2008年5月6日(火)「しんぶん赤旗」

マスメディア時評

憲法を現実に生かすことこそ


 施行から六十一年を迎えた憲法記念日にあたっての、全国紙などマスメディアの報道や論評は、安倍晋三政権が公約に掲げた改憲そのものの是非が焦点となった昨年と違って、いくつかの変化があります。ひとつは、いくつもの世論調査で憲法を守るという世論の顕著な前進が見られたこと、もうひとつは、多くのマスメディアの論調に、憲法の規範性を再評価し、憲法を現実に生かすよう求めるものが目立ったことです。

世論の変化と改憲派の焦り

 憲法を守るという点での世論調査の変化は、すでに四月はじめの「読売」の調査で、憲法を「改正しないほうがいい」が「改正するほうがいい」を十五年ぶりに上回り、逆転したことが大きな衝撃を与えました。三日付「日経」の調査でも「改憲」支持が48%と過半数を割り、「護憲」支持が昨年より8ポイントも増えました。同日付「朝日」の調査でも、改憲「必要」がなお「必要ない」を上回ったものの、九条についてみれば改憲「反対」が66%と、「賛成」23%との差をさらに広げました。

 「読売」や「日経」は「産経」などとともにここ数年、改憲を先導してきたメディアです。その調査で憲法を守るという点での世論の前進が見られたことは、改憲派にとっては大きな誤算でしょう。改憲論とのせめぎあいのなかでの国民の自覚の広がりとともに、「九条の会」をはじめとした憲法を守る運動の前進が変化をもたらしたことは明らかです。戦後初めて改憲を公約に掲げた安倍政権は、昨年の参院選挙での自民・公明の歴史的大敗で崩壊、改憲策動は大きくつまずいています。

 こうした世論の変化を背景に、ことしの憲法記念日にあたっての社説で「朝日」が「たった1年での、この変わりようはどうだろう」と書き、「毎日」も「あれほど盛んだった改憲論議が、今年はすっかりカゲをひそめてしまった」と書いているのは当然です。もちろん改憲派の動向にはなお警戒は必要ですが、国民の世論をさらに高め、追い詰めて、改憲の芽をつむことこそ重要です。

 一方、改憲を主導してきた「読売」や「産経」がなお「議論を休止してはならない」(「読売」)などと主張しているのは、世論の変化にたいする改憲派の焦りを示すものでしかありません。「読売」憲法特集や「日経」社説(「憲法改正で二院制を抜本的に見直そう」)は、衆参の“ねじれ”を解消するためにこそ改憲すべきだとしていますが、それこそ参院で与党の過半数割れをもたらした民意をわきまえない、短絡的な議論というほかありません。NHKも憲法記念日にあたって「いま立法府のあり方を問う」という特集を放送しましたが、“ねじれ”をもたらした国民の意思を生かすためにも、いまこそ二院制の機能を充実させることが重要です。

憲法と現実の落差に迫って

 こうした改憲派の議論と違って、多くの全国紙の社説で、憲法と現実の落差を直視し、戦争を禁止した九条や国民の生存権を保障した二五条、勤労の権利を定めた二七条などの役割を見つめなおす積極的な議論が相次いでいるのは心強い限りです。

 「朝日」は「ワーキングプア(働く貧困層)」の増大や映画「靖国」の上映妨害を取り上げて、「現実と憲法の溝の深さにたじろいではいけない」「憲法は現実を改革し、すみよい社会をつくる手段なのだ」と主張します。文字通り国の最高法規として規範となる、憲法の認める国民の生存権や言論表現の自由を実現していくことこそ求められます。

 「毎日」も同じように「『憲法』と『現実』の懸隔が広がっている」とイラク派兵やワーキングプアなどの問題を取り上げ、「憲法で保障された国民の権利は、沈黙では守れない」と国民に行動を呼びかけます。「毎日」がこのなかで、「『ねじれ国会』の非効率性だけをいうのは一方的」と批判し、「(『ねじれ』の前は)強行採決を連発する(自民党の)多数の横暴そのものだった」「『ねじれ国会』は、選挙で打開を図るのが基本」と主張しているのも、改憲派の議論との関連で注目されます。

 憲法を生かして現実に迫っていこうというこうした主張は、全国紙だけでなく、「北海道」、「河北新報」、「東京」(「中日」)、「京都」、「神戸」、「中国」、「西日本」、「沖縄タイムス」、「琉球新報」などほとんどの地方紙にも見られる視点です。なかでも、二日付から三回にわたって「暮らし」の観点から憲法を取り上げた「信濃毎日」の社説は、力の入ったものでした。

 そうした地方紙のひとつとして、「新潟日報」は次のように主張しています。

 「いま、私たちが優先すべきは憲法を変えることではない。戦後六十年以上を経て、社会の土台のあちらこちらにほころびが見える。憲法を尺度に世の中の揺らぎを自覚し、どう対処するかを考えることこそが求められている」

 まさに憲法はいまこそ旬なのです。(宮坂一男)



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