2009年3月15日(日)「しんぶん赤旗」

西松献金で改めて問われる

企業・団体献金の害悪


 ダミー(隠れみの)の政治団体を通して閣僚や自民、民主両党の多数の政治家に、十年余で四億七千八百万円もの資金が流れた西松建設の違法献金事件。麻生太郎首相は「企業・団体献金は悪と考えていない」(六日の参院予算委員会)と言い、民主党の小沢一郎代表は「政党支部で受領すれば何の問題もない」と開き直りますが、とんでもないことです。


政党助成と二重取り 堕落

 「続発する政治腐敗事件の多くが政治家をめぐる企業・団体献金に起因することにかんがみ、公費助成の導入などの措置によって廃止の方向に踏み出す」

 金権腐敗事件を背景に「政治改革」が焦点となった一九九三年、当時の細川護煕首相は国会で繰り返しそう答弁しました。年間三百二十億円に上る国民の税金を政党で山分けする政党助成金制度は、当時の「非自民」連立与党と自民党によって、企業・団体献金の廃止を口実として導入されたものでした。

 それでも導入当初(九五年)、“政治資金を公費助成に頼りすぎることは国民の理解を得られない”として、助成金の上限を「前年収入の三分の二」としました。ところが、自民・新進・さきがけ・社会などの各党は助成金満額ほしさに収入実績をつくろうと政治資金パーティーや企業・団体政治資金集めに熱中しました。政党助成金制度が企業献金を膨らませることになったのです。

 その後もこれらの諸党と後継政党は、企業・団体献金の廃止に踏み切るどころか、「企業も重要な社会的存在だ」などといって温存を画策。世論の厳しい批判を前に、二〇〇〇年から政治家個人の資金管理団体向けの企業・団体献金は禁止を余儀なくされましたが、政党本部や政治家が代表を務める政党支部が企業・団体献金の受け皿となる“抜け道”をつくりました。以来、日本共産党以外の各党は、企業・団体献金と政党助成金の“二重取り”を続けてきています。

 政党助成金制度が始まった九五年、自民党本部収入に占める個人献金の割合は1・2%。十二年たった二〇〇七年も1・5%でほとんど変わりません。民主党は九八年の結成時からみて本部収入に占める個人献金の割合は0―0・1%で推移(最高額は九九年の九百二十五万円)。〇七年は0%です。個人献金を増やす努力はまったくみられません。

 逆に、自民、民主などは政党助成金への依存度を深めています。自民党は本部収入の65・6%、民主党にいたっては84・2%(いずれも〇七年)を政党助成金に依存。母子家庭や障害者に「自立」を強要したり、「民間にできることは民間に」と主張しながら、自らは「自立」せず巨額の税金を手にした「国営政党」となっているのです。政党助成金が導入されてから〇八年までの十四年間で日本共産党以外の政党が受け取った総額は、四千四百億円に達しています。(グラフ)

表

「毎日」編集局顧問の岩見隆夫氏は「政党助成金は各党の家計を支える固定給のような存在になって、これなくしてはもはや生計が成り立たない。では、つつましくその範囲内でやりくりするかと言えば、まったく違って、これまで通り企業献金は少しでも多くいただく、というのである」(『サンデー毎日』〇八年十一月九日号)と“二重取り”を批判しています。

「わいろ」 金権腐敗の温床

 西松建設はなぜ、政治団体を“偽装”して献金したり、パーティー券を購入したのか。「企業献金」という姿を隠すためです。

見返りを期待

 企業は営利を目的とする団体であり、企業による献金は必ず「わいろ」の性格を持っています。献金する側もかつて、「企業が政治に金を出せば必ず見返りを期待する」「企業献金はそれ自体が利益誘導的な性格を持っている」などと語っています。

図

 一九八〇年代末から九〇年代にかけてリクルート事件(八八年)、東京佐川急便事件(九二年)、ゼネコン汚職事件(九三年)といわれる金権腐敗事件が相次ぎました。いずれも特定の企業・業界側が自らの利益のため便宜を図ってもらう見返りに、閣僚や与野党国会議員に多額の献金を行ったものでした。企業・団体献金が「わいろ性」を持ち、金権腐敗政治の温床となってきたことは歴史的にも明らかです。今回の西松建設の違法献金事件でも、民主党の小沢一郎代表への巨額の献金は“岩手県などでの建設工事の受注を期待したものだった”と関係者が証言しています。

 なかでも、国や地方自治体から公共事業を受注した企業による献金は税金の還流となり、被害を受けるのは国民です。ゼネコン汚職のときは公共事業費がどんどん膨れあがり、“予算あって決算なし”といわれました。発注額に応じてゼネコンから自民党に献金が流れ込むという“自動献金装置”がつくられたからです。企業・団体献金は公共事業の無駄遣いにつながっています。

国民主権侵害

 さらに、選挙権のない企業が膨大な資金を使って政治を動かせば、主権者国民の参政権を形がい化させ、国民主権の原則を侵します。

 ゼネコン・熊谷組による自民党への献金の違法性が争われた事件での福井地裁判決(二〇〇三年二月十二日)は、「政党の政策が会社あるいは産業団体からの政治資金の寄付によって左右されるとすれば…国民の選択によって信任を得る選挙制度の意義を否定し、その根幹をも揺るがすことになる」と述べ、企業献金について「国民の有する選挙権ないし参政権を実質的に侵害するおそれがある」と断じました。

大企業を向いた政治に

 企業・団体献金は、個別企業と政党・政治家との癒着を深めるにとどまらず、政治全体を財界・大企業の側に向けさせる害悪をもっています。

 日本経団連は財界が求める政策を自民、民主両党に競わせ実行させるテコにしようと、二〇〇四年に企業献金のあっせんを再開しました。その際、新たな献金のシステムをつくりました。

「政党通信簿」

 法人税引き下げや消費税増税、労働法制の規制緩和など財界の要求リストを、毎年「優先政策事項」として発表し、それに基づいて自民、民主両党の政策に「政党通信簿」をつけ、両党と面談もして献金額を決めるというものです。各企業には「政党通信簿」を参考に献金を促します。

 この献金システムを始める前、当時の奥田碩日本経団連会長は「カネも出すが、口も出す」と公言。実際、〇三年衆院選では自民、民主両党の「マニフェスト(政権公約)」に財界要求を盛り込み、〇五年の「郵政選挙」ではトヨタ自動車はじめ大企業幹部が自民党応援の表舞台に立ちました。

 重大なのはこの「カネも口も出す」システムのもとで、財界・大企業に顔が向いた政治が公然と行われていることです。

 森政権時につくられた経済財政諮問会議には「民間議員」と称して、奥田氏らが参加。小泉政権時には、「構造改革」の司令塔として、不良債権処理、製造業への派遣自由化、社会保障費の毎年二千二百億円削減路線などを次々と推進し、貧困と格差を広げる元凶となりました。

消費税増示す

 最近でも日本経団連との面談(〇八年)で自民党は「消費税の引き上げが重要な選択肢である」(津島雄二税調会長)と返答。民主党も「オールジャパンで負担する消費税がふさわしい」(藤井裕久税調会長)と、大企業減税と消費税増税をセットで要求する財界に理解を示しました。

 日本経団連が昨年九月に発表した〇七年の会員企業の献金総額は、前年比三億八千万円増の二十九億九千万円。自民党二十九億一千万円、民主党八千三百二十万円で、両党とも増額となっています。

企業・団体献金政党助成金も 一切受け取らない共産党

 日本共産党は、ゼネコン疑惑でも今回の西松建設の違法献金事件でも疑惑の真相究明と責任追及の先頭に立ってきました。相次ぐ「政治とカネ」の問題の根本的な解決策として企業・団体献金をきっぱり全面禁止することを求めています。政党助成金は憲法の定める思想・信条の自由に反するとともに、政党を堕落させると指摘し、制度の撤廃も主張してきました。

 それができるのも、企業・団体献金も、憲法違反の政党助成金も一切受け取らない唯一の政党だからです。政党の財政は、国民と結びついて草の根からの財政で支えられるべきだと考え、実践しているのです。

 これに対し、日本共産党以外の各党は、企業・団体献金を温存し、国民の税金を山分けする政党助成金に依存しています。

個人献金が本来

選挙制度審議会も指摘

 企業・団体献金については、政府の選挙制度審議会でも繰り返し廃止が求められ、個人献金への移行が打ち出されてきました。

 一九六一年の第一次審議会答申は、「会社、労働組合その他の団体が選挙又は政治活動に関し寄附をすることは禁止すべきものである」と明記。「実施時期等については引き続き検討を加える」としましたが、国や公共企業から事業を請け負っている者の寄付の禁止、同じく補助金、奨励金を受けている会社や法人の寄付の禁止については、早急に措置を講ずるよう求めました。

 政治資金が最大のテーマとなった六七年の第五次審議会答申は、改めて「政党の政治資金は、個人献金と党費により賄なわれることが本来の姿」と明記しました。

 九〇年の第八次審議会答申も、「将来の姿としては…政党の政治資金も個人の拠出により支えられるようになることが望ましい」としました。

 この答申を受け、九四年の政治資金規正法改定のときに、企業・団体献金を禁止する方向での「見直し」条項が入りました。

各地方紙も禁止主張

 「政治家、政党の別なく、すべての企業、団体献金を禁止することをあらためて求める」(高知新聞五日付)―。西松建設の違法献金事件を受け、各地方紙が社説で企業・団体献金の禁止を掲げています。

 琉球新報は、「企業の側がなぜ、違法な手を使ってまで政治家に献金をするのか。何らかの見返りを期待して、と考えるのが自然だ」「企業献金は今後、全面的に禁止するのも一つのアイデアだ。個人献金に限ればいい」(八日付)と主張。

 愛媛新聞も「企業の利益のために政治がゆがめられるようなことがあってはならない。政治家は容易に政治資金を集めやすい企業献金に頼りがちだが、全面禁止を含めた改正が必要だ」(九日付)としています。

 民主・小沢氏や二階俊博経済産業相らの対応にも「おかしなカネであっても、返せば責任は免れる。発言からうかがえるのは倫理観の乏しさだ」(新潟日報七日付)、「政治とカネにまつわる政治家の対応が、現行法の明文規定に触れさえしなければそれでいい、というわけにはいかない」(河北新報五日付)などと批判が向けられています。



■関連キーワード

もどる
日本共産党ホーム「しんぶん赤旗」ご利用にあたって
(c)日本共産党中央委員会
151-8586 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-26-7 TEL 03-3403-6111  FAX 03-5474-8358 Mail info@jcp.or.jp