2007年5月14日(月)「しんぶん赤旗」
まともな 仕事を 5・20青年大集会
働けど… たたかう若者たち
過労から自殺未遂
組合知り違法告発
「働けど働けども」貧しさから抜け出せないだけでなく、「黙っていたら殺されてしまう」。切羽詰まった事態のなかで生きている若者たち。「人間らしく働きたい」と声を上げ、労働組合をつくってたたかい始めました。そんな若者たちの姿を五月二十日に開かれる全国青年大集会(東京・明治公園)を前に追います。(菅野尚夫)
「過労の苦しみから逃れるには死ぬほかない」。山梨県甲府市に住む保坂健一さん(37)=仮名=は昨年六月、睡眠薬を大量に飲み自殺を図りました。大手電機メーカーの工場内でのことでした。
その日無理やり休日出勤を命じられた保坂さんは午前七時に出勤。うつ病の治療でもらった十四日分の睡眠薬を一気に飲み仕事につきました。「強制休日出勤にたいする抗議だった」と当時の心境を語ります。数時間たつと意識がもうろうとして機械の前で倒れました。ほかの労働者に発見されて救急車で病院に運ばれ、五日間入院しました。
× … … ×
入院して二日後に上司が来て「あなたは仕事で倒れたのではなく、(趣味でやっている)バイオリンの練習を頑張りすぎて倒れたことにしなさい」と命じられました。労災隠しでした。
保坂さんは、業務請負業のA社(本社・川崎市)の正社員。A社が請負契約をしている大手電機メーカーに「請負労働」として偽って働かされる「偽装請負」です。
自殺未遂事件を起こす前の保坂さんの長時間勤務は、朝七時から深夜零時までの勤務が続きました。そのうえ分刻みで作業工程表がつくられていて、工程通りにできないとメーカー側職制に「何やっているんだ!」と大声で怒鳴られました。
× … … ×
給与明細を見るといかに残業が多いかがよく分かります。基本給が十五万八千円にたいして、早出残業手当、深夜手当、休日出勤手当など残業代の合計が約十六万円。基本給を上回っています。「月の時間外労働が百時間を超えたこともある。残業代で暮らしている」実態でした。
保坂さんが働いている大手電機メーカー側は、強制的に残業・休日出勤を命令していました。さらにメーカーの社員が製造ラインを管理していました。本来の「請負」なら違反となる労務管理をメーカー側が直接保坂さんらにしていました。
保坂さんは大学を卒業したあと、食品会社に三年間勤務。人間関係のストレスなどでうつ病になり退職しました。休養した後に派遣会社に登録して働いてきました。
二年前にハローワークで紹介されたA社。正社員として採用されました。「非正規ではない。正社員になった。一生勤められる」と喜びました。
しかし、朝から深夜までの労働は、どうき・息切れなど体に変調をきたしてきました。慢性的な寝不足感は、心のバランスを崩すことに。うつ病を再発し、体は過労で限界点へと突き進んでいきました。
「せっかくつかんだ正社員の道もだめになる。人生はめちゃめちゃになってしまう」。不安が襲います。「ふがいない」と情けなくなることも。
× … … ×
そんな思いでいた保坂さんが「自分は悪くない」と気付くことになるのは、山梨青年ユニオンの若者との出会いでした。ちょうど医者から「残業は二時間以内」と制限されていたときのこと。「あなたの労働時間について教えてください」。山梨青年ユニオンが取り組んだJR甲府駅前でのアンケートに応じました。
毎日十七時間にも及ぶ異常な働かされ方でうつ病になったことを話しました。驚いたユニオンの若者が「勉強会に来ませんか」と誘いました。
「あなたは偽装請負で働かされているのではないですか」「あなたの基本給は、高卒初任給と同じぐらい安い。残業しないと暮らせない給料はひどすぎませんか」。保坂さんが勉強会で自分の労働について語ると、聞いていた若者たちからは驚きの質問が続きました。
保坂さんにとって「当たり前」と感じてきた低賃金と異常な長時間労働は、まったく不当だと気付かされることになったのです。
「偽装請負で働かされていたという事実は衝撃でした。信頼できる仲間ができて自分に自信を持てるようになりました」と、労働基準監督署や県労働局へ「偽装請負」を告発してたたかっています。五月二十日の集会に参加して、交流会で自分の経験について発言しようと考えています。
![]() (写真)保坂さんの給与明細書を見ると、基本給よりも残業手当や深夜手当などの合計のほうが多くなっています |
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