2007年1月27日(土)「しんぶん赤旗」
主張
首相演説
国民も世界も見えていない
安倍晋三首相の、就任後初の施政方針演説を聞きました。
政権担当の基本姿勢は就任直後の所信表明演説でも語られましたが、施政方針演説は国政の基本方針を明らかにする年に一度の演説です。首相は、所信表明では口にしなかった持論の「戦後レジーム(体制)」の見直しを持ち出し、憲法を頂点に、行政システム、教育、経済、外交、安保などの基本的枠組みが二十一世紀の時代の変化についていけなくなっていると、「美しい国創(づく)り」への前のめりの姿勢をあらわにしました。
何のためかが語られぬ
四十分を超える大演説の中で首相が並べ立てた、大企業の競争力を強化する新成長戦略や「再チャレンジ」支援、消費税をふくむ税体系の抜本的な改革、改悪教基法を踏まえた教育改革、海外派兵を本格的に強化する法的基盤の再構築など、いずれも安倍政権が危険な政治を目指していることを示したものです。首相は「スピード感を持って結果を出していく」といいました。国民として聞きながすわけにはいきません。
とりわけ憲法について首相は、「改正についての議論を深める」といい、改憲手続き法の「今国会での成立を期待する」と明言しました。憲法擁護義務のある首相が、施政方針演説で改憲を明言するのはまったく異常です。安倍政権の改憲推進政権としての本質はいよいよ明白です。
タカ派ぶりがぎらつく演説の中で見過ごせないのは、首相の施政方針演説には「戦後レジーム」の見直しといった前のめりの姿勢はあっても、何のためにそれをやるのか、納得できる説明は一切なかったことです。“時代遅れ”という以外、国民の暮らしの実態からも、世界の流れからも、その根拠が示されません。いわば高飛車な押し付けだけで、「説明責任」がつくされていません。
たとえば首相は、成長の実感を「国民が肌に感じることができるよう」にと、新成長戦略を持ち出します。しかし、景気回復が戦後最長といわれるのに国民にその実感がないのは、大企業のもうけが増え続けるだけで、国民の間では貧困と格差が拡大しているためです。首相は「貧困」とも「格差拡大」とも口にしませんでした。これでは、国民の暮らしの実態を見ることさえ拒否しているといわなければなりません。
外交でも首相は「主張する外交」を口にしますが、まず出てくるのは「日米同盟の強化」です。世界が軍事でなく外交で問題を解決するようになり、軍事同盟から平和の共同体へと大きく動いていることへの認識はありません。イラクではアメリカ自体が行き詰まり、撤退の世論が高まっているのに、米軍を支援していく態度を変えようとしません。これでは世界の流れに対しても、背を向けていることになります。
危険に隣り合うもろさ
首相は就任直後の所信表明では、「国民との対話を何より重視します」としていました。ところが施政方針演説は一方的に持論を語るだけで、「対話」は一言もありません。
国民に根拠を語らないのでなく語れない。国民にまともに向き合おうともしない政権に政治のかじ取りは任せられません。「政治とカネ」の問題でも、「政治への信頼が必要」とまったく人ごとのような態度です。内閣支持率が低落するのも当然です。
施政方針演説が示すのは危険ともろさを隣り合わせにした安倍政権の姿です。貧困・格差、憲法・平和・民主主義――どの問題でも国民との矛盾の激化は避けられません。