2007年6月14日(木)「しんぶん赤旗」

ここが知りたい特集 日本の軍事費

軍事費のムダ遣いこんなに

グアム基地建設に7千億円

「対ソ」戦車購入 320両も


 六月からの住民税大増税をはじめ国民負担増が相次ぐ中、税金のムダづかいへの怒りがかつてなく高まっています。政府が「聖域」にしてきた軍事費も、その一つです。どんなムダが、どれくらいあるのか、改めてみてみます。(竹下岳)


毎年5兆円の支出

 憲法は一切の戦力保持を禁じているのに、日本政府は毎年五兆円近い軍事費を支出しています。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)二〇〇七年版年鑑によると、世界二位―四位の英仏中と大きな差のない世界第五位。「日米同盟強化」の名のもと、米国に追随してきた結果です。

 この軍事費の構造を見ると、(1)旧ソ連の「侵攻」を想定した装備が今なお温存されている(2)日本防衛とは無関係の海外派兵装備の比重が高まっている(3)防衛能力のない「ミサイル防衛」システムに膨大な予算を費やしている(4)米軍再編経費のほぼ全額を支払おうとしている―というムダが層をなしています。

ソ連崩壊後配備を開始

 現在の陸上自衛隊の主力戦車は「90式」です。もともとソ連が日本に侵攻するという想定で開発されましたが、実際に配備が始まったのはソ連が崩壊した一九九一年でした。

 それでも毎年配備が進み、〇七年度も九両を購入する計画です。これまでの総計で三百二十四両、本体の購入価格だけで約三千億円です。

 90式戦車は重さ五十トンに達し、通常の道路や橋を渡ることができず、鉄道輸送や空輸も困難です。〇二年に90式戦車が配備された北海道の陸上自衛隊上富良野駐屯地を抱える上富良野町では、橋の架け替えと道路の改修工事を行わざるを得ませんでした。

 防衛庁(現防衛省)は〇一年度の政策評価書で「IT革命等を受けた現在の諸外国の技術水準から取り残されつつある」「主として重量の点で目標とする水準を満足せず」と述べ、90式戦車の欠陥を認識しています。それなのに、今日まで配備を続けているのです。

防衛できない「ミサイル防衛」

 少なくとも一兆円に達する「ミサイル防衛」も壮大なムダです。

 世界中に「ミサイル防衛」の網の目を張り巡らせようとしているブッシュ米政権に追随し、あらゆる装備の配備を進めています。(表)

 これらの装備は未完成で、実際に弾道ミサイルを迎撃できる能力は備わっていません。例えば、イージス艦搭載の迎撃ミサイル・SM3は弾道ミサイルを大気圏外で破壊する兵器ですが、現在のSM3(SM3I)が到達可能な高度は約二百キロで、より高い高度を飛行する長距離弾道ミサイルを迎撃できません。しかも、米軍の実験では高度は約百四十キロ程度しかなく、中距離弾道ミサイルすら確実に迎撃できる保証がありません。

 このため、日米両政府はより推進力の強いSM3IIの共同開発を行っています。

 ところが、防衛省は今年からイージス艦一隻あたり約三百億円の整備費用をかけて、四隻のイージス艦にSM3Iを搭載します。新たに配備される新型イージス艦二隻には、最初からSM3Iが搭載されています。

 これらの作業は二〇一〇年度に終わりますが、米ミサイル防衛庁は一二年以降にSM3IIを実用化する計画です。最新装備への更新を繰り返せば一兆円の枠を大きく超え、際限のない支出が予想されます。

ミサイル防衛 主な装備

【海上配備】

 新型イージス艦      (約1400億円×2隻)

 既存イージス艦の改修   (約300億円×4隻)

 SM3ミサイル         (1発20億円)

【地上配備】

 PAC3システム   (総計約5000億円、32基)

 PAC3ミサイル    (1発5億円×124発)

【レーダー】

 FPS5×4基、FPS3×7基(約1000億円)

先制攻撃加担の「海外派兵隊」化

 日本政府は、ブッシュ米政権がアフガニスタン、イラクへの侵略戦争を進めた時期、米軍の先制攻撃戦略に呼応するため、海上自衛隊艦船の大型化など、自衛隊の「海外派兵隊」化を図りました。(表)

 現時点で「おおすみ」型輸送艦三隻と「ましゅう」型補給艦一隻が配備されましたが、自衛隊が海外派兵のモデルケースとしているイラク戦争は泥沼化。米国の先制攻撃戦略は行き詰まっています。使い道に困ったのか、昨年九月の東京都総合防災訓練では「帰宅困難者の輸送」と称して、「おおすみ」型輸送艦(しもきた)が動員されました。

史上例のない税金の投入

 実施されたら最大規模のムダづかいとなるのが、総額三兆円以上におよぶ在日米軍再編費用です。

 欧州でも大規模な米軍再編が進んでいますが、費用は基本的に米側負担です。しかし、日本の場合、「三百億ドル(約三兆六千三百億円=一ドル百二十一円)の在日米軍再編経費のうち、米側負担はグアムの基地建設費用の四十億ドル(約四千八百四十億円)だけ」(米太平洋軍資料)なのです。

 費用には、グアムへの米海兵隊新基地建設費約七千億円も含まれています。

 日本政府は一九七八年度以来、日米安保条約上も支出の義務のない米軍への「思いやり予算」を総計五兆円も投入してきました。これは、米国の他の同盟国にない、突出した対米貢献です。

 さらに米領での米軍基地建設のための税金投入は歴史的にも国際的にも例がありません。

主な海外派兵型装備

 「おおすみ」型輸送艦  (約500億円×3隻)

 「ましゅう」型補給艦  (約430億円×2隻)

 ヘリ搭載型大型護衛艦(約1100億円×4隻)

  =いずれも排水量では最大規模

 空中給油機KC767(約250億円×8機)

改憲でさらに軍拡

 それでも「戦力不保持」を掲げた憲法九条が歯止めになり、日本の軍事費はGDP(国内総生産)比で1%以内に抑えられています。しかし、九条が改悪されたら歯止めがなくなり、大軍拡が始まるのは確実です。

 すでに米国からは、「明らかに九条改定を前提とした防衛費の増額要求」(防衛省関係者)が相次いでいます。

 「米国は〇五年にGDPの4%以上を国防費に充てている。日本はもっと出すべきだ」(シーファー駐日米大使、三月十五日、都内の講演)

 「日本の国防費はGDP比で世界百三十四位だ。防衛省と自衛隊の近代化と改革のために適切な財源が配分されるべきだ」(アーミテージ元米国務副長官 今年二月の第二次アーミテージ報告)

 仮に米国同様、GDP比で4%になれば日本の軍事費は二十兆円という巨費になります。

 また、日本は他国への独自の攻撃力=敵基地攻撃能力は保有してきませんでした。しかし、北朝鮮の脅威を口実に、巡航ミサイルなどの攻撃的兵器を保有すべきとの声が、自民・民主両党の国防族議員を中心に強まっています。

 憲法九条が改悪されれば、敵基地攻撃能力の保有に向かい、日本が名実ともに軍事大国となるのは目に見えています。

日本共産党

軍縮でくらし充実を主張

 日本共産党は日米安保条約の廃棄と、将来的な自衛隊の解消をめざしています。しかし、それ以前にも軍事費のムダを削減し、大幅な軍縮を主張しています。

 政府は財政事情を理由にくらしや福祉の分野を削減し、国民に負担増を押し付けています。しかし、ムダな軍事費を削減すれば、さまざまなことが可能です(表)。「要は政治の姿勢の問題」(日本共産党の志位和夫委員長)なのです。

図

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