2007年5月27日(日)「しんぶん赤旗」

ここが知りたい特集 安倍「靖国」派政権の実態

これが「靖国」派の正体

安倍政権の中枢に「日本会議」

改憲・教育・家族…

戦前回帰の「国柄」持ち込む


 安倍内閣の中枢を占める「靖国」派ってなに? ここにきて活発になった策動とは? その源流であり、総本山の「日本会議」と、それと連携する「日本会議国会議員懇談会」の動きを特集します。

人権制限、戦争に動員

 「教育基本法の改正が実現し、戦後レジーム(体制)の一角が破れたいまこそ、最大の戦後レジームたる現行憲法を突き崩し新しい日本人のための憲法を生み出すとき」(『日本の息吹』五月号)

 「戦後レジームからの脱却」を掲げる安倍晋三首相の登場を、機関誌で“改憲の好機到来”とばかりに叫んでいる団体があります。今年結成十周年を迎える日本会議です。

 日本会議は、一九九七年五月三十日、「日本を守る国民会議」(一九八一年設立)と「日本を守る会」(一九七四年設立)が合流し結成されました。七〇年代以来、改憲や元号法制化、夫婦別姓反対の運動を“草の根”で展開してきた右翼改憲団体の再編・総結集が図られたのです。

国会議員235人

 日本会議の現在の役員は、会長が三好達・元最高裁長官、副会長が小田村四郎・拓殖大前総長、山本卓眞・富士通名誉会長ら。この三人は、日本の侵略戦争を正当化する宣伝センターの役割を果たしている靖国神社の崇敬者総代でもあります。つまり、日本会議は「靖国」派の総本山なのです。

 日本会議の国会版として、前日の五月二十九日に結成されたのが日本会議国会議員懇談会(以下、日本会議議連)です。当時、自民党、新進党、太陽党などから二百人以上の国会議員が参加。今では、自民党、民主党、国民新党、無所属の国会議員二百三十五人(〇五年六月)が名を連ねるまでになっています。

 日本会議と日本会議議連誕生の背景には、日本の過去の侵略戦争への反省が社会に行き渡ることへの“危機感”がありました。一九九三年、「従軍慰安婦」問題で過去の行為への反省を明らかにした河野官房長官談話が出ました。一九九五年には日本が侵略と植民地支配の誤った国策をとったことを謝罪した村山首相談話が発表されました。

 こうした動きを、「東京裁判史観の蔓延(まんえん)は、諸外国への卑屈な謝罪外交を招き、次代を担う青少年の国への誇りと自信を喪失させている」(日本会議設立趣意書)と敵視。以来、過去の侵略戦争は正しかった、その戦争に突き進んだ国と社会は美しかったという特異な価値観を、国家権力も最大限に使って日本社会に押し付けようとしてきたのです。

 靖国神社の戦争博物館、遊就館で上映中の映画『私たちは忘れない』を制作したのも日本会議です。日本の侵略戦争を「国家と民族の生存をかけ、一億国民が悲壮な決意で戦った、自存自衛の戦争だった」などと美化しています。

天皇を頂点に

 今年五月三日には、日本会議議連のもとにつくる「新憲法制定促進委員会準備会」が「新憲法大綱案」を発表し、目指す国家像を明らかにしました。

 そこでは、日本国民が「天皇を中心として、幾多の試練を乗り越え、国を発展させてきた」と天皇中心の国家観を提示。天皇を「元首」と明記しています。

 「家族」条項を設け、「わが国古来の美風としての家族の価値」を「国家による保護・支援の対象」としています。

 「戦争放棄」と「戦力の不保持」「交戦権の否認」を定めた現行憲法の九条は全面改定。

 一方、国民に対しては「人権制約原理の明確化」を掲げ、「国防の責務」も課すとしています。

 天皇を頂点にいただき、個人の人権を制限し、家族を国の末端の基礎単位と位置づけて、戦争に国民を総動員していく――まさしく戦前・戦中の日本社会の復活を狙っているのです。

特異な価値観に懸念

 安倍政権は、安倍首相を先頭に、日本会議議連メンバーがその中枢を占める「靖国」派政権です。首相自身、〇五年までは同議連の副幹事長でした。十八人の閣僚のうち十二人が議連に参加、他の靖国関連の議連加盟を含めると十五人に達します。首相が「官邸機能の強化」を掲げる中、二人の官房副長官と四人の首相補佐官が議連参加議員です。

「正義の戦争」

 首相が掲げる「美しい国、日本」のスローガンも、元をただせば日本会議が設立に際して掲げた「美しい日本を再建」という合言葉です。「戦後レジームからの脱却」とは、天皇を中心とする「国柄」つまり戦前の「国体」の「再建」にほかなりません。

 ――日本の侵略戦争を「正義の戦争」といい、恒久平和をうたう憲法前文を「連合国への詫(わ)び証文」と攻撃する。

 ――さらには天皇中心の「国柄」を柱に、「家族の価値」を「古来の美風」とする。

 こんな特異で戦前回帰の価値観をもった「靖国」派が政権の中枢にすわったことは、日本の前途に暗い影を投げかけ、自民党内やアメリカなどからも懸念の声が出始めています。

 自民党の船田元衆院憲法調査特別委員会理事は二十日、都内でおこなわれたシンポジウムで「憲法によって国家権力をしばるという要諦(ようてい)がわが党の中でも少し軸がずれ始めている」「(憲法に)国を愛する責務、なんとかする責務をあげた途端、うさんくさい状況になる」とのべました。

アジアで孤立

 また「戦後レジームからの脱却」というスローガンに対し、コロンビア大学のジェラルド・カーティス教授は「民主主義国のリーダーが自分の国のレジーム・チェンジ(体制変革)を求める意味は理解しにくい」、「安倍首相の捨てたがっている戦後レジームの何がそんなにひどいのか、ぜひ説明してほしい」と発言。保守派の論客フランシス・フクヤマ氏も「日本が憲法九条の改正に踏み切れば、新しいナショナリズムが台頭している今の日本の状況から考えると、日本は実質的にアジア全体から孤立することになる」と警告を発しています。


議連が政権を下支え

●価値観外交議連

 日本会議議連メンバーが中心となり「価値観外交を推進する議員の会」を発足させ(十七日)、会長に日本会議議連副会長の古屋圭司衆院議員が就任しました。

 古屋氏は発足の趣旨として「真の保守主義」を強調。皇室典範、靖国参拝、改憲の国民投票法案、民法七七二条の「三百日規定」見直しなどの諸問題をあげ「同じ価値観を持つ同志を糾合。速やかに行動」し、「議会サイドからしっかり(安倍政権を)サポートする」と語りました。

 「靖国」派が中枢を占める政権を、「靖国」派議員の「増殖」で下支えする狙いです。

●教育基本法改悪

 二〇〇六年十二月に改悪された教育基本法。日本会議は「教育を変えなければ憲法を変えられない」(三好達会長)と、署名や自治体決議運動を全国で展開しました。国会では日本会議議連の議員らが「教育基本法改正促進委員会」をつくり、「愛国心」と「宗教的情操の涵養」を盛り込むことや、「教育は不当な支配に服することなく」の文言を削除することを求めました。

●「親学」のルーツ

 日本会議は、夫婦別姓や女性の再婚禁止期間短縮など民法改正の動きに対し「家族の絆(きずな)や一夫一婦制を崩壊させる」として猛烈に反対してきました。

 今年四月に発会した、日本会議系の地方議員らによる「家族の絆を守る会」。顧問に古屋圭司、稲田朋美、西川京子、萩生田光一各衆院議員らが名を連ね、民法改正阻止へ活動を開始しました。

 西川京子衆院議員は、戦前の教育は「道徳観や社会通念をはぐくむという面では現在より圧倒的に優れていた」(「日本女性の会五周年の集い」記念シンポジウム、〇六年十二月九日)とし、その「道徳観」の継承の場として家庭の役割を強調しています。

 このシンポジウムでは「親学が必要」との発言もありました。山谷えり子首相補佐官が中心となり、教育再生会議で「母乳で育てる」「子守歌を歌う」などの提言を出そうとして問題になった「親学」のルーツはここにあったのです。

●「従軍慰安婦」

 日本会議は、前身の「日本を守る国民会議」時代から“教科書編さん事業”を提唱。高校日本史教科書『新編日本史』(後に『最新日本史』)を発刊しました。

 「従軍慰安婦」の問題では、日本会議ができた一九九七年に、自民党内に「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」(後に「議員の会」)が結成され、教科書の記述を削除させようと政府や教科書会社に圧力をかけました。会創立時の代表が中川昭一自民党政調会長。事務局長が安倍晋三首相で、副代表に松岡利勝農水相、幹事長代理に高市早苗男女共同参画担当相が就任していました。

 米議会での「従軍慰安婦」への責任を認めて首相が謝罪するよう日本政府に求める決議案の採択阻止のため四月に訪米を企てました(実際には延期)。


日本会議議連メンバーの閣僚

 安倍晋三首相、菅義偉総務相、長勢甚遠法務相、麻生太郎外相、尾身幸次財務相、伊吹文明文科相、松岡利勝農水相、甘利明経産相、若林正俊環境相、塩崎恭久内閣官房長官、高市早苗沖縄北方担当相、渡辺喜美規制改革担当相

(みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会や神道政治連盟国会議員懇談会などその他関連議連

 柳沢伯夫厚生労働相、久間章生防衛相、山本有二金融担当相)


「靖国」派の問題発言

 安倍晋三首相

 「憲法前文には、敗戦国としての連合国に対する“詫(わ)び証文”のような宣言がもうひとつある」(『美しい国へ』)

 「次の首相も(靖国神社)に参拝すべきだ。国のためにたたかった方に尊敬の念を表するのはリーダーの責務」(二〇〇五年五月二十八日、ワシントンの講演)

 「(『従軍慰安婦』は)当初定義されていた強制性を裏付ける証拠がなかったのは事実だ」(〇七年三月一日、記者会見)

 麻生太郎外相

 「(創氏改名は朝鮮人が)名字をくれと言ったのが始まりだ」(〇三年五月三十一日、東京都内の講演)

 「(靖国神社の『遊就館』は)戦争を美化するという感じではなく、その当時をありのままに伝えているだけの話だ」(〇五年十一月二十一日、米テレビのインタビュー)

 長勢甚遠法務相

 「(民法七七二条改正で)貞操義務なり、性道徳なりという問題は考えなければならない」(〇七年四月六日、記者会見)

 菅義偉総務相

 「わが国の近代について青少年にゆがんだ認識を与え、誤った国家観をいだくことを助長することは、もっと問題であります」(『歴史教科書への疑問』)

 下村博文官房副長官

 「自虐史観に基づいた歴史教科書も官邸のチェックで改めさせる」(〇六年八月二十九日、都内シンポジウム)

 「従軍看護婦とか従軍記者はいたが、当時、従軍慰安婦はいなかった」(〇七年三月二十五日、民放ラジオ)

 山谷えり子首相補佐官

 「占領軍の関与でつくられた憲法・教育基本法のため偏向教育・学力低下・学級崩壊・教員の質の低下が起き、教科書も偏向している」(〇四年八月二十五日、都内シンポジウム)

 「靖国の心を大切にして、国民の心が一つになるよう力を尽くす」(〇五年八月十五日、靖国神社境内での集会)

 「新政権は真っ先に教育の正常化に取り組み、とくに行き過ぎた性・ジェンダーフリー教育の是正が必要だ」(〇六年八月二十九日、都内シンポジウム)


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