2008年11月26日(水)「しんぶん赤旗」

経済時評

GMの経営危機

問われる産業・貿易政策のあり方


 これまで一世紀にわたって世界一の自動車企業として君臨してきたGM(ゼネラル・モーターズ)が、経営破たんの危機にひんしています。

 GMの株価は、一時は一ドル台にまで急落し、トヨタの時価総額の三十分の一以下になり、来春には手元の運転資金が枯渇、本社ビル売却まで検討していると伝えられます。

 GMの救済それ自体は米国の国内問題ですが、同時に、二十一世紀の産業政策や大企業の経営のあり方、市場と競争政策のあり方にかかわる重要な意味をもっています。

「救済法」か、「破産法」か

 米議会は今月十八、十九両日に、GM、フォード、クライスラーのビッグ・スリーを救済するための法案をめぐる公聴会を開きました。GMのワゴナー会長は、経営危機の原因について「販売の急減と金融危機」をあげ、経営戦略の失敗を認めようとしませんでした。

 たしかに米国の新車販売は、十月には前年比31%減、とくにGMは45%減となり、これはもう一種の“自動車恐慌”ともいえる不振ぶりです。もともと米国の自動車販売は、住宅販売と同様、消費者ローンに深く依拠してきました。そこへガソリン高騰、環境重視による低燃費志向が加わり、急激な信用収縮によって、GMの得意とする大型車の販売に急ブレーキがかかりました。

 しかし、GMの経営不振の背景には、短期的な利益を追求し、経営者と株主への利益配分を最優先する米国流経営の行き詰まりがあります。そのために、欧州や日本、中国、インドなどの新興国も加わった激しい新車開発競争に敗北したのです。著名な自動車産業アナリストのマリアン・ケラーは、すでに『GM帝国の崩壊』(原著は一九八九年)のなかで、巨大化したGM経営の病根を指摘しています。

 GMの場合、医療保険などの企業負担の債務が経営を圧迫しているともいわれますが、これは米国の社会保障制度の不備の影響です。

 GMの救済をめぐっては、新たに「救済法」を制定して公的資金の低利融資で経営を立て直すか、既存の「破産法」を適用して再建するか、このどちらかの選択が問われています。いずれを選んでも、資産の売却、工場閉鎖、労働者への過酷なリストラなどによる「再建計画」を提出するよう求められます。

 しかし、それだけでは、とりあえず株主と経営者を救済するだけで、米国の自動車産業を真に立て直すことはできないでしょう。GMが復活するには、二十一世紀に求められている自動車産業の再生めざして、労働者の雇用や労働条件、地域経済を守りながら、経営のあり方の根本的変革が必要でしょう。

「保護」か、「市場原理」か

 いまのところ米国内の世論は、政府がGMを救済することには、反対論が大勢のようです(注1)。米議会でも、民主党提案の救済法案にたいして共和党から反対意見が続出し、結論を十二月に持ち越しました。

 救済法案に反対する共和党の論拠は、国家財政で特定の企業や産業を救済すれば、競争の論理、市場の論理に反するということです。「新自由主義」の産業政策論からすれば、これは筋のとおった主張です。

 いま問われていることは、GMが破産した場合の米国経済への深刻な影響と、「新自由主義」の市場任せの産業政策のどちらを選ぶか、その“選択”といえるでしょう。

 もし米国が自動車産業の救済という産業保護政策を国内で選択するならば、WTO(世界貿易機関)の貿易交渉などで、他国の「保護主義」を批判し、「市場原理主義」を押しつけてきた貿易政策も根本的に見直すことが必要でしょう。自国は「保護主義」で、他国には「市場原理主義」を強要するというのでは、まったく筋がとおらないからです。

 いずれにせよ、米国の自動車産業を再建するためには、当面の公的資金の支援の問題としてだけでなく、これまでの米国の産業・貿易政策のあり方を、より長期的視点から根本的に再検討することが必要でしょう。

※  ※  ※  ※

 世界でいちばん読まれている経済学教科書といわれるJ・E・スティグリッツ教授の『入門経済学』(第二版)では、第一章で「自動車産業と経済学」をとりあげ、「経済学者にとっては、自動車産業は経済学に含まれるほとんどの分野を説明するための出発点の役割を果たす」と述べています(注2)。

 GMが開発・発展させたモデルチェンジなどのマーケティング手法、投資収益率などの会計手法、分権化などの組織手法などは、今日にいたるまで、大企業の経営手法の模範として定着してきました。P・F・ドラッカーがGMを調査して書いた『会社という概念』、A・D・チャンドラーがGMとフォードを比較した『競争の戦略』、GMの経営者だったA・P・スローンの『GMとともに』などは、経営学の古典的著作になっています。

 二十世紀には、発展する大企業のための「経営学」の素材を提供したGMは、二十一世紀のいま、没落の淵から再生の道を探る大企業のための「経営学」の素材を提供しているかのようにみえます。(友寄英隆)

注1)米民間調査会社ラスムッセンの調査では、救済反対が48%、賛成が35%という(「日経」十一月二十四日付)。

注2)スティグリッツは、二〇〇二年の第三版では、第一章を自動車産業でなく、「コンピューターとインターネットの発展」から書き始めている。

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