2008年1月22日(火)「しんぶん赤旗」

霊視番組は倫理違反

江原啓之氏出演のフジTV

BPO


 フジテレビが昨年七月二十八日に放送した「FNS27時間テレビ『ハッピー筋斗雲』」が放送倫理にふれると指摘を受けて審議を重ねてきたBPO(放送倫理・番組向上機構)の放送倫理検証委員会(川端和治委員長)は二十一日、記者会見を開き、同番組は「制作上の倫理に反すると判断した」と発表しました。判断結果はフジテレビに自省を促す「意見」として公表されます。

 同番組は、東北地方で美容院を経営する女性を“ドッキリカメラ”的手法で、自称スピリチュアルカウンセラー(霊能者タレント)の江原啓之氏が「霊視」し、「亡き父親の言葉」を伝えるというもの。その中で江原氏は、女性が取り組んでいる被災者などにリンゴを贈る活動が美容院を経営難にしていると、一方的に断定しています。

 委員会審議の結果、霊能師ありきの企画・構成や、美容院を「経営難」と断定している二点について、「倫理上の疑義がある」と指摘。「放送倫理基準が慎重な扱いを求める『スピリチュアルカウンセリング』なるものを、『おもしろく』見せるために、一方的に出演させた人の生活状況を十分な裏付けも取らずにおとしめている」と判断理由をのべています。

 フジテレビに対しては、「裏づけに欠ける情報の作為」「スピリチュアルカウンセリングの押しつけ」などに自省を求めています。

 フジテレビは同日、「今回の意見書を真摯(しんし)に受け止め、今後の番組制作に役立てていく所存です」とのコメントを出しました。


解説

“霊”番組への警鐘

 マスコミ界はBPO・放送倫理検証委員会の指摘を、当該番組だけでなく「スピリチュアル」番組全体への警鐘と受けとめるべきです。

 意見書によると、局側が事前に女性に関する片寄った情報を伝え、江原氏はその誤りにも気付かないまま亡父の「言葉」を紹介しています。

 守護霊や先祖霊の言葉は、霊能者がそう「感じた」「思った」だけのもの。それを断定的、短絡的に伝えるところに、一連の番組の共通した特徴があります。民放連の放送基準は「占い・運勢判断およびこれに類するものは、断定したり、無理に信じさせたりするような取り扱いはしない」と述べています。

 全国霊感商法対策弁護士連絡会が昨年二月に節度ある放送を申し入れて以後、一部番組では「科学的に立証されていない」という趣旨のテロップを流していますが、それだけでよいのか。

 弁連は、番組には「霊界や死後の世界を安易に信じこませ」る効果があり、霊感商法などの犯罪を生み出す温床になっていると指摘しました。実際、統一協会は洗脳施設のビデオセンターでこれらの番組のビデオを教材に使っています。占いやヒーリングを看板にして高額商品を買わせたり、法外な「祈祷(きとう)料」を巻き上げる事件も急増。昨年末に発覚した「神世界」は氷山の一角です。

 金銭被害だけではありません。人々の悩みや社会の不安に霊界を使った短絡的な結論を押しつけ、なぜそうなるのか考える努力を放棄させていることです。弁連の紀藤正樹弁護士は「こうした思考放棄を社会にまん延させ、本当の知への努力ができない人たちを大量に生み出す」ことの怖さを指摘しています。

 番組の「癒やし」効果を主張する人もいますが、その「癒やし」は「脅し」と表裏一体です。悩みや不安の原因はなにか。それを科学的に、視聴者とともに検証することこそがメディアの役割ではないでしょうか。(柿田睦夫)


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