2007年4月12日(木)「しんぶん赤旗」

主張

放送法改定

放送を国家が統制する危険


 安倍内閣が放送法の改定案をまとめ、国会に提出しました。

 テレビやラジオなど国民だれもが接することができる放送は、政府や権力の規制を受けず、言論・表現の自由が確保されていることが重要です。今回の改定の背景となったのは、関西テレビ・フジテレビの番組「あるある大事典」のデータねつ造などの問題ですが、放送事業者にきびしい倫理が求められることと、政府がそれを口実に放送に介入することとは、まったく性格が違います。放送内容への政府の介入拡大は、放送を国家が統制する危険を持ちます。

総務相主導の改定

 この間の経緯を見ると、政府の介入を拡大する放送法改定案づくりは、菅義偉総務相の主導でにわかに持ち出されたものです。

 改定案には、ねつ造などがあった場合、総務相が放送局に再発防止計画の提出を求め、意見を付けて公表する行政処分を導入しました。問題がある番組と判断するのも、再発防止計画を点検するのも総務相です。これでは、総務相が放送内容をチェックできる権限を与えられることになり、検閲にもつながります。

 現行の放送法・電波法は放送局の施設などが基準に反した場合は電波停止や免許取り上げとなっていますが、放送内容に関して処分するのは異常です。今回の改定はそれを制度化しようとねらうものです。

 菅総務相は昨年NHKの国際放送にたいし、放送法にもとづいて、拉致問題を取り上げるよう、「命令」を出しました。改定案ではこの命令放送についても、「命ずる」を「要請する」に変えて残し、「NHKはこれに応じるよう努めるもの」を付け加えました。総務相の要請に、NHKが従うことを明文化したものです。

 戦前の放送が、政府とくに軍部の支配下に置かれたことを踏まえ、戦後定められた放送法は、放送は国民に貢献するものであること、そのために表現の自由が確保されなければならないことを規定しています。放送法成立までの国会の論議では、放送が国家や権力の支配を受けることがないようにするのが放送法の主眼であり、当時の大臣もそれが新憲法の精神と答弁しています。今回の放送法改定は、それを根底から掘り崩し、国民の知る権利を侵すものです。

 放送はジャーナリズムとして権力を監視する役割をになうとともに、娯楽の手段としても、その機能を発揮する社会的な責任を負っています。視聴者から俗悪低劣とか人権侵害だという批判を受けたり、公正・公平に欠けることがあってはならないものです。ましてや番組データのねつ造など、論外です。

 表現の自由は、裏返せば放送の自主・自律です。送り手の放送関係者、とくに経営陣は自らが決めた放送基準を守って臨むことが必要です。

国民の信頼こそ重要

 「あるある」のねつ造では、NHKと民放連の第三者機関である「放送倫理・番組向上機構(BPO)」が、再発防止のために権限を強化した新委員会を五月に発足させると発表しました。いま必要なのはこうした自主的努力を強化することです。

 現行の放送法の意義を認めた上で、メディア関係者、学者、研究者、市民から放送改革のための問題提起が出ています。一つは、視聴者の視点で放送制度を問い直そうとする議論、もう一つは、独立行政委員会に放送行政を委ねる提案です。

 政府の介入を強化する放送法改定を許さず、国民参加の議論で放送の将来を決めていくことが大切ではないでしょうか。


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