2007年10月10日(水)「しんぶん赤旗」

時の焦点 綱領の目で考える

社会保障予算抑制

いまこそ路線転換を


 福田康夫首相に対する衆院本会議での代表質問(四日)で、日本共産党の志位和夫委員長は、「構造改革」にもとづく「社会保障予算抑制路線」の転換を強く求めました。国民の命の支えとなるべき社会保障制度から人々を排除する事態まで生み出した「抑制路線」の実態と打開の方向を考えてみました。


命脅かす連続改悪

 「改革には痛みが伴う」と宣言して二〇〇一年四月に小泉純一郎内閣が発足して以降、政府は高齢化などにともなう社会保障予算の自然増さえ認めず、毎年、三千億円―二千二百億円の必要な予算増を圧縮してきました。

 この大規模な予算削減のために自民・公明政権が実行してきたのが、社会保障制度の連続改悪です。〇二年の医療改悪を皮切りに、年金、介護、障害者福祉、生活保護など、国民生活のあらゆる分野で、負担増と給付減を押し付ける大改悪を次々と強行しました。(左表)

 医療では、患者の窓口負担が現役世代、高齢者ともに引き上げられました。その結果、具合が悪くても医療機関に行かなかった人の割合が低所得層(世帯年収三百万円未満など)で四割にのぼる(日本医療政策機構の調査、今年一月)など、医療費が心配で受診を控える人が増えています。

 また、高すぎる国民健康保険料が払えずに国保証を取り上げられる世帯が三十五万世帯も生まれ(〇六年)、病院に行けずに病状が悪化する事態が全国で続発。日本共産党の調査では、重症化した患者の事例が千件以上報告されました。

 療養病床の二十三万床削減計画による長期入院患者の追い出しや、医師不足による医療崩壊などで「医療難民」が急増し、命と健康が脅かされています。

 介護では、〇五年の改悪で「軽度」の人を対象に「介護予防の重視」を掲げ、サービス利用を抑制。ヘルパーの訪問削減や、二十八万人から介護ベッドや車いすの取り上げなどが行われ、多くの「介護難民」を生み出しました。

 負担増は、障害者福祉への定率一割負担の導入など、弱いところにも容赦なく襲いかかりました。国民生活の最後の命綱である生活保護では、保護の打ち切りによって餓死、自殺に追い込まれるという事態まで起こっています。

 こうした政府の「抑制路線」に、日本医師会などがつくる国民医療推進協議会が「医療費削減政策を続けてきたために、医療の現場では人的にも機能的にも極限状態での医療の提供が強いられ、地域医療の崩壊ともいうべき危機的状況を招いています」と指摘するなど、党派を超えた怒りが広がっています。

一時しのぎでなく

 参院選での国民の厳しい審判を受けて、福田首相は「構造改革を進めるなかで、格差といわれるさまざまな問題が生じた」と述べ、来年四月から実施予定の高齢者医療費負担増の一部凍結や、障害者自立支援法の見直し、児童扶養手当の削減凍結などを打ち出しました。国民の声が、政治を動かし始めた結果です。

 ただし、検討されているものは、負担増の一部実施を半年から一年程度「凍結」するという、一時しのぎのものにすぎません。児童扶養手当では、所得によって「凍結」を限定する案まで出ています。

 福田首相は、大本にある「構造改革」路線について「改革の方向性は変えない」と継承を主張。二〇一一年度まで毎年二千二百億円もの社会保障予算を削る方針も続けようとしています。

 しかし、社会保障予算の抑制路線を転換しない限り、「一部負担増の凍結」は一時しのぎに終わるか、社会保障のほかの分野で新たな負担増を国民に強いることにしかなりません。

 一般紙でも「高齢者に優しい政策も衆院選までということか」(「毎日」九日付社説)と指摘。「本気でこの問題に取り組もうとするなら政策転換の覚悟が必要だ」(同前)と主張しています。

日本共産党の立場 財源と根本的打開策示す

 日本共産党は、自公政権が進めてきた「構造改革」「社会保障予算抑制路線」と正面から対決し、社会保障制度の連続改悪に反対を貫き、根本的な政策転換を求めてきました。

 七月の参院選では、命の切り捨てをやめさせ、生存権を守るために、「緊急福祉1兆円プラン」を提起。国民健康保険料の一万円引き下げ、障害者自立支援法の「応益負担」の撤回、母子家庭への児童扶養手当削減の中止など五項目を提案しました。

 社会保障抑制路線転換のための財源として、大企業・資産家へのゆきすぎた減税をただすこと、年間五兆円におよぶ軍事費にメスを入れることなどを示しています。

 自公政権や日本経団連など財界は、社会保障費を「過大」だとし、負担増・給付減を正当化しています。これに対し日本共産党は、日本の社会保障給付費は国内総生産(GDP)比で17・5%で、イギリス(22・4%)、フランス(28・5%)、スウェーデン(29・5%)などよりも低水準であることを告発してきました。

 日本共産党は綱領のなかで、当面する日本社会の民主的改革の主要な内容として、経済民主主義の分野で次のように明記しています。

 「国民各層の生活を支える基本的制度として、社会保障制度の総合的な充実と確立をはかる。子どもの健康と福祉、子育ての援助のための社会施設と措置の確立を重視する」「国の予算で、むだな大型公共事業をはじめ、大企業・大銀行本位の支出や軍事費を優先させている現状をあらため、国民のくらしと社会保障に重点をおいた財政・経済の運営をめざす」

 この根本に生存権を規定した二五条をはじめ憲法を守り生かすという立場があります。社会保障制度の拡充は、国民の苦難を解決するために全力をつくすという「立党の原点」なのです。


生存権否定の政治 たたかいでかえよう

 朝日健二さん(特定非営利活動法人朝日訴訟の会理事)の話 生活保護の憲法上の位置づけが争われた「朝日訴訟」の一審判決(一九六〇年)は「(憲法二五条の定める)最低限度の水準は決して予算の有無によって決定されるものではなく、むしろこれを指導支配すべきものである」と述べています。

 この判決の翌年から、生活保護基準が引き上げられ、社会保障制度の改革が一気に進みました。

 それからおよそ半世紀たった今、年間三万人超の自殺が九年続いています。人口規模で比べると五四年から七年間にわたり、毎年二万人を超える自殺者を出した朝日訴訟の時代と同じ水準になります。当時も社会保障が抑制された時代でした。

 社会保障推進のたたかいの上に、今日の社会保障の権利があります。それが、小泉「構造改革」以降の政治で、根こそぎ奪われつつあります。生存権を否定する政治の転換をはかることが急がれます。

表

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