2008年11月14日(金)「しんぶん赤旗」

主張

前空幕長問題

指揮・監督の責任が問われる


 任命責任だけでなく、指揮・監督の責任が問われる―日本が侵略国家だったというのは「濡(ぬ)れ衣(ぎぬ)」だといい、戦前のアジア侵略を否定した田母神(たもがみ)俊雄前空幕長が在任中、職務権限を使って、憲法や政府方針に反する内容を教育していたことが、問題になっています。

 日本共産党の井上哲士議員が、十一日の田母神氏自身への追及に続いて、十三日には麻生太郎首相に重大な問題だと指摘したのに対し、首相も「不適切だ」「(幹部教育は)バランスの取れた内容に」と答えました。首相が本当にそう思うなら、指揮・監督の責任を取り、隊員教育を是正すべきです。

侵略正当化の幹部教育

 日本が侵略国家だったというのは「濡れ衣」だという田母神前空幕長の論文は、戦後の日本と国際社会の成り立ちそのものを根本からひっくりかえす危険な主張です。田母神氏が同じ主張を以前からくりかえしているのに、防衛省が「チェックできなかった」というのは無責任な言い訳にすぎません。

 田母神氏を空幕長に任命した政府は、更迭しただけで懲戒免職の根拠法が見当たらないかのようにいっていますが、最高法規である憲法の尊重擁護義務違反をことさら軽く扱う政府の姿勢こそ問題です。自衛隊への甘い態度に批判が噴出するのは当然です。

 しかもその田母神氏が、隊内での講話や幹部自衛隊員を対象にした教育で、アジア侵略を正当化した論文と同じ内容を教え込んだのを放置しておけば、それこそ第二、第三の「田母神」自衛官が生まれかねません。異常な教育を根本から是正し、憲法と政府方針をないがしろにする自衛隊内の危険な風潮を一掃することが急務です。

 田母神氏が空幕長時代のことし一月三十日、熊谷基地で行った講話では、政府の防衛政策の原則である「専守防衛」を「検討されなければいけない」とか、戦前の海外派兵を「侵略のためではない」と教えています。空自隊員の教育指導にあたる准曹士先任九十人にも、「東京裁判やいわゆる南京大虐殺にも触れながら戦後教育の危うさや自虐史観を指摘」(「朝雲」四月三日付)し、持論を教え込んでいます。これらは氷山の一角です。

 しかも田母神氏は、空幕長になる前の自衛隊統合幕僚学校長時代には、「歴史観・国家観」の講義を新設し、憲法・教育基本法の問題点、大東亜戦争史観、東京裁判史観などを課題にしました。井上議員の調べでは、二〇〇六年の講師は侵略戦争を美化する「新しい歴史教科書をつくる会」の福地惇副会長です。同氏は講義で、「『自存自衛』のための止むを得ない受身の戦争」だったとか、「現憲法体制は論理的に廃絶しなくてはならない虚偽の体制」とまで教えています。

全容をただす必要がある

 防衛省は講師名の公表には「本人の了承が必要」などと言い訳していますが、国家公務員、とりわけ戦争実施部隊である自衛隊幹部を教育するというのに、秘密にしなければならないような者を講師にすること自体が問題です。

 田母神氏を「定年退職」させ早期に幕引きをはかるだけでは、田母神氏が教え込んだ侵略戦争美化の「毒素」が残るだけです。軍部の暴走をくりかえさせないためにも、問題の全容を明らかにすることが不可欠です。首相はそのために責任を果たすべきです。



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