2007年6月6日(水)「しんぶん赤旗」

経済時評

「財政再建」は庶民増税なしで


 最近、ある学習会で、次のような質問を受けたことがあります。

 「国も地方も財政赤字なので、人のよい庶民は、増税や保険料引き上げもやむをえないと考えがちです。増税反対の署名を広げるには、どう訴えればよいでしょうか」

 たしかに財務省が毎年発行している『財政問題を考える』というパンフレットをみると、「財政が大赤字だから、福祉の削減も増税もやむをえない」と解説しています。

 財務省のホームページでも、「国の借金の状況は?」「現状を放っておくと何が困るの?」など、財政赤字の大宣伝をしています。

 こうした財務省の「財政赤字だから、増税はやむをえない」論をどう考えるか―。

 財政問題は間口が広いので、税金、医療、年金、介護、子育て、教育など、相手の関心に応じて、いろいろな話し方があるでしょう。

 しかし、「財政再建は庶民増税なしでもできる」ということは、しっかりと確信をもって訴えることが大事だと思います。

巨額な税収を何に使うか、予算の優先度

 財政問題での対話では、議論の出発点、筋道が大事です。

 財政赤字から出発すると、どうしても財務省の巧妙、狡猾(こうかつ)な国民負担増の土俵に引っ張り込まれてしまうからです。私は、いまどれぐらい国民は税金を納めているか、という税収の実態から入るようにしています。

 たとえば、今年度予算で言えば、税収は、53・5兆円(所得税が約16・5兆円、法人税が約16・4兆円、消費税が約10・6兆円、その他)見込まれています。こうした巨額な税収をどう使うか、予算の優先度の問題から、まずしっかりと議論します。(注)

 53兆円を超える財源は、なによりも、国民の命と健康のために、暮らしや雇用、教育などのために、優先的に使うべきです。

 政府は、不要不急の橋や道路などの公共事業費に7兆円、軍事費に4・8兆円も計上しています。公共事業費には、三大都市環状道路に1859億円、スーパー中枢港湾に524億円など、また軍事費には、米軍再編に313億円、ミサイル防衛に1826億円など、削れる経費が山と盛り込まれています。

 政府は、社会保障には21兆円も計上しているといいますが、53兆円を超える税収と比べると四割にも達しません。公共事業や軍事費の無駄を削れば、庶民増税や負担増をしないで、逆に国民にとって切実な福祉や年金の予算をもっと拡充することが可能です。

ゆがんだ税制・財政の構造を立て直すこと

 もちろん、財政赤字の問題も、正面からしっかりとりあげて、財政を立て直す方向を示すことが必要です。

 そもそもなぜ財政赤字が拡大したのか。

 「財政赤字」の最大の原因は、歳出面では大型公共事業など無駄な支出に膨大な財源を使ってきたこと、歳入面では税金をとるべきところからとらずに、国債を大量発行してきたことです。その利払いだけで、巨額な「あしき遺産」となっています。

 歳出の無駄については、すでに述べたので、歳入についてみると、大企業は戦後最長の好景気を謳歌(おうか)し、上場企業の集計では四年連続して最高益を更新しているのに、法人税収は、このところ増えてはいるものの、法外な利益増に比例しては増えていません。

 こうしたゆがんだ税制・財政の構造をそのままにして、庶民に大増税をしても、膨れ上がった財政赤字を減らすことはできません。

弱まるビルトイン・スタビライザーの仕組み

 もともと資本主義の財政制度には、不況期に財政赤字が増えても、好況期には企業利益や賃金が増えるので税収が増えて赤字が減るという仕組みがあります。「ビルトイン・スタビライザー」(自動安定化装置)という仕組みです。その機能は、税制のあり方しだいで変わってきます。

 別表は、一九六〇年代の高度成長期には、企業の経常利益が一〇〇から四六九に増えると、法人税収も四四八に増えたことを示しています。所得税の場合は、賃金上昇の三六三にたいし、所得税収が六二二と大幅に増大していますが、これは給与所得者が急増したことにくわえ、課税最低限が低く、大衆課税の税率構造になっていたためです。

 ところが、この十年間をみると、企業利益は、一〇〇から一九七に増えているのに、法人税収は九一、所得税収は七五、消費税収は一八一です。

 法人税の場合は、税率を40%から30%に切り下げ、数々の大企業減税の仕組みをつくったため、税収の伸びが抑えられています。

 所得税の場合は、大企業役員の報酬は一九六に増えていますが、最高税率を切り下げ、累進税率を弱めたために、税収増に結びついていません。しかも、賃金は九一に減っているために、「景気回復」といいながら「ビルトイン・スタビライザー」が逆向きに(税収減に)働いています。こうした直接税の「ビルトイン・スタビライザー」の弱まりを、最悪の大衆課税=消費税に振り替えているわけです。

 財務省のパンフでは、こうした財政理論のイロハともいうべき分析さえ、まともにやっていません。

 もし、税制と財政のゆがんだ構造を是正するなら、また格差景気のゆがんだ構造を是正するなら、税収は、庶民増税なしで、53兆円からさらに大幅に増えて、着実に財政再建の道が開けるはずです。(友寄英隆)


(注)政府の税収見積もりは、所得税の定率減税廃止などの増税効果も見込んでいる。しかし、庶民増税をやめても、大企業減税の一部を元に戻すだけで減収分は取り戻せる。

表

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