2007年7月31日(火)「しんぶん赤旗」

国を断罪 6度目

熊本地裁 原爆症で19人認定


 原爆症の認定を却下された被爆者が国の却下処分取り消しなどを求めている原爆症認定集団訴訟で熊本地裁(石井浩裁判長)は三十日、原告二十一人中十九人の認定却下処分を取り消す原告側勝訴の判決を言い渡しました。

 石井裁判長は、国が算定した原爆放射線の被爆線量は「実際よりも低いものとなっている可能性がある」と指摘。国による「認定基準」の機械的適用が改めて断罪され、被害の実情に即した認定行政を求めました。

 同集団訴訟は、全国二十地・高裁で二百六十六人が争っています。大阪、広島、名古屋、仙台、東京各地裁では、原告側勝訴の判決が出されており、国の原爆症認定の判断が断罪されたのは六度目です。厚生労働省はすべて、控訴しています。

 熊本地裁には、二十九人が提訴。今回は二十一人について判決が出されました。

 石井裁判長は、国の原爆症認定審査で「残留放射能による内部被ばくの影響が考慮されていないのは、相当とはいえない」と内部被ばくについて踏み込んだ判断を示しました。そのうえで国の認定基準について「あくまで一つの考慮要素として用いることにとどめ被爆状況、被爆後の行動、被爆直後に生じた病状などを総合的に考慮した上で、検討すべき」としました。

 今回の判決では初めて、変形性脊椎(せきつい)症、ひざ関節症の運動機能障害や糖尿病についても原爆症と認めました。


党被爆者問題対策委 小池責任者が談話

 原爆症認定集団訴訟熊本判決について、日本共産党被爆者問題対策委員会の小池晃責任者は三十日、次のような談話を発表しました。

 原爆症認定集団訴訟で熊本地裁は、原告二十一人中十九人について認定を認める判決をだした。 被爆者の実態を無視した国の認定行政がこの間、六度にわたって断罪されたことを、政府・厚労省は真剣に受けとめ、控訴をせず、今度こそ、認定基準の抜本的改善に取り組むべきである。

 被爆以来、さまざまな苦労を重ね、いまなお疾病や障害に苦しむ多くの被爆者を、このような理不尽なやり方でさらに苦痛を与えることは、即刻改めなければならない。 日本共産党は原爆症認定での機械的な切り捨て方針を廃止し、放射線の影響が否定できない疾病・症状については認定するなど、被爆者の実情に即した新しい基準に緊急に改めることを要求し、実現のために奮闘する。


内部被ばくの影響認定

 三十日にだされた原爆症認定集団訴訟の熊本地裁判決は、大阪、広島、名古屋、仙台、東京の各地裁判決に続き、厚生労働省の原爆症認定の審査のあり方に問題があると六度目の司法判断をくだしました。

 断罪された柳沢伯夫厚労相と厚労省は六度目の判決を重く受けとめ、控訴しないことはもちろん、これまでの五回の判決での控訴を取り下げ、ただちに原爆症認定行政を抜本的にあらためるべきです。

 六回の判決で共通して断罪されたのは、厚労省が認定にあたって残留放射線の人体に及ぼす影響を無視していることです。厚労省は認定に当たり、原爆が爆発した瞬間から一分以内の初期放射線による外部被爆しか問題にしてきませんでした。このため初期放射線量が低いとされる遠距離での被爆者や、原爆投下後に被爆地に入った入市被爆者の認定が最初から切り捨てられてきました。

 熊本地裁判決では、入市被爆者に下痢などの急性症状が生じているのは、残留放射線による被ばくのせいだと断定。さらに残留放射線による内部被ばくについても「科学的根拠を有する」と認めました。厚労省の原爆症認定の方針について、「残留放射線による内部被曝(ひばく)の影響が考慮されていないのは、相当とはいえない」とこれまでの判決よりもさらに一歩踏み込んだ判断をしました。

 厚労省が被爆者のがんなどがどのくらいの放射線で発症するかという確率のデータについても判断要素の一つにすぎず、確率が小さいからといって原爆と病気の関係を否定することはできないとし、「問題の余地がある」と批判。また初期放射線についても爆心地から千三百メートル以遠では、放射線量が実際より低く推定されている可能性があると指摘しました。

 判決は、爆心地から四・五キロメートルの遠距離被爆者の病気や、変形脊椎(せきつい)症、糖尿病などの病気も原爆症と認めました。一方、三つの病気やけがを原爆症と認めなかったのは、原爆被害の事実認識が甘いといわざるをえません。原告が急性症状をおこしていないことや、原爆放射線によって治癒能力が落ちたといえないことなどを理由にあげています。

 日本被団協は現在の審査のあり方(方針)を廃止し、政令でがんなどを「原爆症認定疾病」として定め、申請した被爆者にただちに認定するよう求めています。判決は、こうした主張のただしさを裏書きしています。

 被爆者・支援者の運動は世論を動かしてきました。この七月、広島、長崎両県市の首長、議会議長でつくる「広島・長崎原爆被爆者援護対策促進協議会」(八者協)が初めて安倍首相、柳沢厚労相に原爆症認定問題の早期解決を求めました。参院選では、自民党までもが結党以来初めて被爆者支援を公約に掲げざるをえませんでした。

 久間章生前防衛相の原爆投下は「しょうがない」とする発言は国民の憤激をかい、参院選で安倍政権に審判としてくだされました。安倍政権は、いまこそ国民の声に耳を傾け、「原子爆弾の惨禍が繰り返されることのないよう」(被爆者援護法)に認定制度の抜本的改善に乗り出すべきです。(内野健太郎)


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