2008年7月7日(月)「しんぶん赤旗」

「ミサイル着弾」の誤報

住民“母に別れも”

消防庁システムが原因

危うさ露呈 「国民保護法」

福井・美浜


 福井県美浜町で六月三十日に、防災無線放送で町内全域に流された「ミサイル着弾」情報。総務省消防庁の警報システム(J―ALERT)の誤作動が原因でした。同町は「事故責任が消防庁にあることの公表」を強く求めています。警報システムは、米軍や自衛隊の軍事行動に自治体や住民を動員する有事法制の一つ、「国民保護法」に基づくものです。ミサイル情報から見えてくる「国民保護法」の危うさを追いました。(山本眞直)


 「お母さん、もう会えない、最後の声を聞かせて」。美浜町の隣接市の勤務先の母親に、泣きながら電話をかけてきた中学生のA子さん。

 この日、A子さんは、久しぶりに部活のない放課後を楽しもうと、仲良しグループで海岸に近い公園に来ていました。午後四時半すぎ。「ミサイル発射情報。当地域にミサイルが着弾する恐れがあります」

 付近の防災無線のスピーカーからサイレンとともに流された緊急警報。公園にいた住民はパニックに陥りました。おとなたちの「大変だ、ミサイルが飛んでくるぞ」の声に、女子中学生たちから笑顔が消え、恐怖で顔はひきつり、泣き声があがりました。

 A子さんは、死をも覚悟、せめて母の声が聞きたいと友人の携帯電話で勤務先の番号を押したのです。

 町は十分後に「ミサイル情報は誤報です」と放送しました。A子さんの祖母が言いました。「孫は母親思いのやさしい子、どんなに悲しい思いにかられたのか。こんなことは絶対にあってはならない」

責任公表を

 放送直後、町役場には「何がおきたのか」「ミサイルが飛んでくるのか」など五十件の問い合わせが殺到しました。

 この日、役場内にある警報受信システムの受信を知らせる回転灯に不具合があり、消防庁の電話指示を受けながら管理用コンピューターを再起動させたところ放送が流れたといいます。しかも同庁が点検用に送ったのが「訓練警報」ではなく本情報の「ミサイル発射(着弾)警報」でした。

 美浜町は三日、記者会見で消防庁の事故責任の公表と町民への説明を求めました。町役場幹部が「腹の虫が治まらない」とこう言います。「誤報発生について消防庁に問い合わせたら、『サミットで忙しい、それどころではない』といわんばかりの態度だった。誤報について町は何のミスも責任もないのに」。警報システムの不具合の原因は今も不明のままです。

 消防庁は、「原発テロ」を想定した全国初の住民動員による国民保護実動訓練(二〇〇五年十一月)を受け入れた美浜町に警報システムを優先整備しました。同システムの本格稼働は昨年六月二十九日でした。

 同警報システムを導入しているのは、全国六十二区市町村だけ。今年度三百団体が導入予定といいますが、それでも全区市町村の約五分の一。普及の遅れについて同庁は、自治体の財政負担や合併で防災無線の種類が異なり導入しにくい、などをあげています。

根深い疑問

表

 しかし国民の中には国民保護法への根深い疑問があります。原発テロの実動訓練の際、住民からあがった声はこうでした。「こんな訓練よりも、老朽化原発での相次ぐ事故への安全対策が先ではないか」。ミサイル誤報についてある町会長(66)はいいます。「警報サイレンは聞こえたが、家の中にいたので音声情報はほとんど聞き取れなかった。仮に本当の情報だとしてもどこに避難するのか、逃げ場もない。人心を動揺させるだけだ」

 消防庁の警報情報は十八種類。上位には弾道ミサイル、ゲリラ・特殊部隊攻撃、大規模テロ関連が並び「毎週のように訓練情報として流している」(同庁国民保護運用室)

 米軍のイラクやアフガニスタンでの軍事作戦の最大の口実が対テロへの先制攻撃です。誤報事件から見えてくるのは、米軍による海外での戦争に自衛隊を参戦、国民、自治体を協力させる有事体制=国民保護法の危うさです。


もどる
日本共産党ホーム「しんぶん赤旗」ご利用にあたって
(c)日本共産党中央委員会
151-8586 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-26-7 TEL 03-3403-6111  FAX 03-5474-8358 Mail info@jcp.or.jp