2008年1月31日(木)「しんぶん赤旗」

「高学歴難民」どうする

就職口ない博士/身分不安定な研究員

学術研究の将来に影


 大学院の博士課程修了者(年間約一万六千人)の半数近くが就職できず、「高学歴難民」などと呼ばれ社会問題化しています。研究者をめざして短期契約の非常勤研究員「ポストドクター」(ポスドク)や大学の非常勤講師に就いても、その後の雇用確保が困難で閉そく感さえ生まれています。日本の学術研究と社会の将来にかかわる問題です。二月二日に、その解決の展望を考えるシンポジウム(主催・日本共産党学術・文化委員会)が開かれます。(三木利博)


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(写真)党ホームページに開設の若手研究者アンケートに寄せられた切実な声

 物理系の博士号を二年前に取得した男性(33)は現在、二年の任期で大学のポスドクに就いて研究生活を送っています。任期は来年秋まで。業績次第では一年延ばすことができるといいます。「大学側から、来年度の若手研究者の財源が確保されているわけではないと言われ、四月からの生活に不安を感じますが、真に受けないことにしています。そうしないと精神的に参るから」と話します。

じっくり研究したいのに…

 研究上の悩みも尽きません。

 「今の研究環境は短い間に成果を求められる。大きな目標があっても、時間がかかる研究はできません。研究者として生き残るために小さな業績をたくさん積み上げていくしかない。じっくり研究したいのに」

 収入は月三十万円。結婚しています。妻はフリーター。「将来どうなるか、お互いに答えられないから、どちらも黙っています」といいます。

 「次の行き先を一生懸命探してます」というのは生命系のポスドクに就く男性(28)です。頻繁にインターネット上の研究者の公募データを見ては関係機関に書類を出し続けています。現在の任期は来春まで。

 「大学のプロジェクト研究の中から私の人件費も出ています。『プロジェクトに寄与せよ』が課せられた仕事。まとまった研究がしたいけれど、そんなプロジェクトはありません。今を生きるのに精いっぱいです」

 周囲のポスドクの研究者は三十代後半が多く、先が見えないので結婚をためらう女性もいるといいます。「三十代後半まではポスドクの仕事は割にあるんです。しかし、常勤職が非常に少ないので、その年齢になったら研究を続けるかどうか判断を迫られます。今の制度は無責任に若い研究者を雇っている感じがして、研究者を生殺しにしているようだ」と語ります。

 今月中旬、日本共産党のホームページに開設した「若手研究者アンケート」にも、「博士課程を出ても非常勤講師の職さえ手に入らない」「最低限でもいいから研究するための環境を用意してほしい」と、ポスドクや非常勤講師、大学院生から切実な声や要望が続々と寄せられています。

 文科省調査によると、ポスドク(約一万五千人)の四割は社会保険に加入しておらず(大学は非加入者が五割以上)、非加入者は日々雇用や週当たりの勤務時間が常勤の四分の三に満たないなどの実態が明らかになっています。

 大学の非常勤講師を専業にする人(約二万五千人)の四割が年収二百五十万円以下で、社会保険の加入は一割以下といいます。

政府の政策がつくった事態

 こうした若手研究者の雇用不安は政府の科学技術政策で生み出されました。一九九〇年代に大学院生の倍増計画を推し進めましたが、大学の教員の枠などを抑制してきたからです。さらに、政府は国立大学や独立行政法人研究機関に毎年、教員数などに応じて国から配分され大学の運営に欠かせない運営費交付金の一律1%削減や人件費の5%削減を押しつけるなかで、ポスドクの採用が、科学研究費補助金などの競争的資金でおこなわれることが多くなっています。

 これらを抜本的にあらため、必要とされる教員や研究員の増員をはかることが求められています。

 昨秋、この問題で日本学術会議のシンポジウムが開かれた際、有馬朗人元文部相が「国は教育費への公財政支出を増やしなさい。大学の教員削減はやめなさい」と強調していました。日本の高等教育費はGDP比0・5%でOECD加盟国(三十カ国)で最低だからです。有馬氏は「イギリス並みの0・8%にするだけで日本の高等教育は抜本的に良くなる」と力を入れて話していました。貧困な日本の高等教育政策にメスを入れることはこの問題の解決にとって不可欠です。

 大阪大学先端科学イノベーションセンターの兼松泰男教授はこう話します。

 「ポスドクを二回、三回と繰り返す研究員もいます。プロジェクト研究を渡り歩いて業績が積み上がらず、将来展望を持てなくなるのは当然です。しかし、今や大学などの研究はそうした研究者に支えられています。成長が期待され、研究者として最も重要な時期を不安定な雇用下に置かれているのは不健全です。ましてや公的な機関で非正規労働の液状化のようなことがあっていいわけはない。といって大学院生を減らすなら、社会全体として地盤沈下を起こしかねません」


来月2日にシンポ

 日本共産党学術・文化委員会主催の「若手研究者の就職難と劣悪な待遇の解決のための公開シンポジウム」は2月2日(土)午後1時半から、日本青年館6階グリーティングルーム(JR千駄ヶ谷駅より徒歩9分)で。

 パネリストは、榎木英介・NPO法人「サイエンス・コミュニケーション」代表理事、岡田安正・元産総研主任研究官、坂東昌子・日本物理学会キャリア支援センター長(愛知大学教授)、吉田裕・一橋大学大学院社会学研究科教授、石井郁子・日本共産党衆院議員・党副委員長の各氏。

 参加費無料。問い合わせは、学術・文化委員会 電話03(5474)4820

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