2007年6月1日(金)「しんぶん赤旗」

どう解決「消えた年金」

政府、抜本策立てず

共産党 国民の受給権を守れ


 国民の公的年金への信頼を揺るがす異常事態が生まれています。政府・与党のやり方は、社会保険庁解体・民営化法案とセットで「時効特例法案」を出すなど、国が責任をもって解決することを不可能にするだけです。日本共産党国会議員団が発表した「『消えた年金』問題に関する緊急要求」(五月二十九日)の方向で、国民の年金受給権を守ることが求められます。


全加入者を調査対象に

 日本共産党の緊急要求は、年齢を問わず、すべての加入者について調査することを求めています。加入期間(二十五年間)が足らず無年金になっている人も、調査結果によっては年金受給者になるため、すべての無年金者も調査対象にすべきだと主張しています。

 当初、政府・与党は調査対象を、現在年金を受給している約三千万人だけに限定していました。しかし、世論の批判の高まりのなかで、安倍晋三首相は年金に加入している現役世代も含めて「宙に浮いた」約五千万件について、「一年で突き合わせる」と党首討論(三十日)で明言しました。また、柳沢伯夫厚労相は三十一日の日本共産党の小池晃参院議員の質問に「一年でやらなくてはならない」とのべました。

 しかし、政府の対策方針には課題が残されています。照らし合わせるにあたり、同一人物と思われる記録について、氏名、性別、生年月日の三条件の完全な一致に限定しているためです。部分一致であっても、調査対象として示さなければ、広い被害者の補償にはつながりません。


図



表

国が該当者に情報提供

 緊急要求は、「宙に浮いた」年金記録の情報をきちんと該当者に示して本人による確認を手助けするなど、国が責任をもって解決にあたるよう求めています。

 政府・与党の対策案では、年金記録の情報の「旨を通知する」としていますが、その「旨を通知する」の中身は明確ではありません。そもそも、政府のやり方は、同一人物と思われる人に記録の中身は示さずに注意を呼びかけるだけで、本人からの申告を待つという「申請主義」の立場は変わっていません。

 これでは、国民の側に記録漏れを確認させる努力を強いることになります。記憶が薄れていたり記録がない人も少なくなく、大きな負担を強いることになりかねません。

物証がなくても解決を

 年金記録が社保庁にもなく、本人のところに領収書などがないケースが多数あります。

 日本共産党は、国が責任をもって調査し、物証がなくても会社の同僚の証言など状況証拠に基づいて解決するよう求めています。

 政府は、「第三者委員会」を設けて検討するとしていますが、詳細は決まっていません。

 これまで本人が申し出たものの証拠がないとして却下された人は二万件にものぼります。

 日本共産党の高橋千鶴子衆院議員がこの二万件について再調査を求めたのに対し、柳沢厚労相は「納得がいかないのなら本庁にあげてほしい」と再調査を行う考えはないとのべました。これでは本当に広く救済する気があるのか問われます。

相談の特別体制を

 緊急要求は、国の責任でただちに身近な相談窓口をつくることを求めています。

 安倍首相も三十日の党首討論で、「二十四時間、土曜、日曜も統一の電話番号で相談する体制を整備する」とのべました。それにふさわしい職員配置などをすることが求められています。国民の不安に応えるために、万全の体制をとることが急務です。

時効なくしても救済の保証なし

 政府・与党は、年金の支給漏れに対する国民の不安に押されて、五年の時効を適用しない特例法案を提案しました。

 支給漏れが判明しても時効のためもらえなくなる人が出ないようにするのは当然のことです。

 しかし、政府・与党案は、「立証責任」を加入者に求める立場を変えていないため、時効がなくなっても、救済される保証はありません。

社会保険庁解体民営化は逆行

 安倍首相は、「社会保険庁は国民の信頼を失墜させた」などとして、社会保険庁の解体・民営化法案を強行しようとしています。しかし、この法案は、公的年金に対する国の責任を投げ出すものです。

 政府案は、年金業務をバラバラにし、競争入札で外部委託。委託業者や従業員が数年ごとに入れ替わるため、確実で安定した年金運営はできません。個人情報の漏えいや不正利用などプライバシーも深刻な危機にさらされます。

 民主党は、社会保険庁を解体し、国税庁とあわせて「歳入庁」をつくる法案を提出しています。

 年金業務を細分化し、営利企業に丸投げする仕組みは政府案と同じです。審議のなかでは「民間委託でスリム化ができる」といって解体・民間委託を競いあっているのです。


 あらためて問われるのは、年金行政トップだった歴代厚労相(厚相)の責任です。

 一九九六年に「基礎年金番号」導入を決めたのは、現在、民主党代表代行の菅直人氏。導入の際の大臣は小泉純一郎前首相でした。それ以降の大臣も必要な対策をとらず、加入者に被害を与えてきた責任は免れません。

歴代の厚生労働大臣

 さきがけ・菅 直人氏 (1996・1〜96・11)

 基礎年金番号導入を省令で決める

 自民・小泉純一郎氏(96・11〜98・7)

 省令に基づき実施

 自民・宮下創平氏(98・7〜99・10)

 自民・丹羽雄哉氏(99・10〜2000・7)

 自民・津島雄二氏(00・7〜00・12)

 公明・坂口力氏(00・12〜04・9)

 自民・尾辻秀久氏(04・9〜05・10)

 自民・川崎二郎氏(05・10〜06・9)

 自民・柳沢伯夫氏(06・9〜)


どうしてこんなことに

 五千万件を超える年金記録が誰のものか分からず、受け取れるはずの年金がもらえなくなる―。この前代未聞の事態の責任は国にあります。

番号導入時

 ことの起こりは、いまから十年前の一九九七年、厚生省(当時)所管の社会保険庁が、公的年金の加入者全員に「基礎年金番号」を割り当てる制度を導入し、記録を統合した時にさかのぼります。

 それまでは、厚生年金や国民年金などの年金ごとに違う年金番号で記録・管理されていたため、転職や結婚のたびに違う年金に入り直すと、別の年金番号がつけられていました。

 このとき、国は、氏名や生年月日が一致しないなど基礎年金番号に対応できない記録があることに十分気づいていました。しかし、抜本的な対策をとらず、十年間も放置し続けました。

 その結果、約五千五十九万件が統合できずに「宙に浮いた」状態になってしまったのです。

 国民年金については、納付台帳の原本が市町村にあるのに、その多くが廃棄される事態まで起きました。

 政府・厚労省は、こんな対応をしておきながら“記録がないのは加入者のせいだ”と、立証責任を加入者に負わせる逆立ちした態度です。過去の保険料納付記録のない人には年金の不払い・減額という措置をとり、証明できた場合でも、時効によって五年以上さかのぼる支払いを拒否しました。

 柳沢伯夫厚労相は五月三十日、時効で切り捨てられたのは約二十五万人、総額は九百五十億円にのぼるという推計を初めて明らかにしました。少なくとも、これだけの加入者に被害を与えてきたのです。

強制的徴収

 政府は、保険料の取り立てでは、財産の差し押さえなどのきびしい姿勢をとってきました。政府が、今国会で強行しようとしている社会保険庁解体・民営化法案では、さらにひどい取り立て制度を盛り込んでいます。

 国民年金保険料の滞納者から、国民健康保険証を取り上げ、有効期間の短い「短期保険証」に切り替えるというのです。この制度が導入されれば、国保料を払っているのに、年金保険料未納という理由で二百万人が「短期保険証」に変更される恐れがあることが明らかになりました。

 「サラ金」まがいのやり方で、保険料の取り立てをしながら、政府が記録を紛失して、国民に被害を与えることなど許されません。



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