2008年8月6日(水)「しんぶん赤旗」

原水爆禁止世界大会

被爆の痛み 継承・発信

国内外の青年が聞いた「ヒロシマ」


 被爆六十三年を翌日迎える五日の広島市で、青年たちが被爆者を訪問し、被爆体験を聞き交流しました。同市で開かれている原水爆禁止二〇〇八年世界大会・広島の分科会「青年のつどい・継承と発信」のとりくみです。海外からの代表を含め、全国各地から七百人が参加した分科会で、被爆体験を受け継ぐ青年たちの思いをみてみました。(野村説、洞口昇幸)


「帰国したら伝えたい」

 六カ国から海外代表の青年十八人と日本人の青年二人がグループを組んで訪れたのは、市内の広島共立病院です。

 被爆体験を語ったのは、爆心地から一・一キロメートルで被爆した恒松多美子さん(77)。「お姉さんごめんね、許して、許して」。多美子さんは、原爆の衝撃で家の下敷きとなった、お姉さんを助け出せなかった時のことを、こう話しました。

 当時十四歳だった多美子さんが被爆したのは市内富士見町の自宅でした。「西側の廊下が白く光って、気付いた時には体中にガラスの破片が突き刺さり、血が流れていました。翌日、焼けた家で両親は姉の死体を見付けました。姉は、手足はきれいに燃えていましたが、胸やおなかは焼けていなかったそうです。妹は翌々日の八日に紫斑病がでて死に、母も九日に死にました。耳たぶや歯ぐきや指先の柔らかい所から出血をしていました」

 「今もまだ夢をみます。姉の死体を泣きながら掘る夢です。心に受けた傷は癒えません」

 被爆者から被爆体験を聞くのは初めてという海外の参加者たち。

 アメリカから来たショーンさん(22)は今年の春に大学を卒業したばかり。「彼女はとても強いと思った。自分ならきっと耐えられない」とのべました。ショーンさんは、「アメリカ人の多くは広島について知らない。帰国して彼女の告白を伝えたい」と語りました。

 イギリスから来日したアンナさん(24)は、反核運動団体「核軍縮キャンペーンCND」の平和教育担当です。「多美子さんの思いをイギリスの子どもたちに伝えます」と語りました。

 「勇気をもらいました」と語るのはフランス人のエリーズさんとクリスティーナさんの二人です。「核兵器を放棄するためのたたかいにおいても重要な証言でした。話を録音したので、持ち帰って広めます」と言いました。

 インドから参加したシンドゥーさん(30)は「彼女の受けた痛みは想像ができない。私たちは誰もが、何かをしなければいけない」と原水爆兵器に対する怒りを表しました。

 祖母が広島市の部品工場で被爆したという女性(31)=幼稚園教諭=は「真剣に聞き入る外国人の姿勢に胸を打たれた」と話しました。

「私たちも何かしたい」

 同市矢賀地域で開かれた体験を聞く会では十人の青年に、三人の女性が被爆体験を語りました。参加した青年は、北海道や東京、三重、岡山などからやってきた人たち。ほとんどが世界大会初参加で被爆者から直接話を聞くのも初めてでした。

 柏木幸子さん(80)=仮名=は今回、初めて人前で自分の被爆体験を話しました。「思い出したくなくて人に話すのは嫌でした。けれどもう八十歳になったし、一回は話してみようと思いました」

 当時小学校の臨時教員だった柏木さんは、ほかの先生たちとトラックで荷物を運んでいるときに爆心地から一キロメートルの地点で被爆しました。十七歳でした。足から顔まで髪の毛もなくなるほど全身に大やけどを負い、「これは夢か、怖い夢だ、それでも夢であってほしい」と願ったと言います。

 柏木さんはなんとか一命をとりとめました。しかし、「心の傷はなかなか癒えませんでした。なぜ、私も連れて行かなかったのか(死ななかったのか)と悩んだ時期もありました」と涙ながらに語り、最後に「二度とこんなことは起こしてほしくない。核兵器廃絶を心から願っています」と訴えました。青年たちは真剣な表情で聞き入り、メモを取るのをやめませんでした。

 体験を聞いた後、青年と被爆体験者が意見・感想を交流しました。三人の被爆体験者は「何を憎んでいるかといえば戦争が憎い」「核兵器があるとまた悲劇が繰り返される」「これからは若いあなたたちの時代。核兵器廃絶のためにがんばってほしい」と呼びかけました。

 北海道から来た女性(23)は「ここに来るまで過去日本に戦争があったこと自体があんまり信じられませんでした。でも体験を聞いて戦争や核兵器の被害が身近に迫ってきました。感じたことを北海道に持ち帰りたい。『核抑止力』という考えは愚かだと思います」と話しました。

 岡山県から参加した女性(21)=看護師=は「これまで自分としては平和に過ごしていて核兵器の問題とか考えたことなかったけど、ここだけで終わらせたくない。次につなげる活動をしたいです」とのべました。

 「自分は送る側だったけど、前から世界大会に来たかった」と語る石川県の男性(32)=ホームヘルパー=は、「自分の中で何か変わったと思います。自分の力で何ができるか考えたい。思考を変えれば、核兵器廃絶のために世界を変えられるだろうと思いました」と語りました。



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