を生かした漁業の振興、2008年の第10回締約国会議では「水田決議」が採択されました。現在、日本のラムサール条約登録湿地は、釧路湿原、蕪栗(かぶくり)沼・周辺水田、谷津干潟、琵琶湖など合計37カ所です。



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