2007年9月1日(土)「しんぶん赤旗」

シーア派内抗争が激化

イラク


 イラク中部のカルバラで八月二十八日に発生したイスラム教シーア派武装勢力同士の衝突は、同じ宗派内の抗争という点で、従来の宗派間抗争とは異なる様相を示しています。


 衝突したのは、シーア派与党会派・統一イラク同盟に所属しているイラク・イスラム最高評議会(SIIC)傘下のバドル軍と、同じ同盟に属していながら、米軍の撤退を鮮明にしているシーア派指導者ムクタダ・サドル師率いる民兵組織マハディ軍。五十二人が死亡し、二百六人が負傷しました。

 両者の対立が原因とみられる事件が、この間連続して起きています。二十日には南部ムサンナ州サマワ近郊で同州知事が爆弾テロで死亡、十一日にも南部カディシヤ州で州知事が爆弾の爆発で犠牲となりました。両知事はいずれもSIICに所属し、暗殺はマフディ軍による犯行と指摘されています。

 同じシーア派でありながら二つの組織は政治路線で大きな違いがあります。サドル派はもともと、米軍のイラク占領に反対し、撤退を強く要求していたことで知られています。

 一方のSIICはこれまでイラク・イスラム革命最高評議会(SCIRI)と呼ばれていました。SCIRIは一九八〇年代に旧フセイン政権に抵抗していたシーア派聖職者が中心となって亡命先のイランで結成されました。イランとの結びつきが強い一方で、米国との関係も重視しています。

 今年に入り、「革命」の二文字を削ってSIICに衣替えし、同時に「国民政党」をアピールする綱領に変えました。これは「親イラン」から「親米」をより鮮明にしたものとの見方もあります。

 マリキ首相の対応も変化してきています。同首相はこれまで、もともと有力な支持勢力だったサドル派に遠慮して、米軍の要請にもかかわらずマハディ軍(約六万人)の解体に消極的でした。

 しかし今年に入り、ブッシュ米政権が米軍増派の意思を固めてマハディ軍を「治安悪化の最大要因」と非難を強めるなかで、同首相は一月にスンニ派武装組織とシーア派民兵の「掃討」を目的とした軍事作戦を表明し、二月に首都バグダッドなどで大規模軍事作戦を開始。マハディ軍はバグダッドから撤退しました。

 一方、マリキ政権がブッシュ政権の求める石油法案など一連の政治「改革」法案の成立を急ぐことに反発し、サドル派はスンニ派勢力とともに閣僚六人を政権から引き揚げました。

 サドル師は二十九日発表した声明で、「創設の原則尊重を助けるような形で再編成されるまで」マハディ軍の活動を半年間停止すると述べました。これはマハディ軍の一部がサドル師の統制から外れて過激な行動を取っているとの見方があるなかでのこと。サドル師が必要以上の対立を回避するためとみられます。

 しかし、ロイター通信によると、同軍の幹部は「命令に従う」としているものの、多くのメンバーは「挑発があれば米軍とたたかう」と述べています。

 シーア派有力組織の路線対立の深まりは、武力による両者の衝突を今後エスカレートさせる可能性があります。(松本眞志)



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