2008年12月19日(金)「しんぶん赤旗」

非正規労働者の大量解雇を中止・撤回し、大企業が社会的責任を果たすことを求める

日本経団連・御手洗会長への志位委員長の要求書(全文)


 日本共産党の志位和夫委員長が十八日、日本経団連の御手洗冨士夫会長あてに渡した要求書全文は次の通りです。


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(写真)日本経団連の田中清専務理事(右から2人目)に雇用問題で要求する志位和夫委員長(左から2人目)=18日、都内のホテル

 アメリカの金融危機に端を発した景気悪化のもとで、派遣社員や期間社員などの非正規雇用の労働者を大量に解雇する「派遣切り」「雇い止め」が横行し、企業を支えてきた労働者に深刻な打撃を与えています。大量解雇の波は、自動車産業から電機産業、そしてあらゆる産業に広がりつつあります。解雇される労働者も、非正規社員から正社員に及び始めています。この大量解雇を主導しているのは、日本経団連の中核を担う世界的大企業であり、その社会的責任はきわめて重大といわなければなりません。

非正規社員の大量解雇は人道にてらして許されない

 解雇されている非正規社員の多くは、「働く貧困層」であり、親元も頼れず、社員寮以外に住むところもない状況にあります。年の瀬に突然契約を打ち切られ、寮から追い出され、寒空のもとで公園や路上でのホームレス生活に追い込まれている労働者が、すでに全国各地で生まれています。

 非正規社員の大量解雇計画をこのままおしすすめれば、事態はいっそう深刻なものとなることは火を見るよりも明らかです。解雇される非正規社員の多くは、正社員と同じように働き、残業にも、休日出勤にも応じ、高熱があっても、身内に不幸があっても仕事を休まずにがんばってきた人々です。こうした労働者を、真冬の冷たい巷(ちまた)に放り出すようなことが許されるでしょうか。それは、まず何よりも、人道にてらして、けっして社会的に許容されるものではありません。

契約の中途解除、「雇い止め」の濫用、一方的な内定取り消しは法令違反

 いますすめられている非正規社員の大量解雇が、現行の労働法制においても違法か、あるいは違法性がきわめて高いものであることも重大です。

 政府の調査でも、非正規社員の大量解雇計画の六割以上が契約途中の解雇とされ、人員削減計画のほとんどすべてが契約途中の解雇という大企業まであります。しかし、派遣社員であれ、期間社員であれ、有期雇用の契約途中の解除は、労働契約法で「やむを得ない事由」がある場合でなければできないと定められ(一七条1)、この法律でいう「やむを得ない事由」とは、「解雇権濫用法理における『客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合』以外の場合より狭いと解される」(労働契約法施行通達)とされています。さらに、その証明責任は企業の側にあるとされています。「業績悪化」などという一般的な理由での解雇は違法であるというのが現行法理です。契約満了による「雇い止め」や、大きな社会問題になっている一方的な内定取り消しも、その濫用は違法とされています。

 法令順守が、企業の社会的責任の最低限の土台であることは、立場の違いをこえた共通の認識であると考えます。日本経団連の会員企業が、法令違反の謗(そし)りを受けるようなことはあってはならないことです。

大量解雇が避けられないとする合理的理由は考えられない

 大量解雇をすすめている大企業のほとんどが、「減益見通し」というだけで、利益もあげ、株主への配当も減らさず、巨額の内部留保も持っています。大量解雇の先鞭(せんべん)をつけた自動車産業では、トヨタ自動車をはじめとした主要十三社が二万人近い人員削減計画を発表していますが、業績見通しを下方修正しても、なお二兆円規模の経常利益を見込み、今年九月には株主に三千八百億円の中間配当をおこなっています。内部留保残高は、〇〇年九月の十五・三兆円から〇八年九月の二十九・四兆円に、ほぼ二倍にまで積みあがっています。株主への配当を一割から二割減らす、あるいは内部留保を0・2%程度取り崩すだけで、人員削減を中止し、雇用を守ることができます。景気の後退局面で生産調整を行うことは、当然ありうることですが、こうした大企業がただちに大量の解雇を行わなければならないような切迫した事態にあるとは到底考えられません。

日本経済を雇用破壊と景気悪化の悪循環に突き落とすことになる

 この大量解雇を放置するなら、景気悪化をくいとめる歯止めをなくしてしまいます。日本経済を立て直す道は、外需依存から脱却し、内需に軸足を移す以外にないという認識は、立場の違いを超えて広がっています。内需を活発にすることが景気悪化をくいとめ、景気回復に向かう唯一の道であるときに、大企業が競い合って大量解雇をすすめるならば、どうなるでしょうか。それは家計消費の落ち込みをもたらし、さらに生産の減退や設備投資の減少をもたらし、日本経済を雇用破壊と景気悪化の悪循環に突き落とすことになるでしょう。個々の企業にとっては、人員削減は、瞬間的には、その財務状況を良くしたとしても、それがいっせいに行われるならば、経済と社会の前途を危うくすることになります。それは、企業の存立・発展を展望しても、自殺行為ではないでしょうか。

大企業の社会的責任を自覚した行動を緊急に求める

 日本経団連の初代会長である奥田碩氏は、かつて「不景気だからといって、簡単に解雇に踏み切る企業は、働く人の信頼をなくすに違いない。そして、いずれ人手が足りなくなったときには、優秀な人材を引き止めておけず、競争力を失うことになる」、「仮に現在、人が余っているというのなら、その人材を使って新しいビジネスに生かす努力をしてこそ、経営者というものです。それもできないようでは、経営者の名に値しません」(「経営者よ、クビ切りするなら切腹せよ」)とのべています。こうした精神にたって、経営者としての責任を果たすことが、いま求められているのではないでしょうか。

 日本を代表する企業千三百十五社、製造業やサービス業等の主要な業種別全国団体百三十団体、地方別経済団体四十七団体を擁する日本経団連が、大企業の社会的責任を深く自覚して、以下の事項の実行をはかるように、緊急に求めるものです。

 1、会員企業等にたいし、大量解雇計画の中止・撤回を働きかけられたい。

 2、違法な解雇、解雇権の濫用をおこなわないよう労働法制の順守を求められたい。

 3、不当な内定取り消しなど、社会的責任を放棄した行動をやめるよう働きかけられたい。

 4、労働者が解雇によって住まいまで奪われ、路頭に迷うような事態を引き起こさせないために万全の対策を講じるよう働きかけられたい。


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