2007年8月4日(土)「しんぶん赤旗」

賃金へ成果還元せず

労働経済白書 配当・内部留保が急増


 厚生労働省は三日、二〇〇七年版「労働経済の分析」(「労働経済白書」)を発表しました。大企業が利益を拡大するもとでの、中小企業や労働者の賃金と労働時間、生活の現状を分析し、「ワークライフバランス」(仕事と生活の調和)を図れる雇用システムづくりをテーマとしています。

 同白書は、景気の回復期間が戦後最長とされ、企業の売上高経常利益率がバブル期のピークをも超えるもとで、労働者の賃金が抑制され、株主への配当、役員賞与と内部留保が急増していることを確認。雇用者報酬と消費需要が伸びないことから、企業が需要拡大を海外市場に求めるという「需要構造の歪(ゆが)みが広がっている」ことを指摘しています。

 業績・成果主義賃金と非正規雇用の適用の結果、賃金格差、長時間労働、職場ストレスの広がりなどが生じていることについて、「経費の削減に傾斜すべきではなく、付加価値を創造する人材の意欲と能力を高めるという、長期的な視点をより重視すべき」と述べています。

 また、企業業績が大きく改善するもとで、これまでの景気回復過程とは異なり、労働生産性が上昇した成果が、賃金の上昇にも労働時間の短縮にも配分されず、労働分配率が大きく低下していると分析しています。

 同白書は、これらへの対応として、一人ひとりの働き方に応じた成果の配分を実現することが重要だと述べ、仕事と生活の調和に役立つ制度を労働者が活用できる環境を整備することで、労働者への分配を強化することが大切だとしています。

グラフ

解説

大企業「成長戦略」の帰結

 今年度の「労働経済白書」は、貧困と格差をめぐる問題の議論がいっそう高まるなかで、非正規雇用の拡大による賃金削減、長時間労働を強いられる正社員と短時間労働の二極化などを分析し、「ワークライフバランス」(仕事と生活の調和)を図ることを提案しています。

 白書は、今回の「景気回復」局面のなかで、労働生産性の上昇が、賃金の上昇と結びついた一九八〇年代まで、労働時間の削減に結びついた九〇年代とは異なり、二〇〇〇年代は、労働生産性の上昇分に相当する賃金の上昇も、労働時間の短縮もされていないことを示しました。

 安倍・自公政権が固執する大企業ばかりを優先する「成長戦略」の論理の破たんは、生産性が向上しても、賃金も上がらず労働時間も短縮していないとする「労働経済白書」の分析でも、改めて明らかになりました。

 貧困や格差などを解決するための問題は、経済成長するかどうかにあるのではなく、成果を労働者に還元しようとしない大企業の態度にこそあります。

 「ワークライフバランス」は、財界などが長時間労働野放し・残業代ゼロ制度導入の口実としても利用した言葉で、労働者のための政策とするには、労働時間短縮など大企業への具体的な規制が不可欠です。

 ところが、白書には、こうした企業の責任を正面から問う視点は見られず、労働法制の規制緩和への反省もありません。まずは経済成長が必要という論議から始まっており、提案される政策も言葉だけの抽象的なものになっています。(吉川方人)


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