2007年10月3日(水)「しんぶん赤旗」

主張

力士の死亡事件

大相撲から暴力体質の一掃を


 土俵が死への修羅場になっていたとは、あまりにも無残です。

 大相撲の時津風部屋で六月末に急死した十七歳の力士の死因は、部屋ぐるみの集団リンチによる外傷性ショック死でした。親方自らがビール瓶で顔やひざを殴り、兄弟子らが金属バットを振るい、「ぶつかりげいこ」と称して体力の限度を超えていじめぬいたといいます。

変わり果てた姿で

 入門後わずか二カ月で変わり果てた姿で帰って来た息子に、両親は衝撃を受けました。死因に不信を抱いて訴え、警察が捜査に乗り出したことでむごい事実が判明しました。わが子をあずけた両親にとって悔やんでも悔やみきれない事態でしょう。

 どんな理由をつけようと、暴行・リンチで人の命を奪う蛮行は、いかなる世界でも許せないことであり、明白な犯罪行為です。いくら“荒げいこ”がつきものの大相撲でも、「やり過ぎただけ」といってすまされる問題ではありません。

 事件の対応では、日本相撲協会は後手に回ってきました。初期対応では、「病死で事件性はない」との親方の報告をうのみにして、不問にしました。しかし、ことは入門したばかりで、協会が直接指導する六カ月間の教育期間にある力士の急死です。協会として力士の健康や安全にもう少し気を配っていたら、死因を直接確認する道もあったはずです。

 警察の捜査の手が入って、事件性が明らかになってからも、協会は「警察の捜査にお任せする」との態度に固執しました。これは、問題の深刻さを相撲界全体が認識しているとはとても言い難い態度です。

 ほんらい土俵は、相撲を通じてたくましく、人格的にも立派な力士に成長していく道場でなければなりません。それを死のシゴキの場に変質させたのが今回の事件です。

 しかも事件は氷山の一角にすぎず、けいこに名を借りて「かわいがり」といった暴力行為がはびこっていると聞きます。過去十年間で現役力士の急死者は四人、そのうち十七歳以下が三件もあり、いずれも虚血性心不全など心臓疾患が死因です。事態を単なる「病死」の報告ですましてきたところに、力士の人権と生命にたいする感覚がまひしているのではないかと、深い疑問を抱きます。

 こんな暴力体質の根深い大相撲の世界に、将来の関取を夢みて若者が飛び込んでいくでしょうか。親にしても、いつくしんで育ててきたわが子を、命がさらされる鬼門にわざわざ送りだすはずもありません。

 きびしい批判を浴びて、やっと時津風親方の事情聴取をした日本相撲協会は、五日の理事会で同親方を解雇・追放など厳罰に処す方針を固めました。また、新たに「力士の指導に関する検討委員会」を設置して、過去の死亡報告の再調査を実施するとともに、今後、けいこの内容や力士への生活指導方法などを把握していくことにしています。

信頼を取り戻すために

 それを実りあるものにし、大相撲から暴力体質を一掃していくために、相撲部屋の親方と協会とが密接に連携し、国民の批判や意見に謙虚に耳を傾けながら、力士の養成や生活にかかわる指導性を高め、責任と自覚を明確にしていくことが求められています。その努力を怠るならば、大相撲はますます社会的な支持を失っていくことになるでしょう。

 大相撲への信頼をとりもどすことができるかどうか、日本相撲協会は一致団結してこの正念場を乗り越えていってほしいものです。


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