2007年10月4日(木)「しんぶん赤旗」

経済時評

介護現場の声に耳澄ます時


 九月下旬の早朝、新聞を開くと総合人材サービスのグッドウィル社の大きな折り込みチラシが入っていました。《掃除、洗濯などの家事代行サービスが2時間で3980円》という広告です。同社は、介護保険の不正請求で摘発されたコムスンと同じグッドウィル・グループ(以下GWGと略)の中核会社です。

 GWGのホームページを開いてみると、ちょうど九月二十一日付で、コムスンの全介護事業を六百三十億円で同業他社に譲渡する契約を結んだという社告が掲載されていました。

介護報酬を二度も引き下げて労働条件をますます悪化させた

 コムスン事件を契機に、介護保険のかかえる深刻な問題点がいっきょに明るみに出てきました。とりわけ重要なことは、介護の職場で働く人たちの賃金が、その仕事の大切さにくらべてあまりにも報われていないことです。

 政府の統計では、全労働者の平均賃金が約三十三万円なのにたいし、介護労働者は約二十一万円です。しかも、自公政府が介護報酬を〇三年度に2・3%引き下げ、さらに〇六年度にも2・4%引き下げたため、賃金水準はいっそう押し下げられています。(図)

 全労連のホームページの「ヘルパーネット」には、介護の現場で働く人たちの切実な声が寄せられています。

 「給料が安い、拘束時間は長い、トラブル処理もたいへん」(30代女性)。「ヘルパーも働く労働者です。最低賃金の確保がほしい」(50代女性)。「介護保険法の変更に伴い現場では不安を抱えている。国は私たちを雑巾(ぞうきん)のように替えのきく労働者と思っているのかと腹立ちを覚える」(40代女性)

 二〇〇五年の介護保険法の改悪は、「要介護1」の受給者を「要支援」に移し、介護サービスを大幅に削減しました。これは、介護報酬の大幅減をもたらしています。

自動車会社の期間工募集に福祉の人材が取り込まれている

 コムスン事件が連日報道されていた三月から七月にかけて、厚労省の社会保障審議会福祉部会は、「介護の人材確保のための指針」の検討(旧指針の改定)をすすめてきました。その議事録が厚労省のホームページに公開されています。国民から募集した意見や統計資料などを含めると四百ページを超える膨大な議事録です。それを読むと、介護現場が直面する課題が鮮明に浮かび上がってきます。

 「介護報酬は、たいへん重要な仕事をしているわりには評価が低い。財務当局は単価を下げることに一生懸命だが、……国民的世論を起こさないと介護の分野はよくならない」

 「大賛成だ。待遇、とくに賃金がきちんと確保されるように強力に財政当局に働きかける必要がある」(三月二十九日の議事録)

 介護の労働条件が改善されないのは、一部の営利企業の「もうけ主義」だけが原因ではない。その根本は、介護報酬の低い単価の仕組み、介護保険へまわす国の財源が決定的に少なすぎることです。

 愛知県の特別養護老人ホームの施設長さんは、福祉部会で次のように報告しています。

 「介護福祉の養成学校を卒業し資格を持った人材が、大手自動車会社の期間工募集にとりこまれていくのが残念でならない」

 景気回復で大もうけしている民間大企業の労働力確保のためには、介護や福祉の労働条件を低く抑えておくほうが有利だという労働市場のゆがんだ構造が垣間見えてきます。

 福祉部会の議事録を読んでから、介護現場の声を直接聞くため、東京都国立市の特別養護老人ホーム(くにたち苑)を訪ねてみました。施設長さんは、こう話してくれました。

 「政府は、『介護施設は黒字だ』などといって介護報酬を引き下げているが、東京の四百近い特養は、介護報酬の収入だけでは約半数が赤字です。大都市ほど人件費や物件費が高いため、地方より人材確保は深刻で、逆の地域格差が深まっています」

 こうした介護現場からの痛切な声、政府自身の審議会が決めた「人材確保の指針」にどう応えるか。政治の責任が問われています。

介護保険制度にならって後期高齢者医療制度も設計された

 これまで、財界と自公政府は、介護保険制度の導入・改悪を社会保障「構造改革」路線の突破口に位置づけてきました。

 たとえば、介護保険の施行直後の二〇〇〇年十一月に経団連が発表した提言は、「介護保険制度との整合性を図る観点から、『世代内保険』の考え方を基本に(高齢者医療の)制度設計を」と主張し、こう要求していました。

 「(介護保険にならって)今後は、高齢者医療についても、『自立・自助・自己責任』の要素を高めていく」。「七十五歳以上の後期高齢者については、前期高齢者に比べて要介護の発生率が一段と高く、入院患者の割合も高いことから、七十五歳を境にして自己負担、保険料等の取扱いに差を設けた制度とする」

 自公政府が今年六月に決めた「骨太の方針2007」では、介護という言葉が十四カ所も出てきます。しかし、それらはすべて介護サービスをいっそう「効率化」し、介護報酬をさらに削減すべしという、社会保障「構造改革」路線の文脈です。

 福田首相は、十月一日の所信表明演説で「年金、医療、介護、福祉といった社会保障制度は、国民の立場に立ったものでなければなりません」と述べました。

 そうであるなら、いまこそ介護現場から聞こえる悲鳴のような声に真摯(しんし)に耳を澄ませて、介護報酬を引き上げ、社会保障「構造改革」路線の転換をはかるときです。(友寄英隆)

グラフ


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