2008年8月15日(金)「しんぶん赤旗」

預金2000万円が残高700円

盗難キャッシュカード引き出し

補償・救済制度に大穴


 ある日突然、銀行預金がなくなる―。盗難キャッシュカードによる預金払い戻しの被害は金融庁の調査で年間約五千件(二〇〇七年度)にのぼります。被害者らの訴えで預金者保護法が成立(〇六年施行)し、偽造・盗難カードの被害救済に道が開かれたものの、いまだに補償が行われないケースがあります。取り残された被害者からは銀行の責任を問う声があらためてあがっています。(本田祐典)


 「失ったものがあまりにも大きい。あきらめることができません」。埼玉県に住む男性(62)は語ります。約二千万円の被害を受けました。

パニックに…

 事件が発覚したのは〇四年八月でした。この日、男性は預金通帳を手に、東京三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)の支店を訪ねました。記帳してみると、残高が七百円ほどしかありません。「何がなんだかわからず、パニックになった」と振りかえります。

 最初の引き出しは〇四年六月二十九日の深夜、千葉県のコンビニのATM(現金自動預払機)でした。七月三日までの五日間、複数のコンビニで計四十七回にわたる引き出しの記録が残っていました。コンビニの防犯カメラには、犯人と思われる若い男性の姿も映っていました。

 男性は「本人確認が不十分なシステムで、勝手に第三者による払い戻しを許した銀行も応分の負担をするべきだ」と訴えます。

 口座は一九九八年に貯蓄用につくったもので、男性は一度もカードを使用したことはありません。いつ盗まれたのかも不明です。暗証番号は類推不可能なものでした。

遺失は対象外

 この事件で警察が受理したのはカードの遺失届だけでした。とられた場所と時間が特定できないからという理由です。預金の引き出しについては「調べているが窃盗にまで手が回らない」という対応のまま現在に至っています。

 男性への補償を拒んでいる三菱東京UFJ銀行は、その理由を「個別の事案には回答できないが、一般的に遺失など偽造・盗難以外の被害は預金者保護法の対象ではないから補償しない」(広報担当者)としています。

 預金引き出し被害の救済に取り組む「ひまわり草の会」の中林由美江代表は「預金者保護法で救われた被害者もいるが、法の抜け穴が大きく対象にならず苦しんでいる人も多い。法の対象であっても拒否する金融機関もある」と話します。

 「ひまわり草の会」に相談が寄せられた事例だけでも、補償を拒否されすでにあきらめた被害者が十人(計二千九百五十万円)、補償を求めて交渉を継続している被害者が九人(計四千百八十一万円)います。

一生かけても

 一方、金融庁は「法施行前の過去被害も含めて、銀行側の協力でおおむね補償はすすんでいる」(監督局第一銀行課)との認識です。中林代表は「対応は金融機関の裁量でまったく異なる。とくに地銀は法施行前の過去被害について一、二年前までしか補償しないところが多い。金融庁は実態を把握していないのではないか」と批判します。

 被害にあった男性は事件後、定年を待たずに仕事を辞め、銀行側に補償を求めて提訴しました。「銀行は不正な引き出しが起こる可能性を承知でカードという欠陥品を押しつけ、被害も預金者だけに負わせている。一生かかっても追及していきたい」と話しています。


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