2007年7月14日(土)「しんぶん赤旗」

事件リポート

北九州市 孤独死事件

“行政の責任”

生活保護打ち切り 就労状況も把握せず


 「行政に見殺しにされたようなものだ」―。北九州市小倉北区の男性(52)が生活保護を打ち切られ、自宅で孤独死した事件に、市民の間から衝撃が広がっています。(佐藤高志)


 JR小倉駅からほど近い住宅街にある、男性の自宅。外壁には穴があき、屋根の一部は崩れ落ちています。電気、水道、ガスはすべて止められていました。

 「夜中に心配になり、真っ暗な部屋の奥で横になっている男性の様子を、たびたび見守ってきた」という近所に住む女性は、「土気色でやせこけ、目はドロッとしており、とても働けるような状態ではなかった」といいます。

 近隣の住民の話を総合すると、亡くなった男性の健康状態は悪く、当面の生活資金もライフラインもまったく改善しないままでした。男性の保護の開始要件とされた「窮迫」性は解消されているとはいえない状況で生活保護廃止決定がされた、といえます。

就労指導

 北九州市は、今回の保護廃止の決定について、「男性本人が働いて自立したいとの申し出があった」「男性が保護の辞退届を提出した」としています。日本共産党北九州市議団の調査などによると…。

 昨年12月6日 勤めていたタクシー会社を病気でやめた男性が小倉北区福祉事務所を訪問。

 同月7日 保護申請。

 同月26日 保護開始。緊急に開始されたのは、市立医療センターの診察で、糖尿病、高血圧、アルコール性肝障害と診断され、電気、水道、ガスが止まり所持金もなく「窮迫」と判断したため。

 ことし1月 保護開始とともに、就労指導があり、「求職活動」の報告書を出すよう指導。

 3月終わり 通院しながらも、求職活動するよう指導。

 4月2日 保護費支給日に男性から「働いて自立したい」と申し出があり、保護課の助言で「保護の辞退届」を提出させる。

 4月10日 保護廃止。

 7月10日 死後約1カ月とみられる遺体で発見。

 なお、日記には「働けないのに働けといわれた」とあり、死の直前と思われる六月上旬には「おにぎりが食べたい」と書かれていたといいます。

 近隣住民は、「生活保護を廃止すれば、どうなるかは誰でもわかる。行政に見殺しにされたようなものだ」と怒りを隠しませんでした。

申し入れ

 男性の孤独死は氷山の一角ではないか―。同市を歩くと、生活保護受給者に「辞退届け」を書くよう職員に迫られて困った人もいました。

 福祉事務所のやり方を手紙で市に告発した戸畑区に住む四十代の女性には、中学三年生の娘がいます。この女性は福祉事務所から、わずか三カ月の間に四十回近くの訪問指導を受け、精神的に追い詰められ、「自立を妨害された」と訴えました。

 手紙によると、事前の連絡もなく突然訪問され、「親として何をやっている!」と面と向かってののしられるなどの侮辱を受けたといいます。体重は二カ月で七キロも減り、うつ病にまでなったといいます。

 日本共産党の柳井誠市議は、「今回の事件は、過度な就労指導を通じて保護を廃止する『切り捨て作戦』の一端ではないのかと指摘せざるをえない」と話します。

 事態を重視した日本共産党市議団は十三日、北橋健治市長に対し、緊急の申し入れをおこないました。申し入れ書は、就労指導が過度にならないよう改善する、自立支援という観点から保護打ち切り後もサポートできる体制をつくることなどを要請しています。

 対応した石神勉秘書室長は、「要請項目は、市長に必ず伝える」と述べました。

もやいが緊急声明

市・厚労省に送付

 北九州市で生活保護を打ち切られた男性が孤独死した事件で、NPO法人自立生活サポートセンター・もやいは十三日、緊急声明を発表し、同市と厚生労働省に送付しました。

 声明は、辞退届提出が男性の真意に基づくものだったのかなど五つの疑問を投げかけ、同市が説明責任を果たすべきだと指摘。「自立」の美名のもと、生活保護から半強制的に追い出される人が全国に多数いるとのべ、同市による事件の検証、全国の福祉事務所による不適切な指示書の乱発や辞退届強要、違法な職権廃止の中止、政府の「自立支援」の見直しを求めています。



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