2007年11月6日(火)「しんぶん赤旗」

若手研究者の就職難打開の道探るシンポ

学術会議


 「研究・教育者等のキャリアパスの育成と課題」(主催・日本学術会議生物科学分科会)と題して公開シンポジウムが都内で開かれました(十月十八日)。

 キャリアパスとは大学卒業後に研究職についた人たちがどんな職歴をたどるかの意味。若手研究者をめぐっては博士課程修了者(年間約一万七千人)の半数近くが就職できない、学位取得後に短期契約の非常勤研究員「ポスドク」(約一万六千人)になるが、その後の雇用確保が困難であるなど、就職難が深刻化しています。このために博士課程進学者が減少するなど、学術研究の有能な担い手の確保が困難になりかねず、科学技術の将来にかかわる問題となっています。

 シンポジウムはこの問題の現状や課題を大学関係者や博士学位取得者を採用している製薬企業の経営者、文科省担当者などの報告を交えて話し合われました。

 東京大学教授の宮島篤氏は、さまざまな機関の調査からポスドクの現状分析を報告し、文科省調査でポスドクの社会保険加入率は五割以下であり、東大のアンケート調査では年収が三百万円以下のポスドクが三分の一もいるとのべ「きわめてきびしい」と指摘。大阪大学教授の兼松泰男氏は同大の「ポスドクは大学法人化後にドンと増えて状況が深刻化している」として、ポスドクを繰り返す研究員は分野が変わったり成果が積み上げられない、年収が二百万以下の人もいるなど「ポスドクといっても一様でなく、さまざまな問題を抱えている」とのべました。

 東北大学教授の大隅典子氏は、解決のために「大学や大学院の教員を増やすべきだと切に思う」とのべるとともに、実験内容の高度化に伴い、技師などの研究支援者を常勤職として置くことが必要だと語りました。前出の兼松氏は大学での支援について報告し、当面の対策として大学予算のなかでの正規雇用の確保やポスドクの優先採用、学部・大学院でのキャリア教育などを挙げました。

 シンポジウムでは有馬朗人元文部相が基調講演し、「日本の一番の問題」として「教育費への公財政支出を増やしてほしい」といい、現在、国立大学の人件費が減らされ大学の教職員の削減が起きているが「これをなんとか防がなくてはいけない」と強調。とくに高等教育はGDP比0・5%で、OECD加盟国(三十カ国)でもっとも低いため、父母負担を多くし少子化をあおっているとのべて、「イギリス並みの0・8%にするだけで日本の高等教育は抜本的に良くなる」と訴えました。

 討論では、大学院生から、大学院の定員が多すぎるのではといった声や、教員からは「法人化以後、教員一人が何から何までやり、大学院教育などの経済的時間的余裕がない。基盤的経費が削られるなかで、お金を手当しようとすればプロジェクトを創り、忙しくなる」と切実な声も出ました。

 学術会議生物科学分科会委員長の中島明彦東大教授は最後に、「若い研究者は将来に不安を持っている。閉そく感がただようことが日本の科学の危機だと思う。学術会議としても次にどうしていくか真剣に考えていきたい」とのべました。


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