2008年4月3日(木)「しんぶん赤旗」

主張

「靖国」上映中止

表現の自由の侵害を許すな


 靖国神社をテーマにしたドキュメンタリー映画「靖国 YASUKUNI」にたいして、自民党の国会議員が攻撃し、右翼団体の妨害もあるなかで、東京や大阪で映画館が上映中止を決めました。憲法の保障する「表現の自由」を侵害し、民主主義の根幹を脅かす重大問題です。

「靖国」派議員の介入

 映画「靖国」は、日本在住の中国人監督が八月十五日の靖国神社の様子などを取材したドキュメンタリーです。小泉元首相や軍服姿の人々の参拝風景、合祀(ごうし)に反対する遺族、神社に納める「靖国刀」の刀匠の話などを紹介しています。

 作品は四月十二日から公開予定でした。ところが、一部メディアが昨年末以降、この作品を「反日映画」とするキャンペーンを始めました。それをうけて自民党の国会議員が文化庁に要求し、三月中旬に国会議員だけを対象にする試写会を開催させました。きわめて異例の事態です。

 さらに、自民党議員は三月下旬以降、この映画が政府の出資する芸術文化振興基金から七百五十万円の製作助成を受けたことを問題にし、助成金の返還を求める質問をくり返しています。これは自由な映画活動への不当な介入にほかなりません。

 この作品への非難の口火を切った稲田朋美衆院議員は、「靖国」派の推進部隊である「日本会議国会議員懇談会」事務局次長をつとめ、南京事件や沖縄戦での「集団自決」への軍の関与を否定する議論を唱えてきた人物です。今回の事態は過去の日本の侵略戦争を正当化する「靖国」派勢力による動きの一環です。

 自民党議員は、この映画を「反靖国プロパガンダ」ときめつけ、「政治性がある」から助成は不当だと主張しています。ある議員は、国会質問で、小泉元首相の靖国参拝違憲訴訟の原告が出演しているから「政治的宣伝」だとまでのべています。

 しかし、ドキュメンタリー映画が社会問題を扱うのは当然であり、そこに政府・与党に批判的な人物が登場することもありうることです。稲田氏らの主張は、映画が「靖国」問題をとりあげることを敵視し、自分たちの意に沿わない作品には助成するなというに等しいものです。

 自民党議員は、この映画が中国の映画会社との共同製作であることも問題視しています。しかし、芸術文化振興基金の規定は一定の条件のもとに合作映画への助成も認めています。文化庁も「助成手続きは適正」と説明しており、自民党議員の主張は難癖でしかありません。

 稲田氏らは「表現の自由」を侵すつもりはないと言っていますが、介入の意図をごまかす言い訳です。

 自民党議員の圧力に屈し、文化庁が劇場公開前の試写会開催や詳細な資料提供の便宜をはかったことも重大です。それが「靖国」派勢力を増長させ、事態を悪化させたのです。文化庁の対応は、適正に助成をうけた映画の普及を阻害し、国民から鑑賞の機会を奪うのに手を貸す行為といわざるをえません。

不当な圧力に屈しない

 すでに日本映画監督協会や映演労連(映画演劇労働組合連合会)をはじめ、多くの映画人が表現の自由を守ろうと声をあげています。

 映画館側には、映画芸術の一翼を担うものとして、不当な圧力や妨害に屈せず、表現の自由を守りぬく責任を果たすことを強く望みます。

 日本共産党は、綱領に「文化活動の自由をまもる」ことを明記する党として、映画の表現や公開の自由を守るために力をつくします。



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