2007年4月23日(月)「しんぶん赤旗」

乱射事件 米にはびこる“銃神話”

憲法 「個人の武装」規定せず


 米南部バージニア州の大学で十六日に起きた銃乱射事件は、世界最悪の「銃社会」米国の暗部を改めて見せつけました。

南北戦争が契機

 「米国は東から西へと開拓され、護身のため最初から武器が必要だった」―銃社会化の背景として、よく言われます。米エモリー大学のマイケル・ベルシールズ教授は「神話」だと批判します。「開拓前線地帯でさえ銃所有は、十七―十八世紀、十九世紀初期は例外的だった。十九世紀半ばの工業化で初めて銃は一般商品化し、銃保有は都市部に集中した」(『米国の武装―国の銃文化の起源』、二〇〇〇年刊)

 一八六一―六五年の南北戦争が銃増加の契機でした。一八六〇年に銃製造会社が生産した小火器は五万丁。戦争中に三百万丁近くが造られ、戦後、全国に拡散しました。草分けのコルト社は一八三六年、ウィンチェスター社は一八六六年の創立。それ以前は仏英両国などから輸入されていました。

銃信仰とNRA

 「銃文化は銃産業とともに成長したが、『文化』になるには銃信仰が必要だった」と同教授。「銃信仰」を広げてきたのが全米ライフル協会(NRA)でした。

 NRAは一八七一年に作られます。国民が銃の扱いに慣れていないことが南北戦争で判明したため、銃を普及し、国民の射撃能力を高める―創設者の狙いでした。

 NRAは、まず射撃大会を開催。景品も含め、銃はみな銃会社が提供しました。当初から軍、連邦・州政府と結びつき、警官の射撃訓練を委託されるなど、「準公的機関」的装いを維持。戦争ごとに勢力を拡大しました。

 「神が人間をつくり、コルト大佐(コルト社創設者)が彼らを平等にした」などと宣伝し、NRAは、どんな銃規制にも反対。オモチャの銃より本物の銃の方の規制が弱い事態を招いています。

 銃保有の法的根拠とされるのが、「人民が武器を保有し携帯する権利は、これを侵してはならない」との憲法修正二条の規定です(一七九一年成立)。「武装市民だけが専制政府に対抗できる」として、武装の自由は民主主義の根幹に祭り上げられています。

各州州兵の権利

 ところが、この規定には「よく規律された民兵は、自由な国家の安全にとって必要であるから」との前段があります。そこから同条は各州の州兵の集団的権利を意味するものであり、個人の武装の権利を定めていないとの解釈が有力です。

 建国当時の米国で政治指導者たちは一般国民の権利拡大を恐れ、大統領選も直接選挙制ではなく、選挙人を選ぶ間接選挙制にしました。当然、庶民の武器保有も恐れていました。

 憲法一条八節は、「反乱を鎮圧し、侵略を撃退するために、民兵の召集について定める」としています。国防は正規軍・常備軍でなく民兵で対処するとの考え方でした。

 しかし今日の米国では、世界の軍事費の半分を使う圧倒的な正規軍を中央政府が保持。イラクなどで同軍が戦争を継続できなくなると州兵を大量動員しています。修正二条は州兵についての規定だとの解釈さえ通用せず、同条全体の存在意義が疑問視される状況になっています。(坂口明)


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