2008年10月24日(金)「しんぶん赤旗」

米兵犯罪の第1次裁判権放棄

日米密約の原文判明

新原氏公表


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(写真)新原氏が入手した裁判権放棄などの密約

 日本に駐留する米兵の「公務外」での犯罪で「著しく重要」な事件以外は日本の第一次裁判権を放棄するとした日米密約の原文が、二十三日に明らかになりました。国際問題研究者の新原昭治氏が国会内で米兵犯罪の被害者や日本平和委員会代表とともに記者会見し、公表しました。密約原文は新原氏が九月、米国立公文書館での米政府解禁文書調査で入手したものです。

 日本の第一次裁判権放棄に関する密約の存在は、米政府解禁文書などで分かっていましたが、原文が明るみに出たのは初めてです。新原氏は、入手した密約本文や関連資料を示し、「米兵の起訴をぎりぎり最小限にするのが(密約の)狙いで、それは今も生きている」と告発しました。

 密約は一九五三年十月二十八日、結ばれました。米兵・軍属・家族の犯罪に対する刑事裁判権について定めた行政協定第一七条を改定する議定書発効(同二十九日)の前日でした。同協定の運用について協議する日米合同委員会の裁判権分科委員会の非公開議事録として保管されていました。

 議定書発効により、米兵らの犯罪すべてに米側の専属的裁判権があるとしていた協定一七条は表向き、「公務外」の犯罪の場合は日本に第一次裁判権(優先的な裁判権)があるとの規定に改定されました。

 一方で、密約(非公開議事録)は、合同委員会裁判権分科委員会刑事部会の日本側代表(津田實法務省刑事局総務課長)の声明として、「日本にとって著しく重要と考えられる事件以外については第一次裁判権を行使するつもりがない」と明記。第一次裁判権の実質的放棄を約束しました。

 新原氏はまた、日本側が罪を犯した米兵の身柄拘束をできるだけ少なくするとの密約(非公開議事録)も結ばれていたことを初めて明らかにしました。

 同密約は、津田氏と裁判権分科委員会の米側代表であるアラン・トッド中佐が同年十月二十二日に署名。「法違反者が日本の当局により身柄を保持される事例は多くない」と明記しました。


 行政協定第17条改定 在日米軍の法的地位を定めた行政協定は1952年4月に発効しました。第17条の刑事裁判権条項は、53年8月にNATO(北大西洋条約機構)地位協定が米国で発効したのを受け、同年9月に表向きは同協定と同じ規定に改定され、NATO諸国並みになったと宣伝されました。


有事は裁判権全面放棄

米側、53年に「覚書」を提案

新原氏公表

 日本「有事」の際に、米軍の刑事裁判権に関する行政協定の規定を停止した場合、米側が米軍への専属的裁判権を復活させる提案を一九五三年に行っていたことが分かりました。国際問題研究者の新原昭治氏が二十三日の国会内での記者会見で米政府解禁文書を示し明らかにしました。

 米軍の特権的地位を定めた地位協定の前身である行政協定の第一七条は、五三年秋に改定され、日本への「敵対行為」が発生した場合、「公務外」での米兵犯罪で日本に第一次裁判権があるなどと規定した同条の適用を停止でき、その場合、それに代わる規定を日米が協議しなければならないと定めていました。

 在日米大使館の交渉記録(同年八月二十五日)によると、米側は同規定に関し「合衆国は日本地域における有事の際には、日本にある米軍への専属的裁判権を求める意図を有することを宣言する」との覚書を提案したことが明記されています。

 行政協定第一七条を引き継いだ現行の地位協定第一七条にも、日本「有事」の際の適用停止規定があります。新原氏は会見で、日本「有事」の際には米兵がどんな犯罪を起こしても日本側が裁けない仕組みをつくろうとするものだと厳しく批判しました。


判明した日米密約全文

米兵犯罪での日本の第一次裁判権放棄に関する密約

 行政協定第一七条を改正する一九五三年九月二十九日の議定書第三項に関連した、〔日米〕合同委員会裁判権分科委員会刑事部会日本側部会長の声明

 一九五三年十月二十八日

 裁判権分科委員会刑事部会

 □日本代表

 1.議定書第三項の規定の実際的運用に関し、私は、政策の問題として、日本の当局は通常、合衆国軍隊の構成員、軍属、あるいは米軍法に服するそれらの家族に対し、日本にとって著しく重要と考えられる事件以外については第一次裁判権を行使するつもりがないと述べることができる。この点について、日本の当局は、どの事件が日本にとって著しく重要であるかの決定に関し裁量の自由を保留することを指摘したいと思う。

 2.日本が裁判権行使の第一次権利を有する事例に関し起訴することを決定した場合、そのことを米軍当局に通告する。通告は、合同委員会が規定する一定の形式、適当な当局により相当の時間内におこなわれることになろう。

 3.上記声明は、議定書第三項の原則を損なうものと解釈されてはならない。

 議定書第三項に関する私の声明の解釈に関し、将来の紛糾を防止するため、私は以下の通り声明することが適切であると考える。

 議定書第三項(c)によると、日本政府が個別の事件で第一次裁判権を行使しないことに決定したときは、できる限りすみやかに合衆国当局に通告しなければならない。したがって、合同委員会が定める通告の期間満了までの間、日本政府が議定書第三項(b)に規定された第一次裁判権を行使しないものと想定してはならない。上記の私の声明は、この意味において解釈されるべきである。

 津田實(署名)

 裁判権分科委員会刑事部会日本側部会長

罪を犯した米兵の身柄拘束に関する密約

 行政協定第一七条を改正する一九五三年九月二十九日の議定書第五項に関連した、合同委員会裁判権分科委員会刑事部会日本側部会長の声明

 一九五三年十月二十二日

 裁判権分科委員会刑事部会

 □合衆国代表トッド中佐

 合衆国軍当局の管理下に法違反者が引き渡された上は、法違反者は、引き渡しがそのような条件のものであるならば、請求にもとづき、日本の当局の求めに応じられることを日本代表に保証したいと思う。

 □日本代表津田氏

 合衆国代表の保証に照らして、私は、このような法違反者が日本の当局により身柄を保持される事例は多くないであろうことを声明したいと考える。

 アラン・トッド中佐 (署名)

 軍法務官事務所

 裁判権分科委員会合衆国側委員長

 津田實(署名)

 裁判権分科委員会日本側委員長


 ()行政協定第一七条を改正する一九五三年九月二十九日の議定書第三項は、「公務外」での米兵犯罪について日本側に第一次裁判権があると規定。第五項は、罪を犯した米兵の身柄が米側にある場合、日本側が起訴するまで、米側が引き続き拘束を行うと規定。

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