2008年6月1日(日)「しんぶん赤旗」

地位協定 裁判権 米の意のまま

米戦争体制支える「三重底」


 女子中学生への性的暴行、タクシー運転手刺殺など、相次ぐ米兵の凶悪犯罪…。その背景に、米軍の特権的地位を定めた日米地位協定の問題があります。国際問題研究者の新原昭治氏がこのほど、「米解禁文書に見る地位協定の構造的本質」と題して都内で行った講演をもとに、同協定の刑事裁判権をめぐる問題について考えました。


■表の構造

 日米安保条約に基づき締結された地位協定(一九六〇年)は「沖縄をはじめ日本全国に米軍基地体制が長く固定的に維持されるための非常に重大な法制」の一つで、「日本が独立国の名に値しない状況をつくりだして」(新原氏)います。

 その一例が、日本の主権行為の一環である刑事裁判から米兵を逃れさせる同協定の仕組みです。それは「三重底」「四重底」の実に巧妙な構造になっています。

 日本を旅行中の外国人や商社マンとして日本滞在中の外国人が罪を犯せば、米国人も含め日本の法律に基づき裁かれます。ところが、米兵の場合、そうとは限りません。

 米兵が「公務中」に起こした事件・事故は、裁判権を行使する第一次の権利(一次裁判権)が米軍側にあると、地位協定が定めているからです。(一七条3項a)

 「公務中」の認定の仕方は、日米合意議事録(六〇年)で規定。米軍指揮官が「公務証明書」を発行すれば、反証のない限り、「公務中」の十分な証拠資料になるとしています。つまり、米側が「公務証明書」を発行しさえすれば「公務中」と認められ、日本側が反証できなければ米兵の犯罪は裁けないことになるのです。

 これが「表」に出ている部分です。

 表に出ない部分もあります。その一つが地位協定の実施について協議する日米合同委員会の合意(原則、非公表)です。

 法務省作成のマル秘資料によると、日米合同委員会の合意には、車での基地外の住居と勤務場所の往復行為も「公務」になり、その際、飲酒をすれば「公務」の性格は失われるが、「公の催事」での飲酒ならそうならないことなどを定めているとされます。

 「公の催事」で飲酒し、帰宅途中に交通事故を起こしても、「公務中」の事故ということになります。こうした秘密合意は一体、いくつあるのか分かりません。

■裏の部分

 さらに裏の部分として日米間の密約があります。

 米兵の「公務中」の事件・事故は一九五二―二〇〇六年度で四万七千六百五十件にも上ります。ところが、日本政府が米側の「公務証明書」に反証した事例として挙げているのは、わずか二例です。(〇六年四月十四日閣議決定の答弁書)

 一つは、一九五七年一月に群馬県・相馬ケ原演習場で発生した女性射殺事件(ジラード事件)。もう一つは、七四年に沖縄県・伊江島射爆場で起きた青年狙撃事件です。

 しかし、ジラード事件は日本側が裁いたものの執行猶予付きの刑で犯人は米本国に帰り、事実上の無罪放免。裏には日米間の密約があったことがすでに米政府解禁文書で明らかになっています。

 伊江島狙撃事件については、当初、「公務外」としていた米側が突如、「公務中」だと言い出して日本側から裁判権を取り上げました。卑屈にも日本側は唯々諾々と従い、秘密の「覚書(メモランダム)」を交わしました。その詳しい経過を、新原氏は入手した米政府解禁文書で初めて明らかにしました。

 米側が一方的に「公務中」と宣言すれば日本側はほとんど抵抗、反論できず、仮にそうしても米側が拒否すれば引き下がらざるを得ないのです。

■解禁文書

 一方、地位協定は米兵の「公務外」の事件・事故は日本側に一次裁判権があると規定しています(一七条3項b)。しかし、日本側は一次裁判権をほとんどの場合、放棄する密約を結んでいたことが米政府解禁文書で明らかになっています。

 五七年にアイゼンハワー大統領に提出された世界の米軍基地の極秘報告は「秘密覚書で、日本側は、日本にとり著しく重大な意味を持つものでない限り、一次裁判権を放棄することに同意している」と明記しています。

 新原氏入手の米政府解禁文書で、六二年十二月―六三年十一月の一年間で、日本の裁判に付されるべき犯罪三千四百三十三件のうち日本側が裁判権を手放さなかったのは三百五十件でしかなかったことなども明らかになりました。(沖縄を除く在日米陸海空軍の合計)

 米軍が世界規模で無法な戦争に乗り出すための基地体制を支える地位協定の本質を明らかにし、国民的な批判を広げる取り組みが必要です。

 (榎本好孝)

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