2007年1月18日(木)「しんぶん赤旗」

ホワイトカラー・エグゼンプション法案提出断念

“残業代ゼロ・長時間労働ノー”

世論と運動が追い込む


 「現段階で国民の理解が得られていない」(安倍首相)として、今国会への法案提出断念に追い込まれた「ホワイトカラー・エグゼンプション」(労働時間規制の除外制度)。サラリーマンを何時間でも働かせて残業代も払わないなど政府・財界がねらう労働法制改悪を許さない国民世論と運動の成果です。(深山直人)


 「与党内から反対されるとは思わなかった。与党が了解した政府の計画通りやってきたのに」

 「残業代がゼロになるという世論があっという間にできあがり、どうしようもなかった」

 提出断念から一夜明けて、法案提出をねらっていた厚労省内からこんな声が聞こえてきました。

 政府は与党を説得しようと、政省令で決めるとしてごまかしていた「年収基準」について、「九百万円以上にすれば、対象者は少なくなる」と突然いいだしました。

 ところが、「勝手に決めてもらっては困る」と省内からも異論が噴出。

 「自滅」(与党議員)同然の形で断念に追い込まれました。

 「労働法国会」といわれる通常国会の重要法案が提出断念に追い込まれるのは異例の事態です。

無視できず

 直接的な動機は「選挙前にサラリーマンを敵に回すな」という自民・公明両党の選挙対策からですが、世論と運動が無視できない広がりを見せているからです。

 全労連や連合など労働者は「長時間労働を助長する」「サービス残業を合法化する」とこぞって反対し、宣伝・署名運動を繰り広げてきました。

 マスコミも社説などで「導入する時ではない」「過重労働の不安消えない」といっせいに批判。NHKの世論調査では反対44%にたいし、賛成はわずか14%。産経新聞調査では反対94%で賛成はわずか6%でした。

 この制度が導入されれば、一定条件のサラリーマンは一日八時間・週四十時間の労働時間規制から除外され、目標とノルマ達成のために、残業代もなく何時間でも働くことを迫られます。

 企業は、労働時間管理に責任を負わなくなるので、サービス残業をさせたといって追及されることもなく、労働者が過労死しても責任を問われることもありません。企業にとってこんなうまみのある制度はありません。

 経団連が求める年収四百万円以上の労働者に導入すると、千十三万人が対象者とされ、一人あたり百十四万円、総額十一・六兆円もの残業代が横取りされてしまいます。

 こんなとんでもない悪法を強引に導入しようとして破たんしたのは当然のことです。

参院選後に

 しかし、「提出断念」といっても、エグゼンプション導入をあきらめたわけではありません。

 与党内からも「参院選後の国会では当然やる課題だ」との声が上がっています。それは、日本とアメリカの財界による強い要望だからです。

 日本経団連は〇五年に「ホワイトカラーエグゼンプションに関する提言」を発表。昨年六月の「日米投資イニシアチブ報告書」では日米財界あげて改めてエグゼンプション導入を求めました。

 財界の要求を受けて政府は〇五年、規制改革三カ年計画で「米国を参考にした労働時間規制の適用除外を検討する」と打ち出し、検討に着手していました。

新たな改悪

 政府・財界がねらう労働法制の改悪はほかにも―。

 サービス残業の温床と批判されている「裁量労働制」(あらかじめ決めた時間だけ働いたとみなす制度)について、対象業務をさらに拡大することや労基署に出す労働時間などの定期報告の廃止が計画されています。

 新たにつくる「労働契約法」では、賃下げなど労働条件の切り下げが会社が一方的に作成する就業規則でできると規定。労働者が反対しても企業に都合のいい契約を押し付けられる仕組みをつくろうとしています。

 さらに、経済財政諮問会議では、社会問題となった「偽装請負」を合法化するために、職業安定法・派遣法の改悪などが検討されています。

 「労働契約法」について厚労省幹部は、「労働時間の問題とは違う。長年の目標であり、今国会で法案を成立させたい」としています。

 しかし、「制度が否定されたわけだから見直さないと」「いったん敵に回した世論を変えるのは簡単ではない」という声も聞こえてきます。悪法をごり押しすればするほど国民・労働者との矛盾は避けられません。

グラフ



一大社会問題として反対運動を呼びかけ

日本共産党

 日本共産党は、ホワイトカラー・エグゼンプションについて、財界が打ち出した当初から反対し、運動してきました。

 導入を求める経団連の「提言」直後の二〇〇五年七月には、党創立八十三周年講演会で志位和夫委員長が、長時間労働をひどくし、残業代とりあげの暴挙だと批判しました。

 〇五年総選挙に向けた「重点公約」でも「『ホワイトカラーエグゼンプション』に反対します」と掲げ、〇六年の第二十四回党大会報告では、労働組合の立場の違いをこえた団結で打ち破ろうと呼びかけてきました。

 同年十二月には、市田忠義書記局長を本部長とする党労働法制改悪阻止闘争本部を立ち上げ、「労働者だけでなく一大社会問題として運動を起こしていこう」と呼びかけました。


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