2007年10月1日(月)「しんぶん赤旗」

ゆうPress

“映画プロデューサー”に挑戦 東京・下北沢

喜び・苦労共有する

その感覚がいい


 映画や演劇、音楽があふれる下北沢(東京・世田谷区)から、短編映画の制作を通して、映画プロデューサーが誕生しています。小川浩


坂田史志さん (24)

 新人プロデューサーに映画制作のチャンスを提供しているのは、「プロデューサー・プロデュース・プロジェクト」(PPP)です。多くの新人作品を上映してきた映画館「下北沢トリウッド」が2003年、「作品の良しあしを決めるのは、監督同様に、プロデューサーの手腕も重要」と立ち上げました。映画の制作費や作品上映の機会をサポートします。

「まめさが大切」

 プロデューサーは出演者やスタッフのまとめ役のほか、制作費、撮影場所の選定など、縁の下の力持ち。限られた予算やスケジュールの中で、いかにたくさんの人に見てもらえる映画をつくるのか、腕の見せ所です。

 PPPのサポートで完成した第2弾作品「プライスタグ」が、いま映画館「下北沢トリウッド」で公開中(5日まで)です。

 監督は友野祐介さん(27)。テーマは「お金」。友野さん自身が直面する問題でした。「映画をつくりたくても、お金がなければあきらめざるをえない現実」からうまれました。

 プロデューサーを務めたのは坂田史志さん(24)です。

 「体が丈夫で完成するまで逃げない」―。同じ京都出身で大阪芸術大学の先輩でもある友野監督から推薦されました。

 これまで坂田さんは、アルバイトをしながら、友野さんが監督した大学の卒業制作「夢のほとり」など、インディーズ映画のスタッフとして映画制作にかかわってきました。

 坂田さんは「話を聞いたときは、でかい話なので、荷が重いと思いました。プロデューサーとして大切なのは、まめさです。苦労したのは、外で撮影の許可をもらうことでした」といいます。

寝不足と寝坊と

 兵庫・三宮でのこと。商店街で落書きをするシーンを撮影しようと、お願いに行った商店街は、落書きをなくそうと力をいれているところでした。坂田さんは、撮影をサポートした「神戸フィルムオフィス」のスタッフと商店街の会長さんに会いました。商店街からは強い反対にあいましたが、落書きを助長しない純粋な映画の撮影ということを懸命に伝えました。交渉を重ねた結果、ようやく、俳優2人が立ったまま芝居ができる広さの、シャッターの閉まった一角を使う許可がおりました。

 映画制作は、企業から出資された制作費約270万円を得て、3月からスタートしました。撮影には3週間、編集には4月中旬から3カ月を費やしました。作品は映画館で上映され、DVD化も予定しています。

 映画を制作する間、アパートの2部屋を借りて、合宿することもありました。限られた撮影期間のため、寝不足となった坂田さんは、座ったまま寝てしまったときもありました。逆に寝過ごしたこともありました。

もっと知りたい

 友野監督は「大学の卒業制作で映画をつくった時、20人くらいいた人数が、きつい作業のために、数人に減りました。それだけに、荷が重い役を期待にこたえて、完成までよくやってくれました」と評します。

 映画が完成し、ほっとした表情を浮かべる坂田さん。現在は、アルバイトで暮らしています。将来については―。

 「プロデューサーはスタッフといっしょに動きながら、作る喜びや苦労を共有していく。その感覚が気に入っています。またプロデューサーをやるかは、明確な目標になっていません。プロデューサーの仕事を知って、もっと知りたいという欲求はありますよ。大阪で自主映画の制作にかかわりたい。スタッフとして呼んでもらえたら幸せです。そういうことが積み重なって、プロデューサーになっていくのかもしれません」


客観視できる作り手に

 「PPP」を主宰する大槻貴宏さん(トリウッド代表・ポレポレ東中野支配人)の話

 新人発掘のプロジェクトをはじめた理由は二つあります。

 一つは、いくつも若者がつくる映画を見て、もっとこうやればいいのにと思うことがありました。それなら、作る側になろうと考えたんです。

 もう一つの理由は、いい作品には、作り手が自作を客観的に見る目を持っています。観客にどう伝わるか、何が伝わらなかったのか、それがわかる広い視野を持った作り手を育てたかったんです。

 出版業界なら作家をリードするのは編集者です。映画ならば、監督をリードするのはプロデューサーです。監督が技術スタッフとともに「芸術」をつくるリーダーなら、プロデューサーはそれを「需要のある芸術」にしていくためのリーダーです。

 なんらかの映画制作の実績がある20代の作り手に、制作費と無理にならない60分という時間を与えて、きちんと作品が完成するんだと実証してほしいですね。


お悩みHunter

「社会に出ると大変」わかってもストレス

  就職活動をしているのですが、先輩から「社会に出ると大変よ。自分の時間なんかなくなるから」といわれます。「現実は甘くない」とは思うのですが、なんかストレスを感じてしまいます。(21歳、女性、東京都)

会社で自分をどう生かすか

  確かに、これではストレスを感じてしまいますよね。ほとんど「自分の時間がない」というのですから。

 自分らしさを実感できる時間もなく、ただただ会社のために毎日働く。それが、「社会に出る」という意味であれば、世の中のおとなたちは、みんな「自分を捨てた会社人間」になってしまいます。

 しかし、これってどこかがおかしいと思いませんか。何か大切なものを忘れているような気がしませんか。

 それは、「会社で働くこと」が、自分らしさを大切にすること、つまり自己実現することを妨げていると決めつけているからです。これは、少し一面的です。

 会社に勤めることは、生活のためだけではありません。一番大切なのは、その会社で、自分をどう生かすかです。

 仕事を通して何がしたいのか。また、どんな部門でどのように働きたいのか。同時に、いかに自己実現したいのかです。この自分の職業観を固めることが就職活動の基本です。それさえ見えてくればしめたもの。あとは、それを実現しやすい職種や環境のよい会社を絞り込めばよいのです。

 そうすれば、働くことと自分らしく自己実現して生きることとが統一できます。もちろん百パーセント実現させることは困難です。しかし、職場の仲間との共同性、同僚性を大切にする中で少しずつ、前進させていけばどうでしょうか。


教育評論家 尾木 直樹さん

 法政大学キャリアデザイン学部教授。中高二十二年間の教員経験を生かし、調査研究、全国での講演活動等に取り組む。著書多数。


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