2007年2月3日(土)「しんぶん赤旗」

「美しい国」内閣の「美しくない」モラル


 今国会序盤の最大の焦点である柳沢伯夫厚生労働相の罷免問題。人権を守る責任者でありながら女性の人格を完全に否定した本人は居座り、罷免すべき首相はかばい続け、与党もそれを支持しています。支持率急落のなか、政権維持を最優先する首相。「美しい国づくり」を掲げながらの醜さ極まる事態です。その異常さをあらためて見てみました。


少子化対策に敵対

柳沢厚労相辞任は当然

 女性は「子どもを産む機械」などと語った柳沢厚労相の発言は、女性の人格と尊厳を否定する言語道断の発言です。同時に、福祉、健康、労働の分野で国民の人権を守ることを職責とする厚労相の発言としても、二重に許しがたい重大な意味をもっています。

 柳沢氏は、発言で「(女性という)産む機械、装置の数はもう決まっている。産む役目の人が一人頭でがんばってもらうしかない」などと述べています。これは子どもを産みたい夫婦が子どもを産み、育てやすい環境をつくるという政府自らの責任を棚に上げ、女性に責任を押し付けようとするものです。こんな認識の人物に厚労相が務まらないのは明らかです。

 柳沢氏は「与えられた任務をしっかりやって成果を上げたい」(二日)などと開き直っていますが、やろうとしているのは何か。長時間労働を加速する「残業代ゼロ・過労死促進」の「ホワイトカラー・エグゼンプション」の導入など少子化対策に真っ向から反するものです。今国会では、生活保護を受けている母子家庭の世帯に支給される母子加算の廃止など、国民いじめの来年度予算の審議が目前に控えています。責任者が、女性蔑視(べっし)の考えの持ち主では、まともな議論ができません。

 「毎日」二日付社説は、すでに多くの国民が最初の発言を「柳沢氏の本音」と感じていると指摘。「今後、柳沢氏がどんな少子化対策を口にしても、国民に対する説得力は持たないのではないだろうか」「自ら辞任して混乱を収拾するのが政治家というものだ」と厳しく指摘しています。

政権への影響懸念

かばう首相の責任

 「柳沢氏は深刻に反省している」「発言は不適切だが本来は見識の高い人」

 安倍首相はこういって、柳沢氏をかばうだけでなく、自ら前面に出て、留任のため与党を説得するという異例の態度をとりました。問題発覚の当初は、柳沢氏にたいし、「誤解を生じないように」などとのべ、まるで国民の理解力のほうが問題であるかのような発言までしました。

 首相がかばい続けるのは、本間正明前政府税調会長、佐田玄一郎前行革担当相の辞任に続き、さらに閣僚が罷免あるいは辞任となれば、政権への決定的な打撃となることを懸念しているからとされます。しかし、この首相の態度は、「美しい国づくり」を声高に唱える自身のモラルがいかに「美しさ」とかけ離れているかを告白したに等しいものです。

 柳沢氏は、昨年の自民党総裁選で安倍首相の総合選対本部長を務めました。内閣発足当時、マスメディアは、柳沢氏の入閣は、「論功行賞」と書き立てました。首相が女性の人格、尊厳よりも、自分に対する「貢献」を優先させているとすれば、首相としてこれほど本末転倒な話はありません。

 首相がかばい続ければ続けるほど、人権感覚を柳沢氏と同じレベルに引き下げることになり、国民の怒りと国際的な不信を増すことになります。

「しっかり仕事を」

支える与党の異常

 柳沢氏をかばう異常さでは自民、公明両党も同じです。

 与党が単独で開いた一日の衆院予算委員会では、自民党議員の質問で、「われわれはあなたの味方。しっかり支える」と柳沢氏を励ます発言まで飛び出しました。

 自民党の中川秀直幹事長は二日、「柳沢さんは女性蔑視論者ではない。政策の方向も思想も間違っていない」と、全面的に擁護しました。各派閥もほとんどが同様の立場です。

 見過ごせないのは、日ごろ、女性分野の「実績」を自慢する公明党の態度です。同党は、二つの全国選挙を前に、連日、機関紙などで「少子化対策、児童手当の公明党」のキャンペーンを張り、「女性専用車両の導入」まで自らの「実績」に並べ立てています。

 それなのに、当初、発言に激怒したとされる浜四津敏子代表代行は、一月三十一日、「(厚労相発言は)女性に対する侮辱だ」としながらも、「気を引き締め、これまで以上に緊張感を持って行動」するよう求めるだけ。太田昭宏代表も一日、「しっかり仕事をしてもらいたい」と、罷免する意思がまったくないことを表明しました。

 公明党が本気で女性の人権を守り、出産・子育てのしやすい社会をつくろうと思うなら、今回の柳沢氏の発言とその進退をあいまいにすることなどできないはずです。柳沢氏の罷免も辞任も求めず、「実績」を並べ立てることは、それが単なる選挙目当てにすぎないことを自ら示しているのも同じです。


「カネ」のモラルも

 安倍政権のモラル低下は、すでに「政治とカネ」の問題でも露呈しています。

 家賃がただの議員会館を「主たる事務所」にしながら、多額の「事務所費」を報告していた「事務所費」問題―。首相は、自分が任命した閣僚、党幹部に疑惑がかけられているのに、「『法にのっとって適切に処理されている』と報告を受けている」とかばうばかりです。

 国民が疑惑を抱き、怒っているのは、知られたくない支出を隠すため領収書のいらない「事務所費」として処理し、法に反する虚偽記載が行われていたのではないかということです。その重大さ、異常が全く理解できないのです。

 この首相のもとで、疑惑の閣僚、幹部たちは言いたい放題です。

 伊吹文明文科相も松岡利勝農水相も、保存が義務付けられている領収書や帳簿の公開は拒否し、「家賃がただだから疑惑があるという(のは)誤った認識」(伊吹氏、一月三十日)、「違法では全くない」(松岡氏、同)と開き直っています。中川昭一政調会長は「事務所費の透明化のあり方について、党としても検討を進めている」(一月二十九日)と述べ、まるで人ごとです。


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