2007年9月5日(水)「しんぶん赤旗」

“働かんなら死ね”

生活保護行政 北九州市の自殺事件

「もう犠牲者出さないで」

声上げる遺族ら


 いったい北九州市の生活保護行政は何人の命を奪うのでしょうか。

 同市小倉北区で生活保護が打ち切られた男性(52)が七月十日、変わり果てた姿で発見された事件は、市民らによって福祉事務所長の告発にまで発展しています。

 ところが、その一カ月前の六月十日早朝、同じ区内で別の男性(61)が自ら命を絶っているのが発見されました。所持金はわずか千円。五日前には、生活保護の申請を拒否されていました。男性はケースワーカーから「働かんなら、死ね」といわれたと友人に話していました。

餓死男性と同じ

 男性には三人の息子がいます。長男(37)の家には、父親の遺影が掲げられ、仏壇には三男の結婚式での笑顔の写真が飾られていました。

 「親父も餓死したあの男性と同じじゃないか。もう、犠牲者はださんでほしい」。長男は切々と訴えます。

 これまで生活保護を受けられず命を失った人の家族や関係者は言葉すくなでした。しかし、保護行政のあまりのひどさに遺族らが憤りの声を上げ始めました。

 自殺した男性は市内の目ぬき通りに土地を持つ企業家でした。バブルがはじけ家族や財産を失い、知人宅を転々とする生活になります。

 息子たちは自らの生活を支えるのに手いっぱいで父親を援助する余裕はありません。男性も息子らの世話を受けるのを拒みます。

 それでも、長男、二男が別々に福祉事務所を訪ねて父親の保護を求めます。ところが窓口の担当者は「親族が支援できないのですか」と冷たくあしらいます。「困っているから相談に来たのに…」と返す言葉もなく、生活保護行政に「ものすごく疑問を持った」と長男は話します。

病気おし日雇い

 男性は命を絶つ前日、アパートに住む隣人(57)と初めて碁を打ちます。「礼儀正しくもの静かでいい方だなーと思った」と隣人はいいます。

 男性は昨年三月には慢性肝硬変に肺炎を併発し二カ月入院。その後も脳出血、胆のうを患うなどで別の病院に入院します。退院後、病気をおして地元の金属関係会社で一日六千円の日雇い仕事をして日銭を稼ぎ命をつないでいました。

 男性をよく知る八十代の女性は、男性が働ける体でないのにケースワーカーが「仕事をしろ」と責めたて、男性に「もう死ぬよりほかない」という言葉を投げつけたと証言します。

 保護費は四月二日に十万円が支払われますが、その後、生活保護が打ち切られたと思われます。それ以後、四月二十五日には九万円、五月二十五日には十一万四千円の収入があったと思われますが、病気がひどくなり仕事もできなくなり失業します。

 男性が住んでいたアパートの大家は「月三万三千円の家賃を二カ月分いただきました。きちょうめんで手先が器用な人でした」といいます。

 亡くなる五日前、生活保護の再申請を求めて福祉事務所を訪れた男性に対応した面接主査は、声を荒らげてこういいます。「五月末の金は何に使ったんですか。職を探して来てください」

 男性はいいます。「とりあえず(生活保護の)申請書を書く、大変なときに受理してほしい」

 主査は「申請書を出してもいいが、預かることはできない。仕事を探す努力をして、本当にこれだけ努力したとなれば考える。二週間後に来てほしい」と申請書を渡しませんでした。

 門司区で保護の申請を計三度拒否され昨年五月餓死状態で発見された男性(56)にも、小倉北区で辞退届を書いた男性にも、「困ったときに相談に来てください」といって援助したと市の担当者は口をそろえていいました。しかし、“生活に困ったから”と相談にいったこの男性の再申請を市は受け付けませんでした。

市は取材受けず

 この事件について市は記者会見をしませんでした。取材の申し入れに「福祉事務所内で相談して、取材は受けないことになった」と答えています。事件を闇に葬ろうとするのでしょうか。

 男性が亡くなった後、日本共産党の大石正信市議が市の責任をただすと驚く答えが返ってきました。「二週間働く努力をして、その後に来てくださいといっているので市の落ち度はない」(小倉北区第二保護課長)、「表彰されていいくらい丁寧にやっている」(面接主査)と開きなおりました。

 予算の枠内に保護人数をおさえる数値目標、申請書をなかなか渡さず申請権を侵害、稼働年齢の人に働けと迫って自ら保護を辞退させる―“違法”といえる保護行政が同市では今も続けられています。

 「生活保護を受けられず食べるものもなく命を落としたり、自ら命を絶つ痛ましい事件があいついでいることに心が痛みます」と大石議員。

 「このような事件をもう二度と起こしてはなりません。市民の命を守ることを最優先する市政に変えなくては」。大石議員は決意を語りました。(矢藤 実)



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