2009年1月8日(木)「しんぶん赤旗」

「歴史修正主義」とは?


 〈問い〉大江健三郎さんの『沖縄ノート』をめぐる訴訟の控訴審判決の記事で「さらに力を込めて歴史修正主義とたたかっていく」という言葉がありました。「歴史修正主義」とはどういうことをさすのですか?(兵庫・一読者)

 〈答え〉「歴史修正主義」とは、一般に、侵略戦争や植民地支配、軍隊等による組織的残虐行為など、こんにち批判的な評価が定着している事象について評価を逆転させて支持・擁護する主張をさす用語です。

 もともとは、欧米で「ナチス・ドイツによるユダヤ人大量殺りく(ホロコースト)はでっちあげ」などと主張する論者が、自らをリビジョニスト(修正主義者)と名乗って活動していたことから、広く使われるようになったとされています。

 歴史学は、過去の事実を確定し、批判的に評価してそれを再構成する学問ですから、その通説が時代の変化や新たな史料の発見などによって「修正」されるのは当然のことです。しかし「歴史修正主義」は、それとは次元を異にするものです。

 日本では、1990年代後半以降、「新しい歴史教科書をつくる会」のように、日本が過去に起こした戦争を侵略戦争とする見方にたいして「自虐史観」と非難する勢力の動きが強まり、それが「日本版歴史修正主義」とよばれるようになりました。

 たとえば、1931年の中国東北部侵略戦争開始以後、日本が中国大陸や東南アジア・太平洋地域で起こした戦争を「自存自衛の戦争」「アジア解放のための戦争」として正当化する靖国神社などの歴史観は「歴史修正主義」の典型といえます。

 また、「南京大虐殺はなかった」「『従軍慰安婦』の強制連行はなかった」といった議論や、沖縄戦訴訟での「軍の『集団自決』命令はなかった」という原告側の主張なども、それに該当するといえるでしょう。

 このように侵略戦争や組織的残虐行為への批判的評価を「修正」しようとする動きは、必ずしも日本だけの現象ではありません。ドイツでは、先にのべたように、極右勢力から「アウシュビッツのうそ」といった議論がくりかえし唱えられてきました。イタリアでも、第2次世界大戦下の反ファシズムのレジスタンス闘争の意義を否定し、レジスタンスや憲法を詳述した学校教科書を「偏向」とする議論があります。

 しかし、こうした主張を公然と唱えてきた勢力が政権に参加した例は、一時期のオーストリアなどを除き、欧米ではほとんどありません。(土)

 〈参考〉歴史学研究会編『歴史における「修正主義」』(青木書店)、高橋哲哉『歴史/修正主義』(岩波書店)、山田朗『歴史修正主義の克服』(高文研)

 〔2009・1・8(木)〕


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