2008年6月15日(日)「しんぶん赤旗」

リスボン条約承認否決

アイルランドで国民投票


 【パリ=山田芳進】欧州連合(EU)の新しい運営体制を定めた基本条約、リスボン条約批准の賛否を問うアイルランドの国民投票(十二日)が十三日、開票され、53・4%の反対で否決されました。投票率は53・1%でした。

 リスボン条約は二十七の全加盟国の批准が必要なため、二〇〇九年一月の発効はなくなりました。同条約は、多数決制、大統領職などを導入し、EUの機能強化をめざしたもの。しかし前身の欧州憲法条約が〇五年にフランス、オランダの国民投票で否決されたことに続き、再び挫折しました。統合深化と拡大を続けてきたEUは当面、停滞が避けられないとみられています。

 条約はこれまで十八カ国が国会の多数により批准。アイルランドだけが憲法上の規定で国民投票を実施しました。

 欧州委員会のバローゾ委員長は同日声明を発表し、国民投票の結果を尊重するとしつつ、アイルランドの投票結果は、リスボン条約が解決しようとしていた問題を解決したことにはならないと主張。十九、二十日に開かれるEU首脳会議で対応を協議すると述べました。

 リスボン条約 二〇〇七年十二月、ポルトガルの首都リスボンで調印された基本条約。欧州委員の削減などの機構の効率化や迅速な決定が可能な多数決制を採用しています。輪番制のEU議長国に代わり、常任議長として任期二年半の大統領を選出し、外相に相当する外交安保上級代表がEUとしての外交を統括するなどEUの機能を強化。前身の欧州憲法に比べ、国歌・国旗や憲法の名称は削除し、連邦的な色彩を薄めました。ストなどの社会権を明記した「欧州基本権憲章」は条約本文には盛り込まれず、付属条項で触れられるにとどまっています。


解説

市民と政府ずれ浮き彫り

 アイルランド国民は、十二日に行われた国民投票で、リスボン条約批准拒否の意思表示をしました。この結果は、欧州統合を深化させようという各国政府の姿勢と、EU各国の市民の間にある不安とのずれを浮き彫りにしました。

 欧州議会内の社会党グループ「欧州社会党」のマルチン・シュルツ代表(ドイツ)は、「アイルランドの労働者が反対した事実が示すのは、われわれが望んでいる欧州とは、食料や燃料価格の高騰など、市民が日常生活で持つ危機感にこたえることのできる、より社会的な欧州だ」と述べました。

 各国で国民投票の実施を求めていた左翼政党などで構成する欧州統一左翼グループ代表のフランシス・ビュルツ氏(元仏共産党国際局責任者)は今回の結果を「有益な衝撃」と歓迎しました。

 もともと、欧州の左翼は欧州憲法のときから「新自由主義的条項がある」と批判。燃料高騰で漁民やトラック運転手などのストが相次ぐ中、有効な対策を打ち出せないEUに批判が集まっていました。

 理解が進まないままでの基本条約批准には国民の不安感も強く、アイルランドの反対派は、同国に伝統的にある平和・中立の外交政策を背景に「主権国家を見捨てるのか」とキャンペーン。投票結果は、基本条約による国家主権制限の可能性への不安が反映したものです。

 バローゾ欧州委委員長は、残りの国での批准手続きは「継続されるべきだ」とし、リスボン条約になお執着する構えです。しかし「欧州の戦略と市民の懸念との間には、かなりの温度差があることを示した」(フランスのジュイエ欧州問題担当閣外大臣)と認めざるをえない状況です。(パリ=山田芳進)


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