2007年5月28日(月)「しんぶん赤旗」

ゆうPress

味が、やばい 全然イイ!

この日本語は変!? OK!?


 最近、雑誌やテレビなどで見聞きする「こだわりの一品」「こだわりの味」。従来は否定的な意味で使われてきた「こだわり」ですが、肯定的にも使われるようになってきました。「若者言葉はわからない」「日本語がおかしい」という声も聞こえます。日本語にちょっとこだわってみました。NHKアナウンサーの「ことばおじさん」こと梅津正樹さんにも話を聞きました。(伊藤悠希)


 「このラーメン、やばくない?」「あの子、マジやばいよ」―と聞いて、意味がわかりますか?

 本来なら、「やばい」とは「やば」の形容詞化で、危険や不都合が予測されるさまを言い、危ないという意味です(日本国語大辞典第二版)が…。

 東京都出身の社会人の男性(22)は、ラーメン屋に行けば「この味玉(味付け卵)やばい」と表現します。「すごくおいしい」という意味で使っています。

 男性は高校生のときバレー部でした。試合のとき、相手チームにすごいスパイクを打つ人がいると「あいつやばい」と言っていました。「すごいの上、ずるすぎるというニュアンスで使っていました」

◆対象の変化

 『ことばおじさんの気になることば』(NHKアナウンス室ことば班編)によれば、どうでしょう。「すごい」という意味の用法は、「やばい」という対象が「外的に存在する人・物」から「内的な自分の心情」へと変化したことによって生まれたものだと分析します。気持ちが激しく突き動かされたことが重要なのだそうです。

 佐賀県出身の大学生・女性(21)は「やばい」を本来の意味で使うことが多いと話します。しかし、「すごい」という意味で使われても違和感はないと言います。NHKの分析には、「そうかもしれない。気持ちが揺れ動くときって興奮しているときかな。気持ちを強調したいのかも」と共感していました。

 「全然大丈夫」「全然いいよ」という使い方は、どうですか。女性は「小学生のとき先生から間違っていると指摘されたけど、周りの人が使うので使っていた」と話します。

 男性も「否定、肯定両方の意味で意識なく使っています」。

◆語尾上げる

 「あれ、それ違くない?」「おいしくない?」と語尾を上げて表現することについて、女性は「同じ意見を共有したいから使っている」と言います。「自分の意見を主張して会話を終えるより、語尾を上げた方が一人よがりでない感じがするんです。ワンクッション置けるから。柔らかい雰囲気を保ちたい気持ちがあるんだと思います」

 ただし、こうした言葉を男性も女性も誰にでも使っているわけではありません。男性は仲間うちや親に使うと言います。「同年代には親しみを持ってほしいので積極的に使います」

 女性は同年代か中高生くらいまでに使います。小学生などには使いません。「変な言葉を使っちゃいけないと思う」のが理由です。

 女性が同年代に使う理由は、「柔らかい言葉を使いたいから。ニュアンスがぎゅっと詰まっているんですよ。だから、直したいんじゃなくて使いたいんです」。

古代、「おまえ」は尊敬語
 NHK「ことばおじさん」梅津正樹さん語る

 相手に不快感を与えない、理解してもらえる話し言葉はどうあるべきでしょうか。

 言葉は時代によって変わります。今は初対面の人に「おまえ」と言えば失礼ですが、古代は「御前(おんまえ)」という尊敬語でした。いつの時代の言葉を正しいとするのかが問題なんですね。

 年配の方は、「全然」という言葉には否定の意味が続くという認識があります。しかし、若い人は肯定の意味で使います。調べると、戦前は肯定の方が多かった時期もあるんです。「全然」は「まったくしかり」と書きます。どこにも否定の意味はないんですね。戦後の学校教育で全然の後には否定がくると教えるようになったんです。

◆    ◆

 言葉は生活に密着しているものです。食べ物に関しては、使わなくなった言葉がたくさんあります。「こりこり食べる」とはあまり言わなくなりました。今は柔らかいものが多く、そう表現する機会がないんですね。

 若い人たちは「鳥肌が立つ」を感動したときに使います。鳥肌が立つような恐怖や寒さを感じたことがないんでしょう。実験したら感動したときにも鳥肌は立ちました。科学的に考えると間違いではないんです。本来の使い方ではないといって否定していいんでしょうか。

 今は、言葉に関して世代間のギャップを感じる時代にあたります。私が若いときは、それほどギャップは感じませんでした。今の若者は全然違う環境のなかで生まれ育っているので、使う言葉は当然違います。

 私たち以上の世代が正しいと思ってきた言葉は書き言葉が規範になっています。若い人にとっての言葉は話し言葉なんです。だからギャップは生まれるんです。

◆    ◆

 私は、若い人の言葉を否定しない立場をとっています。

 例えば、若い人は「おいしい」気持ちを伝える場合も、語尾を微妙に変化させて断定しませんよね。自分に自信がないからだという人もいますが、そんな単純なものではないと思います。絶対とは言いきれない、押しつけがましくも言いたくない、複雑な気持ちから、あいまいな表現が生まれるんでしょう。

 書き言葉では表現できない話し言葉をわれわれの世代より上手に使っているんですね。これは若い人たちの力だと思います。新しい話し言葉が作られているんだと思うのです。


 梅津さんが出演している番組

■「ことばおじさんのナットク日本語塾」 教育テレビ
 月・火・水 午前6:25〜30、午後7:50〜55
 金 深夜0:20〜25
■「お元気ですか 日本列島」 総合テレビ
 月〜木 午後2:40ごろ〜
■「ラジオほっとタイム」 ラジオ第1放送
 月〜木 午後2:05ごろ〜


お悩みHunter

彼と将来結婚したら退職迫られるか不安

  いま付き合っている男性がいます。将来、彼との結婚を考えているのですが、いまの会社で仕事を続けられるのか、不安です。会社には、結婚した後も働いている女性はいません。結婚したら退職しなければならない規定があるかどうか知らないのですが、どうしたらいいんでしょう。(25歳、女性。東京都)

結婚理由に解雇したら違法

  結婚して家族を形成することも、仕事を通じて生活の糧を得ながら自分が成長していくことも、どちらも幸せに暮らすために大切なことです。女性には、どちらか一つしか許されないとしたら、おかしいですよね。

 ところが実際には、女性の結婚退社が慣例になっていたり、女性が結婚するといったん退職させてパートで再雇用したりする例があります。背景には、女性を補助的で安上がりの労働力と位置づける雇用者の思惑と、「女性は家庭」という性別役割分担意識があると思います。

 しかし、憲法と法律は、仕事も結婚も、個人が自由に選択・決定できる権利として保障しています。雇用者が、結婚を理由に解雇することは労働基準法で無効になります。女性に対し結婚を理由とする退職規定を設けること、結婚を理由に解雇することは男女雇用機会均等法違反です。

 ですから、あなたには、ぜひ自信を持って働き続けてほしいと思います。

 ただ、権利があっても、これを行使するには勇気がいる場合もあります。相談にのってくれる仲間がいると心強いですね。

 結婚後、上司から退職を強要されたり、嫌がらせをうけたりしたときは、労働組合や各種行政機関の労働相談窓口で相談してください。


弁護士 岸 松江さん

 東京弁護士会所属、東京法律事務所勤務。派遣CADオペレーター、新聞記者などを経て弁護士に。好きな言葉は「真実の力」。


もどる
日本共産党ホーム「しんぶん赤旗」ご利用にあたって
(c)日本共産党中央委員会
151-8586 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-26-7 TEL 03-3403-6111  FAX 03-5474-8358 Mail info@jcp.or.jp