2007年3月10日(土)「しんぶん赤旗」

逆立ち政治 ―告発

県民には痛みの連続

山形 大企業連なる産学協同研究

先見えないのに巨費


 「研究開発支援は重要な産業振興策だ」―。山形県では“産学協同”の大学研究施設に百十二億円もの税金をつぎ込み、今後もさらに五十億円もの支援しようとしています。その実態を追いました。(阿曽 隆)


 山形県鶴岡市。藤沢周平の小説に登場する「海坂藩」のモデルになった人口約十四万人の小都市です。市の中心、鶴岡城跡地の前に二〇〇一年、県と市の手厚い支援をうけて、慶応大学先端生命科学研究所が開設しました。

 同研究所は慶応大の付属機関で、バイオテクノロジーを用いて生物の細胞活動を計測・分析。その研究成果をもとに大企業が新薬開発にむけ共同研究をしています。提携相手には製薬会社の三菱ウェルファーマ、中外製薬、味の素、ミツカンなどの大企業が名を連ねます。

用地は無償で

 同研究所の施設に、県と市は至れり尽くせりで巨費を投じてきました。

 研究所の用地は市が慶応大に無償譲渡し、施設の建設費三十四億円も県と鶴岡市などが肩代わりしました。さらに、慶応大が人件費などに運用するための基金に三十五億円を出資、補助金等をあわせると合計八十四億円にのぼります。

 さらに鶴岡市は、研究所とは別に市の北西部に共同研究用施設を建設。この施設を月額八万九千―九万三千円の格安の使用料で前出の大企業に貸しています。

 県は「県内経済への波及」「新産業の創造」をうたいます。しかし、五年間の基礎研究をへても「経済への波及」どころか、いまだに新産業への具体的な見通しも示されていません。

 先行きの不透明なまま、県と鶴岡市は、〇六年度から五年間で三十五億円の研究費補助金を新たに支出することを決めました。

11億の負担増

 一方で、市は昨年度、住民税、国保税、介護保険料の引きあげなどで、市民一人当たり八千円にものぼる、計約十一億八千万円もの負担増を市民に押しつけました。

 「まずやるべきは、市民の生活と雇用を守ること」と怒るのは長谷川俊男さん(30)=仮名。昨年十二月、五年間アルバイトした市内の飲食店が不景気で閉店。毎週ハローワークに通っていますが、派遣労働以外の求人はまったくありません。

 「早く仕事を探さなくてはとあせるばかり。県や市は正社員を増やす対策をとってほしい」

米沢市でも…

 米沢市にある有機エレクトロニクス(EL)研究所も同様です。

 液晶にかわる次世代ディスプレイなどの開発を目的とした有機EL研究所は、山形大学工学部の一研究室と企業との共同研究施設で、現在県内企業六社と、県外企業十社が研究員を派遣し共同研究しています。これに県は、研究費などに〇三年から二十八億円を拠出。さらに〇九年まで十五億円を支出します。

 県は、〇九年度には六百億―八百億円程度の製造品出荷額、千四百―千九百人の雇用、地方税全体で七億―十億円の経済波及効果が見込めるとそろばんをはじきます。

 しかし県民一人当たり三千五百円もの巨費をつぎ込みながら、実用化、事業化にむけての見通しはどうなのか、先行きは不透明なままです。

破たんの過去

 山形県には、過去にも大企業の研究のために県民が負担を肩代わりしたあげく、見るべき成果もないまま破綻(はたん)を招いた実例があります。

 〇四年に閉鎖した生物ラジカル研究所です。十二年間で県が二十二億円、国の支援を含めると三十億円以上の補助金が投入され、サントリー、ツムラ、新日鉄、大塚製薬、東北パイオニアなどの大企業が参入しました。

 この間、研究所は四十六件の特許を出願。九件を取得しましたが、そのうち実施料収入をともなうものは二件のみ。実施料は二件でわずか五万円でした。

歳出をカット

 こうした大企業への大盤振る舞いの一方で、県は財源不足を理由に「聖域なき改革の断行」をかかげ、〇六年度百六十億円の歳出をカットしました。さらに来年度も補助金など百二十億円を減らします。福祉・教育の切り捨て政策が県民生活を直撃しています。

 日本共産党をのぞく自民、民主、公明、社民のオール与党は「(改革は)県民の痛みをともなうもの」(自民)、「予算編成には賛意…県民に痛みを求める部分も示した」(公明)などと知事を持ち上げる一体ぶりです。

 県のホームページ「県民の生の声コーナー」には、こうした“逆立ち政治”への怒りの声が―。

 「借金が全国で十一番目に多いのに、有機ELに五十億円もつかって…製品化できないなら早く手をひいたほうがいい」


06年度に山形県が行った
県民サービス切り捨て・負担増

◆乳幼児医療費無料化の所得制限引きあげなどで8000人が負担増
◆私学助成金削減(約2億円)
◆中小企業への季節資金融資制度の廃止(250億円)
◆県立高校授業料の値上げ(07年度から3300万円)
◆重度心身障害(児)者医療給付(4億700万円)
◆老健施設への利子補助(4300万円)
◆福祉施設への補助金(4500万円)
◆合併浄化槽県補助(5200万円)


研究と無関係な支出も

写真

 日本共産党の笹山一夫県議の話 先端生命科学研究所の「研究内容」には、「慶応高校生のサマーキャンプ」「外国人留学生の授業料減免」など、研究とは無関係な支出もあります。

 県民には痛みを押しつけながら、大企業支援には大盤振る舞い。こんな逆立ち県政をただすために頑張ります。


もどる
日本共産党ホーム「しんぶん赤旗」ご利用にあたって
(c)日本共産党中央委員会
151-8586 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-26-7 TEL 03-3403-6111  FAX 03-5474-8358 Mail info@jcp.or.jp